異世界での異生活

なにがし

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60.嫉妬

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「かしこまりました。」

 ビールとはご存じのビールである。アリアドネは昼間からアルコールを注文した。

「ちょっと、アリ姉様。」
(いいじゃない。痛い思いしたのだから一杯くらい飲んでよ。)

 初めて来た食堂に気分が高揚し、周りを観察した。先程のウエイトレスは勿論、女性の気配が完全になくなっていた。高揚した気分が萎える。

 注文の品がきて、その匂いに気分が高まる。そしてこの世界、初のアルコールだ。
ヤスオは唾を飲み込み、ビールを飲んだ。

──ゴクッゴクッゴク。

 炭酸の泡が喉に絡み、心地よい。最高の気分…のはずだが。

(プハー、うまいわね。さいこー。)

 ヤスオは首をかしげ、納得がいかない表情をしていた。

(どうしたの?)
「味がしません。炭酸の感触はあるのですが、まったく味がないです。」
(えぇ何で、こんなにおいしいのに。)

 アリアドネとヤスオは感覚共有しているが、ヤスオが美味いと思った物でも、アリアドネには合わないという事はあり得る。だが、これまでにそのような事は全くなく、常に2人の意見は一致していた。2人の意見が不一致になるのは初めてで、しかもヤスオの方は味がないという、味覚も違っていた。いや、ヤスオだけ、味覚がなくなっていた。この異常事態にアリアドネは考え込み、ある可能性に気がつく。

(あぁ。ひょっとして。)
「なにか心あたりでも、ありますか。」
(わたしの旦那様さぁ、)
「はい。ディオ様ですよね。」
(お酒の神なのよ。)
「はぁ?」
(仕方ないとはいえ、ヤスオの中に、わたしがいるのは、面白くないみたいね。)
「つまり、ディオ様から嫌がらせを受けていると。」
(もう旦那様ったら、焼きもちなんか焼いて。かわいい。)

──マジかぁぁぁ。

 推測でしかないが、そう考えれば納得である。念のため、別の酒も飲んでみたが結果は同じで、しかも全く酔わなかった。
 ヤスオは大好きなお酒の味を奪われ、酔っぱらうも奪われ、この世界での楽しみの2つを失った。

 昼食を済ませ、アリアドネの勧めで依頼書が貼ってある掲示板を覗いた。

──急募──
イチゴが大量に必要です。高額で買い取ります。C級以上

──大至急──
ジャガイモが不足しています。10個以上持ち込みの方に高値で引きとり。D級以上

 以前聞いた通り、ほとんどが収穫依頼だ。その中で違う依頼を見つけた。

──助けて──
娘が花摘みに行ったきり、帰ってきません。探してください。階級制限なし。

 こういった人探しの依頼書が7枚あり、ほとんどが子供だった。

「全部、小鬼ですかね。」
(人を食らう魔物もいるけど、その被害にあうのは大抵、冒険者。わざわざ討伐されそうになりながら人里まできて、人を食べようとは思わないからね。)
「皆さん、比較的安全な場所に行って、いなくなっていますね。街中でいなくなった人もいるようです。」
(不慮な事故にあったら遺体が見つかる。見つからない場合は、人か小鬼の人さらいしかいないわね。)
「そうか、人間も人をさらいますね。街中は、それですか?」
(さぁ?これまで街の人が子供を、さらった例はないわね。ただ、別の街の商人が子供をさらって、門番に捕まった例はあるけど。)
「早く、見つかるといいですね。」
(残念ながら、この手の依頼は誰も受けないわ。)
「なぜです?」
(裕福な家の子が、護衛も付けずに町の外に出ると思う?)
「報酬の見込みがないからですか。」
(一応、領主から、感謝金が出るらしいけど、微々たるものよ。)

 この気の毒な子供達を救い出してやりたい。幸いヤスオは薬品さえ作っていれば一定の収入は得られる。
それ以外の時間は、ゴブリン討伐に費やそうと決意する。

「あのぉ。」

 背後から声をかけられ、振り向いた。声の主は2人の女性職員で表情を暗くして、たたずんでいた。
1人は昨日受付にいた、ユキナだ。もう1人はおそらくチェンチェンだろう。
ヤスオは2人が謝罪にきたのだと理解した。

「ユキナとチェンチェンかな。2人のことは怒ってないから、気にしなくていいよ。」

 ヤスオの察しの良さに、2人は驚いた表情で、互いの顔を見つめ合った。

「では私達、殺されなくて済むのですか?」

──殺す?俺が?君達を?
「何のことか分からないけど、君達に手を出したら、シンシアさんとイーシアさんに、それこそ殺されてしまうよ。」

『ありがとうございます。』

 2人は嬉しそうに、深く頭を下げたら、事務室に戻っていった。

──俺は今、何をしたから、お礼を言われた?
(昨日のハッタリの効果テキメンね。ユキナにはヤスオが恐ろしい人に見えたのね。)
「俺、色んな理由で女性に怖がられていますけど、あの2人よく俺の傍まで来られましたね。」
(冒険者組合の事務員だもん。どこよりも正しい情報を持っているから、ヤスオの事、変態とは思っていないわよ。)

 その後、魔石の換金を行うか考えたが、出発がますます遅れるので、今回は見送ることにした。


 西の森。レスボンの街の西側に位置する森で、北門付近から南門付近まで縦長に伸びた大きな森だ。
森には、西門を通って行くのが一番近いが、西側には森しかなく道がない。人の往来がなく、魔物が多く出るので緊急時以外、閉ざされたままだった。

 ヤスオは森の北から侵入し、上下に移動して南へ抜ける計画を立てていた。
北門を抜けると、しばらく道なりに歩く。すると緩やかに右に曲がる部分に差しかかる。
そこを左に抜けて道から外れる。半里ほど歩くと西の森に到着する。

 ヤスオが西の森に到着したのは夕刻になり始めた頃、森の木々が日差しをはばみ、少し薄暗くなっていた。
アリアドネの案内で、もっとも近い薬草が群生する場所に移動して薬草採取を行う。
ここには、今までの場所では採れなかった希少種、ラン茸やランシャク花があり、この二つがあれば、より高性能な薬品が作れる。

「これは、魔石。」

 魔石を拾った。大きさからゴブリンの物だとわかる。誰かが回収し忘れた物だろう。

「ここらでも、小鬼は出るのですね。」
(いつ出てきても、おかしくない状況だからね。そろそろ拠点に行きましょう。)

 西の森には拠点と呼ばれる場所が多く点在していた。

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