異世界での異生活

なにがし

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69話 そして誰もいなくなった

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 袋から何も出なくなった。袋の中を覗き、何も残ってないのを確認する。つぶれた袋が消えると、膨らんだ袋が出現した。そして、再び紐をほどくと、ひっくり返す。

──ジャラジャラジャラ…

「以上です」

 器の中央に魔石の山ができていた。それを手で整地すると、器の底が見えなくなり、もう少しで、満杯になる量だった。つぶれた袋の中を覗いて何もないのを確認し、収納する。

「……。お前、これを俺に数えろと」
「お仕事、お仕事」
「やっぱり、嫌みじゃねぇか」

 フランツは、渋々器を回収し、魔石を数え始める。奥から別の職員が出てきてフランツを手伝った。

「次の器を、出してよ」
「まだ、あるのか?」
「骸骨があるよ」
「大きい方がいいのか?」
「そうだね」

 大きい器を差し出されると、ヤスオは巾着袋を出現させ、紐を解きひっくり返す。すると小石サイズの魔石がコロコロと出てくる。

──コロ、コロ、コロ…コロン。

 器の底は見えるが、小さい器では入らない量だ。

「これで、終わり」

──ハァァァァァァ。

 フランツは大きな溜め息をついて、それを回収した。そして、応援に来ていた職員と何やら話すと、その職員は数えるのをやめ、魔石の入った器を奥に運んで行った。

「少し時間が、かかる。終わったら呼ぶから適当なところで待機してくれ。覚えていろよ」

 そう言うと、閉鎖と書かれた看板を置き、骸骨の魔石を奥に運んで行った。
 適当なところといっても、人が多くて、くつろげる場所がない。閉鎖されたことだし、その場で待つことにした。そして振り返り、受付カウンターに体を預けた。

「あれ?」

 後ろにいた連中が、いなくなっていた。周りで失笑していた連中も、頭を下げ背を向けて、ヤスオと目を合わそうとしない。ヤスオはキョトンとして、現状を把握しようと、頭を左右に振り、いなくなった男たちを探していた。

「アァ、ハハハハハハハハ」

 受付にいた、イーシアが腹を抱え笑い転げた。もはや、仕事どころではない。横にいたシンシアも、イーシアをたしなめる事なく笑いながら仕事をしていた。ヘーカーは下を向き目頭を押さえていたが、肩が上下に大きく揺れ、明らかに笑っていた。ダンやガラも、壁に寄りかかり腹をおさえて、声が出ぬよう必死に笑いをこらえていた。

 あの時、ヤスオが巾着袋を出した瞬間、周りは笑えなくなっていた。ヤスオが魔法使いだと誰もが理解したからだ。そして、魔石が一つ一つ器に入るのに比例して、男達の血の気が引いていく。顔色が白く変わり、さらに青に変わると、振り返り気づかれぬよう静かに立ち去った。こうして、1人、また1人と去っていく。最後に強面こわおもての男が残り、周りに誰もいないのに気づくと、その男も音を立てぬよう静かに退散した。
 屈強の男達が身を縮め、音を立てぬよう忍び足で立ち去る様子を見ていた五人は、笑いを抑えることができなかった。

「なんだ、そんなところで待っていたのか」
「この人込みの中、どこで、くつろげというのだ」
「うん。それもそうか」

 フランツが、計算を終え、受付に戻ってきた。

「ほらよ、魔石証明書だ。まったく面倒かけやがって、次は俺がいないときに頼むよ」
「悪かったよ。手数をかけたな」

 ヤスオは魔石証明を受け取り、前回の討伐証明と受取証明を用意して、受付の列の最後尾に並んだ。

「あのぉ、G級ヤスオさん。さっきの魔石換金には度肝を抜かれたよ。それで、あれがどのくらいになるか興味があるから、先にいってくれないか」

前の男が順番を譲ってくれた。すると、

「やぁ、あんたすごいなぁ。俺も知りたいから先に、行ってくれ」

と、次々と順番を譲ってくれて、気づけば先頭に立っていた。

「次の方、どうぞぉぉ」

 そう言ったのは、イーシアの方だった。声を聞いたシンシアは舌打ちをし、不機嫌な表情になる。前に立っていた男がシンシアの表情に気づき、何かしでかしたのかと勘違いして萎縮していた。
 ヤスオはイーシアの前に立つと、イーシアは立ち上がり深々と頭を下げ、挨拶をした。

「この度は、あなた様の担当をさせていただきます、イーシアと申します。よろしくお願いいたします。それで、今回のご用件を、お伺いいたします」

 イーシアのマニュアル通りのセリフにヤスオは鳥肌がたち、何かあるのかと怖くなった。イーシアは、マニュアル通りのセリフを、あえて大声で言う事で周りの関心を引こうと狙っていた。

「換金をお願いします」
「かしこまりました。では、証明書と冒険者証の提示をお願いいたします」

 言われる通り、証明書と冒険者証を提出した。

「げっ、討伐と受取証明もあるのかよ。面倒だなぁ。…失礼いたしました。しばらくお待ちください」

 イーシアは証明書を持って、奥の事務室に消えていく。


「次の方、どうぞ」

 シンシアの、このセリフを3回聞いたが、イーシアはまだ、帰って来てなかった。昼もそろそろ終わる頃だし、マリナが起きて寂しがっているのではと心配になる。それ以上に、待っている時間の方がはるかに長いので、待ち疲れていた。

 イーシアが四角いおぼんを持って事務所から出て来た。おぼんの上には、何かが詰められた巾着袋と書類が置いてあった。イーシアの姿を確認した冒険者達が続々とヤスオの後ろに集まってきた。シンシアの前に立っていた冒険者も上の空になり、イーシアを見つめ、シンシアの話に耳を貸さなかった。シンシアは仕事の継続が不可能になったので、肘杖をついて諦め顔で、イーシアの方を見た。
 イーシアはおぼんをカウンターの上に置くと、なぜか椅子を後ろに追いやり、立ったまま接客を始めた。

「お待たせしました。まずは、引取り品ですが、ウリ坊と猪と角ウサギの3点で革が6千、骨が2千、内臓が千2百です。処理手数料が一律2千ですので3点で6千引かせていただきます。合計、3200ドラクです。よろしいでしょうか?」

 イーシアは、ヤスオにではなく周りに顔を向けながら大声で話した。このやり過ぎパフォーマンスに、シンシアは呆気にとられ、どこか遠い場所に焦点の合わない視線を送った。
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