異世界での異生活

なにがし

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74.鍛錬

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(ヤスオ、寝ること、できないね。)

「大変な事になりました。あんなにたくさん、どうしましょう。とりあえず、小瓶の在庫も大量にありましたから、貰っては、きましたが、そんなに調薬する暇がありません。」

 その後、福屋に寄って子供用の服を買う予定だったが、陽も暮れたので翌日に延期した。
 自宅まで、もう少しのところで、自宅前に2人の人影が見えた。人影の1つは小さいので子供と分かる。大人の方がこちらに気付くと、深々と頭を下げた。
 何事かと自宅に急ぎ、詰め寄る。

「ソフィアさん。どうしたのですか?」
「ヤスオさん、この度は娘がお世話になりました。」
「お気になさらず。いつから待っていたのですか?どうぞ中にお入りください。」

 ヤスオは慌てて鍵を開け、家の中に案内した。ソフィアもリリーも憔悴しきった様子で、ただ事でないように見えた。聞けば、昼過ぎから待っていたようで、2人とも疲れ果てていた。すぐに寛いでもらい、夕食の準備をし、一緒にするようお願いした。ソフィアは遠慮したが、ヤスオはリリーを人質に夕食を食べさせ、ソフィアを観念させた。あれから、4日しか経ってないのに、2人の憔悴ぶりは尋常ではなかった。

「この度は、多大なる御恩を受けながら、このような施しを承り、なんとお礼を申し上げたらよいか。誠に、ありがとうございます。」
「ソフィアさん。そのような、かしこまった言いようは、必要ありません。それで、本日のご用件は?」

 ソフィアは、娘イリスの件のお礼をしたくて訪ねたそうだ。ただ先日、失業したから金銭的なお礼ができないので、そのお詫びを兼ねての訪問だった。
 ソフィアが失業したのは、イリスが帰って来ないので、数日お休みを頂いたからで、突然、解雇を告げられた。しかも、休みで損害が出たと因縁をつけ、その日までの給金を支払わなかった。その為、節約を余儀なくされ、自分の食べる量を減らしていたらしい。

 その就業先がロスリコス商会で、マリナの実家だ。

──また、あの夫婦か。

 これからの生活もままならぬ状況で、これからどうしたらよいか、ソフィアは嘆いた。どうにかしてあげたくて、なんとか知恵を絞り出そうと考えた。

(この、エルフね。)

──エルフ?

 エルフと言えば、あの森の妖精。ヤスオはテンションが上がり、興奮した。ましてや、あの憧れの人に似たこの方が、エルフ?だったら、憧れの人もエルフだったのでは?と勘違いする。

「ちょっと、失礼します。」

 立ち上がりソフィアに背を向け、アリアドネに話しかける。

「エルフとは、どういうことです?」
(言葉通りよ。このは、エルフ族よ。)
「ですが、耳が尖っていません。」
(髪で隠れているけど、先端が尖っているでしょ。)
「もっと、ピーンと伸びているのではありませんか?」
(それは、半宇宙人スポックでしょ。エルフじゃないわよ。)
「エルフだとしたら、魔法が使えませんかね?」
(それよ。聞いてみて。)

 席に戻り、魔法は使えないのかと聞いてみた。その質問に、ソフィアは自らがエルフ族だと知られての質問と悟り、簡単な身の上話をした。
 ソフィアの両親は隣の国、大シン帝国に住んでいた。その国の少数民族への差別に耐えかねて、この国エイシア王国に密入国した。そして、この街に定住しソフィアが生まれたのだが、密入国が知られ両親は逮捕され強制送還された。ソフィアはこの国の生まれなので、国民と認められ逆に出国が認められず、今は廃止された孤児院に預けられた。そのような生い立ちなので、教育機関に通った経験もなく、孤児院からも、読み書き計算と生活魔法を習ったくらいだと語った。

(思い出した。この、わたしの娘だ。)
「じつの娘を、思い出さないでくださいよ。」

 100程前、このエイシア王国は、大シン帝国とククレ王国の侵攻を受けた。戦いは10年程続き、両国が撤退する形で決着がついた。この戦争で、エイシア王国は疲弊し、特に両国と激しく戦った、レスボンの街は目を覆いたくなるような惨状だった。アリアドネはこの惨状を嘆き、炊き出しをするなど街の復興を手伝った。さらにこの街に多く生まれた戦争孤児を受け入れるため、教会の孤児院を支援した。だが、教会では受け入れられない人数の孤児がいたので、新たに孤児院を設立する。そうして新しく4つの孤児院が設立され、それらを統括するためアントの夢を設立した。最大で500人程の孤児が滞在し、これまでに800人以上が成人した。今では、孤児の数が減ったため、孤児院は閉鎖され、教会のみとなっていた。

 ソフィアはその戦争終結後、10年くらい経って入院した孤児らしい。内気でおとなしく、甘える事を全くしない子だったそうだ。

──ってことは、ソフィアさんは80歳オーバーなの。見えねぇ。さすがエルフ。

 ヤスオは頭を左右に振り、話を本題に戻す。

「失礼しました。それで、生活魔法は、何が使えますか?」
「運搬、回転、散水、の3つです。」
(この、補助系魔法の素質があるかも。わたしが何を考えているか分かるわよね。)

 ソフィアに今から魔法を覚えないかと誘った。了承したので、袋を用意し、補助魔法を教える。登録魔法と収納魔法は、比較的簡単に覚えた。ただ、ヤスオの時と比べると3倍の時間はかかっていた。解放魔法も、すぐに覚えたが、どうしてもすべて出してしまい、個々に出すことができなかった。これを宿題にして、いよいよ調薬魔法を教える。
 これは、とても難しい魔法のようで何度も挑戦したが、1度も成功することなく、トイレに駆け込んだ。ヤスオは、リリーを自分のベッドに寝かしつけ、今夜は泊まるよう指示した。ソフィアは、ヤスオに逆らえず了承する。そして、魔力が回復するまで、薬草について教え、回復すると挑戦。それを何度も繰り返した。

「できました。」

 ついに、ソフィアは調薬魔法に成功した。それは、陽が昇り始めた頃だった。
ヤスオはソフィアに休むよう勧めると、そのまま机の上に顔を伏せた。ヤスオが朝食の支度を始めると、寝息が聞こえてくる。静かに近づき、ソフィアの寝顔を覗く。目元口元が緩み、鼻の下が伸び始める。

(おい。変な事、考えてないでしょうね?)

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