異世界での異生活

なにがし

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82話 老婆を引き渡す

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 そんな状況を打破したのが、英雄ダンジョウだった。前世の知識から米と味噌と漬物を考案し広めた。そして、街道整備に重点を置き、それまで馬の背中に乗せて運んでいた荷物を、荷車を引かせて運ぶことができるようになり、1度に大量の荷物が運べるようになった。物流がよくなり大量の武器や食料が備蓄できるようになったため、長期の籠城戦が可能になった。さらに街道整備は、戦闘に参加できない民を、あらかじめ逃がす事も容易になり、籠城時の口減らしにも貢献した。

 そんな話をアリアドネは語り続け、出かけるのが遅れてしまった。冒険者組合に到着したのは受付開始から一刻いっとき以上過ぎた頃だった。その時間帯は、とても空いていて、魔石と解体の受付には誰もなく、受付ではチェンチェンが欠伸をしていた。

「やぁチェンチェン、暇そうだね。というか、眠そうだね」
「いらっしゃいませ。ヤスオ様。本日はどのような、ご用件でしょうか?」

 言葉こそ丁寧だが、気持ちが全くこもってない。さらに、だらけた雰囲気を正すことなく、欠伸で出た涙を拭うこともせずに対応する。

「また、一人助け出したので、引き取って欲しいのだけど」

 その言葉に、チェンチェンは目を見開いて固まる。そして、自身の頬を両手で2度叩くと慌てて立ち上がる。

「承知しました。しばらく、お待ちください」

 帽子を被っているわけではないのに、なぜか挙手をした敬礼を示し、事務室に入っていった。しばらくすると、アガサが事務室から顔を覗かせ、ヤスオの様子を見た。そして、ヤスオに一礼すると事務室に引っ込み、代わりにチェンチェンが出てきた。

「ただいま、準備しておりますので、あちらでお待ちください」
「あちら?」
「はい。準備が整い次第お呼びいたしますので、お待ちください」

 チェンチェンが手で指し示したのは、食堂の椅子だった。言われた通り、食堂の椅子に腰を下ろす。食堂もこの時間は空いていて、一組の冒険者パーティーが、飲み物を飲みながらくつろいでいた。その四人組の女性冒険者は、いや女性と呼ぶのは少し早い、若い女子冒険者は、ヤスオに気づくとテーブルに立てかけた剣を手に取り、鋭い眼光を送ってきた。アリアドネはその四人のうち一人に見覚えがあり、元気そうな姿に安堵していた。
 従業員専用扉から、ユキナが丸いおぼんを持って出てきた。どこか幼さの残る顔立ちの彼女は、少し頬を赤らめ緊張しているようだった。

「どうぞ、お口に合えばよいのですが」

 ユキナは白く濁った液体が入ったコップをヤスオの前に置いた。すると女子冒険者の一人が、ヤスオに駆け寄り剣を抜く構えを見せた。

「ユキナに少しでも触れたら、斬る」

──またかよ。

 ヤスオはテーブルの上で頭を抱え、この誤解をどう解こうかと思案した。でもそれ以前に、身体全体をブルブルと小刻みに震わしながら、構えているのが気になる。そんなに不安定な状態で剣を抜いても、肉を斬るような踏み込みができず、はじき返られてしまう。どう見ても素人に毛が生えた程度で、経験不足が手に取るように分かる。その冒険者と今のヤスオとでは勝負にならない。だが本気でユキナを心配しヤスオに剣を構えた心優しい女の子と、穏便に済ます方法はないかと悩んだ。

「ヤスオさんは、そんな人ではありません。勘違いしないで」

 ユキナが顔を真っ赤にして、その冒険者を怒鳴りつけた。そして、頭から大量の湯気を出し、ドスドスと音をたてながら歩き、事務室へ戻って行った。その冒険者は、保護対象から怒鳴られて、眼が点になり呆気に取られていた。      
 ヤスオと眼が合うと我に返り、落ち込みながらトボトボと自分の席に戻る。席に着くと、仲間達に励まされていた。
 ユキナのおかげで何事もなく終わり、安心してヤスオは差し出された飲み物を飲んでみる。

(いい味ね。少し、蜂蜜を入れているのかしら)

 差し出されたのは、リンゴジュースで、口の中に心地よい甘さが広がる絶品であった。そのジュースを半分ほど飲んだ頃、チェンチェンから呼び出され準備が整った事を聞かされた。ヤスオは残ったジュースを一気に飲み干すと裏口に回る。裏口の扉はすでに開いていて、前回同様、通路を塞ぐ形でテーブルが置かれており、大きなテーブルクロスの上に棺が置かれていた。棺の向こう側には、アガサ、シンシア、クミ、イーシア、ユキナが、並んで立っている。ヤスオは開放魔法で老婆を棺に収まるよう出現させる。アガサが、依頼書と老婆を見比べたら、ヤスオに向かって深くうなずく。

「それでは、お渡し致します。よろしくお願いします」
「お預かりします」
『お疲れ様でした』

 五人は声をピタリと合わせ、きれいにシンクロしたお辞儀を見せた。ヤスオもお辞儀して振り返り、部屋を出ると扉を閉める。

[今回は、頭をぶつけなかったな]
[もう、いじわる]

 扉が閉まると、中からイーシアとユキナの声が聞こえた。二人はシンシアに不謹慎だと怒られていた。そのシンシアも前回、ユキナに突っ込んでしまい、アガサに怒られていた。
 ここで、何となくだが受付嬢の序列が少し見えてきた。リーダーはアガサで、副リーダー兼教育係がシンシア。アガサは受付嬢に、どんな問題があってもシンシアしか叱らない。次期リーダーのシンシアの管理責任を問うていた。そして、シンシアは叱られた内容を皆に伝え、反省を促すか、自身の胸の内に収めるか判断する。前回は自身の胸の内に収めたが、再び不謹慎な態度をとったので、注意をしていた。

 ヤスオはそのまま、アントの夢に向かっていた。

「いらしゃいまちぇ」

 アントの夢に入ると受付に、可愛い女の子が座っていた。ヤスオはメロメロになり、その子に詰め寄った。

「リリー、どうしてここに座っているのかい?ソフィアさんはどうした?」

 すぐにでも、その子を抱き上げ、頬にチュウをしたいが、嫌われるので我慢した。ヤスオの声がするので、奥からセルジュとソフィアが出てきた。

「ヤスオ様、今ソフィア様が持ってきた、治癒小薬の鑑定と換金を行っていまして」
「そうなのです。その間、リリーに受付を任していましたの」
「お忙しいようでしたら、出直しますが」
「いえ、ここにいて下さい。ソフィアさんの治癒薬はすべて騎士団が買い取ってくれるそうなので、すぐに在庫切れになります。ヤスオ様の治癒薬で補充できるのなら助かります」

 こうして、しばらくリリーを膝の上に置き、一緒に受付を担当した。リリーは無邪気に、さらに嬉しそうに膝の上を堪能していてヤスオを喜ばせた。そのことで、ヤスオはリリーを抱き締めたい欲望に駆られたが、泣いて嫌がられる事を想像し躊躇した。
 その後、換金を終わらせたソフィアと受付を代わり、ヤスオの治癒薬の鑑定、換金を行った。鑑定中にあの忌々しい騎士数人が治癒薬を引き取りにやって来た。騎士達は、受付にいたソフィアにデレデレで、中には口説く奴がいて、ヤスオを苛立たせた。
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