異世界での異生活

なにがし

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98話 お嬢様パーティーに一言申す、帰れ

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 ヤスオは馬車に乗り、道中を楽しんだ。相変わらず快適なので、レオにここまでの疑問をぶつけた。

「この荷車は随分、乗り心地がいいけど、何か衝撃を吸収する物が付いているのですか?」
「おお、さすがヤスオさんですね。この荷車には懸架装置が付いている特別な荷車でさぁ。」

──けんか装置?

 予定より早くアリアドネ宅に到着したので、懸架装置をゆっくり見せてもらった。それは、ヤスオが想像した鉄の棒を螺旋状にしたバネではなく、木の板を層状に積み重ね、丸みを帯びたひし形に加工された板バネが取り付けられていた。

「おお、なるほど。納得です」

 バネだけで、ダンパーのようなものはなかったが、早く移動して大きな衝撃を受けるわけがないので、これで十分と納得した。レオは何がヤスオを納得させたのか分からなかったが、子供の様にはしゃいで見聞する恩人を見て、少しだけ恩を返せた気になった。

 ヤスオは、今日はもう出かけないとレオに告げ、今日一日世話になったことに感謝した。レオも目的を果たし満足して帰って行く。レオのおかげで時間ができたので、鍋の作り置きをすることにした。味の違う鍋を3つ作り魔法で収納する。それが終わり、いい時間になったので夕飯の準備を始める。ここで、ご飯も味噌汁も追加購入した鍋で作り置きすることにした。

──コンコン。

 扉を誰かがノックする。嫌な予感しかしない。この食事の準備が終わる時間帯に突然の来客。まったくいい事が起こるとは思えない。物音を立てないよう扉に近づき、耳を澄ます。何やら、キャピキャピした声が聞こえる。ヤスオは溜息をつくと、ゆっくりと扉を開ける。

『こんばんはぁぁ』

──出たぁぁぁ。

 昼間のお嬢様パーティーだ。彼女達はヤスオを押しのけ、ズカズカと家に入り込み、当たり前のように台所の椅子に腰を下ろした。椅子は4つしかないので、お嬢様達に占領されてしまう。

「今日はトンカツですね。美味しそう」「そういえば、私達、夕飯、まだでした」「ご飯と味噌汁はあたい達の分もありそう」「おかずは何でもいいですよ」

 ヤスオは、この図々しい訪問者達に苛立ちながらも、追い返すこともできず、希望通りに食事を用意した。お昼をご馳走したはずなのに、お嬢様方は芥子粒けしつぶほどの遠慮すら持ち合わせてなく、当たり前のように食事を堪能していた。
 お嬢様方はとても下品で、テーブルマナーなどは存在しなかった。手を合わせることなく、いきなりガツガツと食べ始め、淑女のたしなみはどこに行ったか、まだ犬の方が行儀よく食べる気がした。
 そんな彼女達のおかわりを受け続け、作り置きだったはずのご飯と味噌汁は完全に姿を消した。多めに買っておいたトンカツを始め、その他キャベツやポテトサラダも消滅した。

「お前ら、俺、夕飯まだなのだけど」
「そうだったのですか?」「ごめんなさぁい」「全部食べちゃった」「美味しかったです」
『ご馳走様』

 ヤスオの額には十字の血管が浮かび上がり、この世界の女達の食欲に憤りを覚えていた。さらに必ず、ミーヤ、マヤ、エマ、アメリアの順に話すのが、よりヤスオを苛立たせた。

「それで、何しに来た」

 彼女達曰く、昼間の昼食と仕事の件で、お礼がしたくて訪問したらしい。

──お礼だと?

 これが、お礼?ただの、たかりじゃないか。ヤスオは深呼吸をして自身を落ち着かせた。これからが、お礼なのだ。そう言い聞かせ、これまでの憤りを抑えた。

「そのお礼は、俺がもらえる物…なのか?」
「うん、それは、期待していいよ」「でも、その前に」「聞きたい事があるのだけど」「なんで、ヤスオさんはアリアドネ様の家に住んでいるの?」
「それは、アントの夢のセルジュさんに依頼されて住んでいる。アリアドネ様がお亡くなりになり、この家に誰も住まなければ、古くなり汚れる一方だからね」

(うまい。思いつきにしては、いい理由ね)

「俺からも教えてくれ。どうして、俺がここにいるって分かった?」
「あたい達が、ヤスオさんにお礼がしたいって言ったら、シンシア姉さんが教えてくれたよ」
「そうか、わかった。では、お礼を受け取ろう」
「はい、では、本当に」

『ありがとうございました』

 そう言うと、4人は満面の笑みを浮かべ、満足気な表情になる。

「……………」

──エェェェェェェ、まさか、それだけぇぇぇ。

 ヤスオは込み上げる怒りを抑え、甘ったれで非常識な小娘達に、心からの一言を伝えた。

「帰れ」

『ご馳走様でした』

 4人はそうヤスオに伝えると、満足そうに路地を歩いていく。ヤスオのお腹は鳴り続け、食べ損ねたトンカツを想像し、一人寂しく昼に食べ控えたパンを頬張った。

 翌朝、朝食を済ませ、くつろいでいると玄関扉からノックする音が聞こえる。城からの迎えだと思い、扉を開けるとそこには女性が立っていた。その女性は大袖おおそでを見に着けていたのでマチルダだと気がついた。少し話がしたいと言うので、家の中へ迎え入れる。マチルダが家の中に入りヤスオとすれ違う。

──フワッ。

 いい匂いがする。そういえばいつもと雰囲気が違う。髪と肌につやがあり、唇も薄いピンクで輝いていて、なんだか…そう、綺麗だ。

「朝食は済ませてあるので、お構いなく」

 お茶とお菓子を用意し差し出す。そして、マチルダの正面に腰を下ろす。

「本日の再戦なのだが、午後からに変更させていただきたい」
「構いませんが。何か問題でも?」
「問題ではないのだが、実は闘技祭が、昼から行われるのを失念していた」
「はぁ」

普通、そんな事を忘れるだろうか。何か企みがありそうで怖くなる。

──…………………。

「あの、マチルダさん。お話はこれで、終わりですか?」
「そうだが。ヤスオのこれからの予定を聞きたい」
「そうですね。冒険者組合に行こうと思います」
「分かった。では、行こうか」
「はい?同行されるのですか?」
「お館様より午前中は行動を共にし、確実に城に連れてくるよう言われている」

 こうして、冒険者組合に向かうヤスオにマチルダが同行することになる。ヤスオが歩いていると、その後ろをマチルダが付いて来る。マチルダは軽く口笛などを吹きながら歩き、かなりの上機嫌に見えた。実は演技をしていて、隙を見せれば後ろから刺されるのではないかと恐怖する。
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