異世界での異生活

なにがし

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80.謝礼

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「いえ、今なら分かります。わし達は、落ち込むソフィアに、鞭を打つようなことしていたのですね。」

 ソフィアは、マーチャントの父の時代から60年以上務める古参の従業員。取引先からも、頼られ評判が良かった。マーチャントが後を継いでからも、変わらず勤務しマーチャントを助け、みんなが頼っていた。だが妻のキャロルは、何十年経っても変わらぬ美貌と、自分より従業員から頼られているのが気に入らない。さらに、出自が孤児であるのも嫌った。その為、キャロルは常に不機嫌で、夫婦間はギクシャクし、従業員は怯えながら勤務していた。マーチャントはキャロルが妻である以上、いつかソフィアには辞めてもらうしかないと考えていた。そんな中、ソフィアが休暇を取り、取引先が心配して問い合わせてきた。キャロルはこれをクレームだと言い張って、独断で解雇してしまった。その日以降、キャロルの機嫌がよくなり夫婦間や商会内の雰囲気が良くなったので、良い機会で仕方なかったと考えていた。だが、その考えの間違いに気が付いた。長年勤めてくれた従業員に対して、あまりにも酷い仕打ちをしていたことに気付き、椅子から崩れ落ち、床にひれ伏して涙した。

──わしは、どう詫びたらいいのか。

「ソフィアさんには、新しい仕事を用意したので、再び雇い入れる必要はありません。ただ、あなた方はソフィアさんにお詫びをする必要があります。」
「はい。それは勿論。何をすればよいですか?」

 ヤスオの言葉に、救われたかマーチャントは立ち上がり、許されるのなら何でもする、と言いながら、ヤスオに詰め寄った。

──うぇぇぇぇ。

 鼻水だらけの顔が近くにきて引いたが、突き飛ばす訳にもいかず、耐えるしかなかった。

「まずは、娘のイリスさんに手を合わせて下さい。そしてお詫びの気持ちを伝え、それを形にしたものに、これまで働いてくれたお礼も添えて、渡してください。」
「どのくらいすれば、良いでしょう?」
「今のソフィアさんは、それほど困っていませんから、謝罪の気持ちさえ伝われば、気持ちだけでも、許して頂けますよ。ですから、あなたの気が済むくらいでよいと思います。」
「承知しました。それで、あなた様には、どのようにすれば、よろしいでしょうか?」
「まず、お礼を直接、俺に渡しては効果がありません。冒険者組合を通して俺の手元に届くようにした方が効果的ですよ。」
「なるほど。それで、お幾らくらい、すればよいでしょう?」
「白金貨で100枚くらいすれば、十分です。」
「そんなに、必要ですか。」

 今回の件で商会の評判は低下した。それは、いずれ商会の存亡の危機に成るかもしれない。だが逆に今、悪い意味だが最も注目を浴びている。このタイミングで、破格の報酬を出したら、あっという間に街中に広まり、とてつもない宣伝効果になる。つまり、この金額は娘の命とは別に、商会の宣伝費も含まれるので、それほど高くはないと説明した。

 マーチャントは懐から、そろばんを出し、パチパチとはじき始めた。

「確かに、その金額で商業組合と冒険者組合、さらには取引先の信用を取り戻せるのなら安いものです。」

 マーチャントはヤスオに何度も礼を言い、アリアドネ邸を後にした。ヤスオは家の外まで付き添い、手を振りマーチャントを見送った。

「アリ姉様。よく悪知恵が働きますね。」
(悪知恵とは、失礼ね。お互い損をしない方法を考えただけじゃない。)
「結果、莫大の金子が手に入ります。」
(アントの夢に、入れなさいよ。)
「承知しております。」

「なかなかの手際だな。大儲けではないか。」

 すぐ後ろから、聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると、腕組みをし、家の壁に寄りかかった騎士団長マチルダがいた。

「人の家に聞き耳を立てていたのですか。お世辞でも、いい趣味とは言えませんね。」
「すまんな。用があってきたのだが、先客がいたので、ここで待たせてもらった。」
「どうぞ中へ。」

 ヤスオの案内で家の中にマチルダは入り、台所の椅子に座ろうとテーブルに近づく。テーブル上は、粘り気のある水分で満たされていた。表面には大量の気泡が存在し、明らかにただの液体ではない。この悲惨な状況にマチルダは思わず、声が出ていた。
「ウゲっ。」

「ちょっと待って下さいね。今、掃除しますから。」

 これを掃除させられるのなら、あれくらいの報酬は当然かもと思えた。とりあえず、壁に寄りかかり、掃除が終わるのを待つ。

「先程、南門の城壁から狼煙が上がるのが見えた。あれは、そなたが関係しているのか?」
「ああ、チャーフィーさん達の出撃中止の狼煙ですよね。」
「やはり関係していたか。あ奴に会って出撃中止になったと言う事は、まさか?」
「子供達はみんな無事ですよ。」

 ヤスオは掃除を終わらせ、まずは掃除に使った雑巾は速攻、捨てた。
そして、マチルダに座るよう勧めた。結局、マーチャントにはお茶が出せなかったが、今回は湯が沸いたのでお茶を用意する。マチルダが腰を下ろすと、目の前にお茶と菓子を差し出す。

「マチルダさんは、ミノタウロス討伐には、いかないのですか?」
「色々、知っているのだな。衛兵団長あやつに後れを取ってしまい治癒小薬が不足している。今のままでは、出撃できない。」
「明日、昼からでもアントの夢に行けばいいですよ。」
「何故だ?確かに商業組合の在庫がなくなれば、アントの夢しかないのだが、今日行ったら在庫切れだったぞ。」
「明日が、納品日だからです。俺はアントの夢の関係者だから分かるのです。」
「本当か?だとしたら助かる。貴重な情報に感謝する。ときに、G級ヤスオ殿。なにか食べ物はないか?腹が減って死にそうだ。」

 今朝、領主に怒られたショックと特命を受けての準備で、一日何も喉を通らなかった。だが時間が経てば、さすがに、お腹が空いてくる。ヤスオは貴族令嬢に何を出していいか分からず、とりあえず一番高価なオクレツを出した。

(ヤスオォォォ。それ、ダメェェェェ。)

 アリアドネの悲痛な叫びに、耐えながら、串焼きも足して簡単な食事会が開かれた。
ヤスオはヤギ肉を頬張りながら本題に入る。

「それで、今日はどのようなご用件で?」


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