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91.吊り橋
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ヤスオは、イラつきながらも次から次へと、鍋の中に食料を投入した。
鍋の中にパンや揚げ物など、ごちゃごちゃの食材が、山盛りになっていた。二人はさらに食べ進め、目標が重なるたびに争奪戦が行われた。ヤスオは焚火の薪を抜きとり砂をかけ消えるのを待つ。そして、二人とは別に自分用の食材を頬張っていた。底なしの胃袋を持つ二人は、ヤスオが満腹になっても、食べ終わる事はなかった。そうして、ヤスオの収納していた食材が、すべてなくなり二人の対決は終わった。
「そなた、食い過ぎだ。少しは遠慮したらどうだ。おかげで、わたしは食い足らないだろう。」
「それはこっちのセリフさぁ。マッチが遠慮しないから、わっちも食べ足らないさぁ。」
「まぁいい。また、ヤスオの家に訪れ、ご馳走になればいいことだ。」
「まぁ、わっちは、ヤスオの方から訪れて、ご馳走してくれるから、待てばいいだけさぁ。」
どういう事か、ヤスオに対してのマウントの取り合いに、勝負が変更されていた。両者は睨み合い、今にも噛みつきそうな雰囲気だ。
「あのぉ、そろそろ帰らない?」
食事が済んだ以上、もはや拠点にいる必要もない。食料もなくなったので、早く帰って補充をしたかった。
「そうだ、ヤスオ。これを貰ってくれないか。」
マチルダが懐から、大きな黒い石を差し出した。手の平に丁度いい大きさのその石は、黒くて光沢があり、見つめていると吸い込まれそうな気分に陥る。
「それは、ミノの魔石さぁね。」
「そうだ、これは、ヤスオが持つべきだと思う。もらってくれ。」
「わっちも、異論はないさぁよ。」
「いや、しかしみんなで倒した訳だし、とどめを刺したのは、マチルダさんだし。」
(貰っときなさい。団長様は、あなたに感謝しているようだし、お礼がしたいのよ。それに、先日といい、今回といい、食べ物を食い荒らされて大赤字なのだから。)
先ほどの、サーチェとの争奪戦の時からは、想像がつかない表情をして、ヤスオに迫る。受け取らなければ、泣いてしまいそうな顔に、ヤスオは恐怖を感じた。
──受け取らないと、何か恐ろしい事が起こるのでは?
躊躇していると、どんどん寄り添ってくる。じわじわと間合いを詰められ逃げ場がなくなる。
「じゃぁ、遠慮なく。ありがとう。」
受け取らないと何かよからぬ事が起きそうで、怖くなった。魔石を受け取ると、マチルダは、キャピキャピと少女のように喜んで見せた。その隙のないキャピキャピに、黙って見ていないと、殺されるのではと恐怖した。その恐怖で体は膠着し、背筋は凍結していた。
一方、サーチェは新種の生物を見つけたような眼をして、マチルダを面白可笑しく見ていた。
「じゃぁ、わっちはこれで。マッチ、ヤスオに手を出すなよ。」
すっかり傷の癒えたサーチェは、どこかに飛んで行き、去った。ヤスオとマチルダは、街に帰るため、森を出る道筋を通る。2人きりになり、上機嫌のマチルダは、ヤスオの腕を組むと上目遣いで話してくる。花を見つけると「可愛いぃ。」と言って摘み始めた。このありえない光景に混乱した。
「アリ姉様。今、何が起こっているのでしょう?」
(こ、これは騎士団長が、完全に女になっているわ。まさか?ヤスオに惚れたの?)
「ああ、これが噂に聞く、吊り橋効果と言うやつか。こんなに怖いものとは思いませんでした。」
(つりばし?なにそれ?)
「ミノを倒した高揚感が、俺に対しての気持ちと錯覚した可能性があります。」
(なるほど、今はどうしようもないわ。街まで付き合うしかないわね。)
花を摘み終わると、足取り軽くステップを踏みながら歩きヤスオに可愛さをアピールしていた。
「何しているの?」
「え?」
草むらの中から、チャーフィーが出てきた。少し離れた背後には、騎士と衛兵の連合軍が待機していた。
──ゲッ、なんで、こいつがここに?
「そなたが危機だと聞いて、援軍を従えてきたのに、花なんか持って、随分余裕ね。ミノタウロスとは、どうなったの?」
「と、討伐したわ。この御方のおかげでね。」
マチルダは、持っていた花を投げ捨てると、背後にいるヤスオを両手の平で指し示し、チェーフィーに紹介した。
「ヤスオ殿。」
チャーフィーは、両手を口に据え、頬を赤く染めた。この反応に、マチルダの女の勘が働く。ヤスオに歩み寄ろうとするチャーフィーの前に立ち、邪魔をする。
「わたし達は、協力して戦ったから疲れているの。さっさと帰るわよ。」
このマチルダの反応に、チャーフィーの女の勘が働く。お互いがすさまじい殺気を放ち睨み合う。ヤスオはこの二人の殺気に怯え、距離を置き、息を潜めていた。
「あの2人、なんで対立しているのですかね?」
(ホント、吊り橋って怖いわね。)
チャーフィーは、溜息をつくと振り返り、援軍の騎士、衛兵たちの元に戻る。
「皆聞け。ミノタウロスは討ち取った。騎士団長は無事だ。これより帰還する。」
『ウオォォォォォ。』
騎士、衛兵たちは、戦闘の緊張から解放され歓喜した。普段、仲の悪い双方だが、今回は抱き合いながら喜んだ。
「クロムウェル団長、バンザーイ。」
「騎士団長に栄光あれ。」
騎士や衛兵は、二人の団長を取り囲み勝利の余韻に浸った。そして二人の背中を押し、街に向かって進軍し始める。距離を置き、息を潜めていたヤスオは、騎士衛兵に気付かれることもなく、取り残された。
「俺は?」
自身を指差し、アピールしたが、すでに人はなく、風だけが吹いた。だが、あの男達の歓喜の渦の中心に自分がいると考えると、背筋に悪寒が走り体温が下がってしまう。これでいいと納得し、軍団と距離をおき、後を追った。
街の北門まで帰ると、そこにはマチルダが待っていた。今回の件の礼を再三、述べると約束通り、騎士団との再戦の日程を組むことを確約した。場所は、城内にある大訓練場。別名、闘技場とも呼ばれ、観覧することができる。
近々、闘技祭を行う予定があるのでそれを利用する計画なのだとか。祭りには領主も同席するので、ことが終われば、面会してほしいと願った。ヤスオは渋々、了承し双方の願いが叶う事になった。
マチルダと別れると、冒険者組合で食事と換金をするか考えた。だが時間は、陽が暮れ始めた頃、これから混み始めるので、魔石換金で大騒ぎに成り兼ねないと思い、今日はやめておく。
食料がまったくなくなったので、買い出しに行くことにした。
鍋の中にパンや揚げ物など、ごちゃごちゃの食材が、山盛りになっていた。二人はさらに食べ進め、目標が重なるたびに争奪戦が行われた。ヤスオは焚火の薪を抜きとり砂をかけ消えるのを待つ。そして、二人とは別に自分用の食材を頬張っていた。底なしの胃袋を持つ二人は、ヤスオが満腹になっても、食べ終わる事はなかった。そうして、ヤスオの収納していた食材が、すべてなくなり二人の対決は終わった。
「そなた、食い過ぎだ。少しは遠慮したらどうだ。おかげで、わたしは食い足らないだろう。」
「それはこっちのセリフさぁ。マッチが遠慮しないから、わっちも食べ足らないさぁ。」
「まぁいい。また、ヤスオの家に訪れ、ご馳走になればいいことだ。」
「まぁ、わっちは、ヤスオの方から訪れて、ご馳走してくれるから、待てばいいだけさぁ。」
どういう事か、ヤスオに対してのマウントの取り合いに、勝負が変更されていた。両者は睨み合い、今にも噛みつきそうな雰囲気だ。
「あのぉ、そろそろ帰らない?」
食事が済んだ以上、もはや拠点にいる必要もない。食料もなくなったので、早く帰って補充をしたかった。
「そうだ、ヤスオ。これを貰ってくれないか。」
マチルダが懐から、大きな黒い石を差し出した。手の平に丁度いい大きさのその石は、黒くて光沢があり、見つめていると吸い込まれそうな気分に陥る。
「それは、ミノの魔石さぁね。」
「そうだ、これは、ヤスオが持つべきだと思う。もらってくれ。」
「わっちも、異論はないさぁよ。」
「いや、しかしみんなで倒した訳だし、とどめを刺したのは、マチルダさんだし。」
(貰っときなさい。団長様は、あなたに感謝しているようだし、お礼がしたいのよ。それに、先日といい、今回といい、食べ物を食い荒らされて大赤字なのだから。)
先ほどの、サーチェとの争奪戦の時からは、想像がつかない表情をして、ヤスオに迫る。受け取らなければ、泣いてしまいそうな顔に、ヤスオは恐怖を感じた。
──受け取らないと、何か恐ろしい事が起こるのでは?
躊躇していると、どんどん寄り添ってくる。じわじわと間合いを詰められ逃げ場がなくなる。
「じゃぁ、遠慮なく。ありがとう。」
受け取らないと何かよからぬ事が起きそうで、怖くなった。魔石を受け取ると、マチルダは、キャピキャピと少女のように喜んで見せた。その隙のないキャピキャピに、黙って見ていないと、殺されるのではと恐怖した。その恐怖で体は膠着し、背筋は凍結していた。
一方、サーチェは新種の生物を見つけたような眼をして、マチルダを面白可笑しく見ていた。
「じゃぁ、わっちはこれで。マッチ、ヤスオに手を出すなよ。」
すっかり傷の癒えたサーチェは、どこかに飛んで行き、去った。ヤスオとマチルダは、街に帰るため、森を出る道筋を通る。2人きりになり、上機嫌のマチルダは、ヤスオの腕を組むと上目遣いで話してくる。花を見つけると「可愛いぃ。」と言って摘み始めた。このありえない光景に混乱した。
「アリ姉様。今、何が起こっているのでしょう?」
(こ、これは騎士団長が、完全に女になっているわ。まさか?ヤスオに惚れたの?)
「ああ、これが噂に聞く、吊り橋効果と言うやつか。こんなに怖いものとは思いませんでした。」
(つりばし?なにそれ?)
「ミノを倒した高揚感が、俺に対しての気持ちと錯覚した可能性があります。」
(なるほど、今はどうしようもないわ。街まで付き合うしかないわね。)
花を摘み終わると、足取り軽くステップを踏みながら歩きヤスオに可愛さをアピールしていた。
「何しているの?」
「え?」
草むらの中から、チャーフィーが出てきた。少し離れた背後には、騎士と衛兵の連合軍が待機していた。
──ゲッ、なんで、こいつがここに?
「そなたが危機だと聞いて、援軍を従えてきたのに、花なんか持って、随分余裕ね。ミノタウロスとは、どうなったの?」
「と、討伐したわ。この御方のおかげでね。」
マチルダは、持っていた花を投げ捨てると、背後にいるヤスオを両手の平で指し示し、チェーフィーに紹介した。
「ヤスオ殿。」
チャーフィーは、両手を口に据え、頬を赤く染めた。この反応に、マチルダの女の勘が働く。ヤスオに歩み寄ろうとするチャーフィーの前に立ち、邪魔をする。
「わたし達は、協力して戦ったから疲れているの。さっさと帰るわよ。」
このマチルダの反応に、チャーフィーの女の勘が働く。お互いがすさまじい殺気を放ち睨み合う。ヤスオはこの二人の殺気に怯え、距離を置き、息を潜めていた。
「あの2人、なんで対立しているのですかね?」
(ホント、吊り橋って怖いわね。)
チャーフィーは、溜息をつくと振り返り、援軍の騎士、衛兵たちの元に戻る。
「皆聞け。ミノタウロスは討ち取った。騎士団長は無事だ。これより帰還する。」
『ウオォォォォォ。』
騎士、衛兵たちは、戦闘の緊張から解放され歓喜した。普段、仲の悪い双方だが、今回は抱き合いながら喜んだ。
「クロムウェル団長、バンザーイ。」
「騎士団長に栄光あれ。」
騎士や衛兵は、二人の団長を取り囲み勝利の余韻に浸った。そして二人の背中を押し、街に向かって進軍し始める。距離を置き、息を潜めていたヤスオは、騎士衛兵に気付かれることもなく、取り残された。
「俺は?」
自身を指差し、アピールしたが、すでに人はなく、風だけが吹いた。だが、あの男達の歓喜の渦の中心に自分がいると考えると、背筋に悪寒が走り体温が下がってしまう。これでいいと納得し、軍団と距離をおき、後を追った。
街の北門まで帰ると、そこにはマチルダが待っていた。今回の件の礼を再三、述べると約束通り、騎士団との再戦の日程を組むことを確約した。場所は、城内にある大訓練場。別名、闘技場とも呼ばれ、観覧することができる。
近々、闘技祭を行う予定があるのでそれを利用する計画なのだとか。祭りには領主も同席するので、ことが終われば、面会してほしいと願った。ヤスオは渋々、了承し双方の願いが叶う事になった。
マチルダと別れると、冒険者組合で食事と換金をするか考えた。だが時間は、陽が暮れ始めた頃、これから混み始めるので、魔石換金で大騒ぎに成り兼ねないと思い、今日はやめておく。
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