異世界での異生活

なにがし

文字の大きさ
81 / 117

81話 貴族令嬢の謝罪は不可解

しおりを挟む
「それで、今日はどのようなご用件で?」

 貴族令嬢らしく美しい姿勢で優雅に食事を始める。だが、その速さはすさまじく食材を口に運ぶ手が見えない。気づけば、マチルダの頬はドンドン膨らみ一杯になると、しぼんでいく。

「先日の無礼を詫びに来た。まさかそなたが、このような方法で私を追い込むとは思わなかった」

──詫びに来たぁぁ?

 手ぶらで訪問し、相手のおごりで口の中に詰め切れないほどの食べ物を頬張りながら、愚痴まで吐いて、これのどこが詫びなのだろうか。貴族令嬢様のお詫びを、ヤスオは理解することはできなかった。

「とても詫びているようには見えませんが、先日マチルダさんが、俺を打ちのめした件でしたら、気にしていません」
「では、何に怒って、このような嫌がらせをするのだ」
「あの後、何が起こったか、ご存じないようですね」
「なに?」

 ヤスオはあの後、騎士団に暴行を受け、道端に捨てられたことを話した。マチルダの食事の手が止まり、顔から血の気が引き青ざめる。しばらく放心したら、頭を激しく左右に振り、立ち上がり激昂した。

「嘘だぁ。それは百人斬りの刑ではないか。私は部下に指示していないし、部下からも報告を受けていない」
「ほー、俺が嘘をついていると言いたいのですか?」
「その通りだ。私は、そなたより部下を信じる」
「では、もし俺が言っていることが事実だとしたら、どうしますか?」

 ヤスオとの睨み合いがしばらく続く。少し時間が経った事で落ち着きを取り戻し、椅子に腰を下ろすと食事を再開する。

「先ほどのそなたの独り言から察するに、そなたにはアリアドネ様が宿っておるのだろう。そう考えれば、そなたやお館様の態度にも納得がいく」

──やはり、聞かれていたか。

「だとしたら、私が行った事は天罰に匹敵する。考えたくもないが、もし百人斬りの刑を、そなたに行ったのなら、城を更地にされても文句は言えない」

 話している言葉の内容とは裏腹に、マチルダは空になった皿をヤスオに突き出す。ヤスオは皿を受け取り片付け、新たに唐揚げを入れた皿をマチルダに差し出す。マチルダはそれを頬張り始める。本当によく食べる。メンガンダル並みの食欲だ。

「だからこそ、それを今、認める訳にはいかない。確実な証拠が出るまで認める訳にはいかない。だがもし、確実な証拠が出たのなら、どうか、どうかこの身の命一つで、怒りを収めていただきたい」

 動揺したか、先ほどの美しく優雅な食事は影をひそめ、両手で唐揚げをつまみ口に放り込む。鼻と瞳を赤く腫らし、したたり落ちるものを、こらえながらガツガツと食べ進めていた。

「別にマチルダさんの命が、欲しいわけではありません。いやむしろ今回の件で、誰かが自害するのは認めません。俺が求めるのは再戦です。もう一度、百人斬りの刑を俺にしてほしい」
「そなた、正気か?」
「マチルダさん。前回、剣で戦いましたが俺は剣士ではありません。魔女宿る魔法使いです。次は魔法を解禁し本気でいきます。皆殺しです。覚悟してもらいます」
「……承知した」

 そう言いながら、空になった皿を突き出す。それを受け取り、山盛りのフライドポテトを入れ、差し出す。マチルダはそれを優雅に食べ進めた。
 こうしてマチルダの謝罪(?)はヤスオには受け入れられず、面会の約束を取り付ける事ができなかった。マチルダはその後も食べ続け、アリアドネ宅の食料は底をついた。

「おはよう、ございます」

 翌朝、ご近所さん達が挨拶を始めた頃、ヤスオは目を覚ました。この2日間ほとんど寝られなかったので、今日はゆっくりして買い物を楽しむ事にした。というのはタテマエで、前日マチルダに大量の食料を消費させられ、食料補充を余儀なくされていた。

(まずは、冒険者組合で老婆の引き渡し。その後、アントの夢に行って昨夜、調薬した薬を納品しましょう。福屋に寄ったあとは、食料調達。それだけこなしたら、あとは家でゆっくりしましょう)

 今朝はゆとりがあるので、珍しくご飯を炊き、みそ汁と目玉焼きを作った。

(こんなにゆっくりとした、朝ごはんも久しぶりね。やはり、食事は暖かい方がいいわね)
「そういえば、この世界に米や味噌があるのは不思議ですね」

 この世界は冬がないので、食べ物を保存する必要がない。サーチェのように、腹が減れば収穫して食べればいい。なのに、長期保存ができる味噌や米がある。稲から収穫後、乾燥、もみすり、精米と時間と手間と専用の道具がいる米や、完成まで数か月から1年かかる味噌が存在するのが、ヤスオは不思議だった。

──いったい、誰が何のために考えたのだろう?

(400年前はなかったみたい。それが原因で、他民族の国家が滅んだらしいのよ)

 400年前の戦いで悪魔族が優位に戦いを進められた一番の原因は食料と睡眠だった。悪魔族は戦いで、殺した相手を食べていて、食事をしながらの戦闘が可能だ。人族は食事のための調理や時間が必要で、戦いながら食事をとるのは不可能だ。そのため、悪魔族は腹が減れば全軍で攻撃を仕掛け、人族は食事のため、部隊を分けて交代で戦うしかなかった。さらに、悪魔族側はアンデットやバンパイアなど夜活動する者が多くいて、一日中戦う事ができた。人族は睡眠のため、さらに部隊を分ける必要があった。
 唯一、人族が優勢に戦えたのが篭城戦だった。人族が作った城壁を、悪魔族はなかなか超えられず、城壁から落ちてくる矢や火、石、熱湯などに手を焼いた。さらに悪魔族には、はしごなどを作る技師もいないので、城壁を超えるのは空を飛べる悪魔族だけ。それらが門を開けるのを待つしかなかった。しかし、門を開けるには地上に降りなければならない。それを人族が見逃すはずはなく結果、突破できずにいた。
 だが、悪魔族は無理に城壁を超える必要はなかった。1週間も包囲すれば、収穫できない街はたちどころに食料難に陥り、奪い合いが始まり、餓死者が出始める。結果、玉砕覚悟で突撃するしか、なくなるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

エクセプション

黒蓮
ファンタジー
 血筋と才能に縛られた世界で【速度】という、それ単体では役に立たないと言われている〈その他〉に分類される才能を授かったダリア。その才能を伯爵位の貴族である両親は恥ずべき事とし、ダリアの弟が才能を授かったと同時に彼を捨てた。それはダリアが11歳の事だった。  雨の中打ちひしがれて佇んでいたダリアはある師に拾われる。自分を拾った師の最初の言葉は『生きたいか、死にたいか選べ』という言葉だった。それまでの人生を振り返ったダリアの選択肢は生きて復讐したいということだった。彼の選択を受け入れた師は彼にあらゆることを教えていく。  やがて師の元を離れる際にダリアはある紙を受け取り、それと同時に再度の選択肢を投げ掛けられる。彼が選ぶ復讐とは・・・彼が世界に及ぼす影響とは・・・

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...