異世界での異生活

なにがし

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81.謝罪

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「それで、今日はどのようなご用件で?」

 貴族令嬢らしく美しい姿勢で優雅に食事を始める。だが、その速さはすさまじく食材を口に入れる手が見えない。気づけば、マチルダの頬はドンドン膨らみ一杯になると、しぼんでいく。

「先日の無礼を詫びに来た。まさかそなたが、このような方法でわたしを追い込むとは思わなかった。」

──詫びに来たぁぁ?

 手ぶらで訪問し、相手のおごりで口の中に詰め切れないほどの食べ物を頬張りながら、愚痴まで吐いて、これのどこが詫びなのだろうか。貴族令嬢様のお詫びを、ヤスオは理解することはできなかった。

「とても詫びているようには見えませんが、先日マチルダさんが、俺を打ちのめした件でしたら、気にしていません。」
「では、何に怒って、あのような嫌がらせをするのだ。」
「あの後、何が起こったか、ご存じないようですね。」
「なに?」

 ヤスオはあの後、騎士団に暴行を受け、道端に捨てられたことを話した。マチルダの食事の手が止まり、顔から血の気が引き青ざめる。しばらく放心したら、頭を左右に振り、立ち上がり激昂した。

「嘘だぁ。それは百人斬りの刑ではないか。わたしは部下に指示していないし、部下からも報告を受けていない。」
「ほー、俺が嘘をついていると言いたいのですか?」
「その通りだ。わたしは、そなたより部下を信じる。」
「では、もし俺が言っていることが事実だとしたら、どうしますか?」

 ヤスオとの睨み合いがしばらく続く。少し時間が経った事で落ち着きを取り戻し、椅子に腰を据え、食事を再開する。

「先程のそなたの独り言から察するに、そなたにはアリアドネ様が宿しておるのだろう。そう考えれば、そなたやお館様の態度にも納得がいく。」

──やはり、聞かれていたか。

「だとしたら、わたしが、行った事は天罰に匹敵する。考えたくもないが、もし百人斬りの刑を、そなたに行ったのなら、城を更地にされても文句は言えない。」

 話している言葉の内容とは裏腹に、マチルダは空になった皿をヤスオに突き出す。ヤスオは皿を受け取り片付け、新たに唐揚げを入れた皿をマチルダに差し出す。マチルダはそれを頬張り始める。本当によく食べる。メンガンダル並みの食欲だ。

「だからこそ、それを今、認める訳にはいかない。確実な証拠が出るまで認める訳にはいかない。だがもし、確実な証拠が出たのなら、どうか、どうかこの身の命一つで、怒りを収めていただきたい。」

 動揺したか、先程の美しく優雅な食事は鳴りをひそめ、両手で唐揚げをつまみ口に放り込む。鼻と瞳を赤く腫らし、したたり落ちるものを、こらえながら、ガツガツと食べ進めていた。

「別にマチルダさんの命が、欲しい訳ではありません。いやむしろ今回の件で、誰かが死ぬのは、認めません。俺が求めるのは、再戦です。もう一度、百人斬りの刑を俺にしてほしい。」
「そなた、正気か?」
「マチルダさん。前回、剣で戦いましたが、俺は剣士ではありません。魔女宿る魔法使いです。次は魔法を解禁し本気でいきます。皆殺しです。覚悟してもらいます。」
「……承知した。」

 そう言いながら、空になった皿を突き出す。それを受け取り、山盛りのフライドポテトを入れ、差し出す。マチルダはそれを優雅に食べ進めた。
 こうしてマチルダの謝罪(?)は、ヤスオには受け入れられず、面会の約束を取り付けることができなかった。マチルダはその後も食べ続け、アリアドネ邸の食料は底をついた。

「おはよう、ございます。」

 翌朝、ご近所さん達が挨拶を始めた頃、ヤスオは目を覚ました。この2日間少ししか寝られなかったので、今日はゆっくりして買い物を楽しむことにした。と言うのはタテマエで、前日マチルダに大量の食料を消費させられ、食料補充を余儀なくされていた。

(まずは、冒険者組合で老婆の引き渡し。その後、アントの夢に行って昨夜、調薬した薬を納品しましょう。福屋に寄ったあとは、食料調達。それだけこなしたら、後は家でゆっくりしましょう。)

 今朝はゆとりがあるので、珍しくご飯を炊き、みそ汁と目玉焼きを作った。

(こんなにゆっくりとした、朝ごはんも久しぶりね。やはり、食事は暖かい方がいいわね。)
「そういえば、この世界に米や味噌があるのは不思議ですね。」

 この世界は冬がないので、食べ物を保存する必要がない。サーチェのように、腹が減れば収穫して食べればいい。なのに、長期保存ができる味噌や米がある。稲から収穫後、乾燥、もみすり、精米と時間と手間と専用の道具がいる米や、完成まで数か月から1年かかる味噌が存在するのが、ヤスオは不思議だった。

──いったい、誰が何のために考えたのだろう?

(400年前はなかったみたい。それが原因で、他民族の国家が滅んだらしいのよ。)

 400年前の戦いで悪魔族が優位に戦いを進められた一番の原因は食料と睡眠だった。悪魔族は戦いで、殺した相手を食べていて、食事をしながらの戦闘が可能だった。人族は食事のための調理や時間が必要で、戦いながら食事をとるのは不可能だ。その為、悪魔族は腹が減れば全軍で攻撃を仕掛け、人族は食事のため、部隊を分けて、交代で戦うしかなかった。さらに、悪魔族側はアンデットやバンパイヤなど夜活動する者が、多くいて一日中戦う事ができた。人族は睡眠のため、さらに部隊を分ける必要があった。
 唯一、人族が優勢に戦えたのが籠城戦だった。人族が作った城壁を、悪魔族はなかなか超えられず、城壁から落ちてくる矢や火、石、熱湯などに手を焼いた。さらに悪魔族には、梯子などを作る技師もいないので、城壁を超えるのは空を飛べる悪魔族だけ。それらが門を開けるのを待つしかなかった。しかし、門を開けるには地上に降りなければならない。それを人族が見逃すはずはなく結果、突破できずにいた。
 だが、悪魔族は無理に城壁を超える必要はなかった。1週間も包囲すれば、収穫できない街はたちどころに食料難に陥り、奪い合いが始まり、餓死者が出始める。結果、玉砕覚悟で突撃するしか、なくなるからだ。

 そんな状況を打破したのが、英雄ダンジョウだった。

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