異世界での異生活

なにがし

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99.気の毒

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「あのぉ、今日の再戦は、マチルダさんも参加されるのですか。」

「ん?いや、わたしは参加しない。もはやヤスオと剣を交えようとは思わん。」

 安堵した。やはりミノタウロス戦以降、マチルダとは戦いたくない。ミノタウロス戦で、マチルダを助け、守ったのに今さら、傷つけることなどできない。そう思っていたが、相手も同じ気持ちでよかった。

「あ、そうそう。騎士団の連中にやる気を出させるため、一芝居打とうと思う。そのことがヤスオの名誉を傷つける事になるが、後で必ず回復させるので、辛抱してほしい。」
「はぁ、マチルダさんを信用しますが、何をやる気です?」

 後ろを歩いていたマチルダが、急ぎ足でヤスオを追い越し後ろ向きで話し始める。

「内緒だ。それと、サーチェは呼び捨てなのに、わたしに“さん”付けは、ないだろう。わたしにも、なれなれしく呼び捨てで呼んで欲しい。」
「えぇ、そんなことしたら、部下の皆さんに何をされるか。無理です。」
「その騎士団を午後から皆殺しにするのだろう?何も問題ないではないか。ほら、マチルダと呼べ。」

 マチルダの強引な催促に、混乱した。一体何を考えているか分からない。呼び捨てで呼んだ途端、バッサリなんてことも、十分あり得ることだ。

(大丈夫だから、呼んでやりなよ。)

 アリアドネにそう言われて覚悟した。心の中で十字を切り、勇気を振り絞る。

「わかったよ。マチルダ。」
「うん。それでいい。」

 マチルダは万遍の笑みを浮かべ、嬉しそうに前を向く。なんだか、くすぐったくて青春の1ページを演じているようだが、相手はあの騎士団長。油断すれば、あっという間に食べ物が無くなってしまう。ではなくて、斬り殺されてしまう。

(少し騎士団長に警戒し過ぎよ。もう少し信用してあげて。彼女が気の毒だわ。)

 怒られて反省した。吊り橋効果とはいえ、ヤスオを好いてくれている。考えてみれば、彼女には、木刀で殴られ、会話を盗み聞きされ、家の食料をすべて食べつくされ、そのすさまじい剣技でミノに止めを刺し、その後は鍋を食べつくされ……。そう言えばせんべいも全部持っていかれたな。

──そりゃ警戒するでしょう。

 アリアドネの説教が理不尽に思えたが、もう少しマチルダに心を許すことにする。

 冒険者組合の中に入ると、突然の美女の訪問に組合内は騒然とする。その美女が騎士団長だと気付くと、一気に空気が変わる。受付にいたシンシアが慌てて、事務室に向かって何か叫んでいる。すると、事務室からアガサが顔を出し、マチルダを見つけると、慌てて事務室に引っ込んだ。すると食堂の従業員専用扉からユキナが飛び出してきて、二階に上がって行く。

「それで、ヤスオ。これから何をするのだ。依頼を受けるのはダメだぞ。」
「もちろんです。換金するだけですから。」

ヤスオは解体受付に赴き、声をかける。すでにピークを過ぎた時間なので受付には誰もいなかった。解体場からセセが顔を出す。

「おお、兄ちゃん。できているぜ。」

 解体場から出てくると、肉の入った袋4つと受取証明書をヤスオの前に置いた。

「ほう、肉か。うまそうだな。」
「へぇぇ、兄ちゃん。えらいべっぴんさんを連れているな。隅に置けない…騎士団の制服?…!クロムウェル騎士団長殿!」

 さすがのセセも突然の騎士団長に驚き緊張していた。

「ほ、本日は、どのようなご用件で?」
「かしこまらないでくれ。今日はヤスオに付き添っているだけだ。」

 マチルダは魔石受付のカウンターに置いてある大きな魔石を見つけ、そこに歩み寄っていき魔石を眺め始めた。そんなマチルダを見つめながら、セセはヤスオの耳に直接小声で話す。

「騎士団長を連れてきた冒険者なんて、兄ちゃんが初めてだぜ。一体何をやったらこうなるのだ?」
「一緒にミノタウロスを討ち取ったら、こうなりました。」
「そういう事か。それで、いつになく今日の騎士団長は綺麗なのか。」

 そう言うと、ヤスオにウインクをして見せ、奥に引っ込んでしまう。

──やはり今日、めかしこんで来ているのは俺のため。

 そう考えると、目じりが下がり鼻の下が伸びる。なんとも、しまらない表情になり、喜んでいた。

──待て、待て。相手は百戦錬磨の騎士団長だ。そんな、うまい話が、あるものか。

 それもそうだと、表情が元に戻る。そんな妄想を抱いては戻り、また抱いては戻りを繰り返して百面相をしている。そんなヤスオを背に、マチルダはミノタウロスの魔石を眺めていた。

「失礼、クロムウェル騎士団長。」
「ああ、フランツ殿か。お役目、ご苦労様です。」
「その魔石なのですが、ヤスオという冒険者がミノタウロスの物だと言って持ってきたのですが。」
「その通りだ。わたしが討ち取り、ヤスオに差し上げた物だ。」
「それでは、共闘して討ち取ったのは事実でしたか。」

──共同で討ち取ったぁぁぁ。

 そんな、初めての共同作業的な言い方されると、なんか照れてしまう。世間にはヤスオと自分がそんな風に見えるのだろうか。だが、悪い気がしない。むしろ、嬉しい。
 自身の聞き間違えに気付くことなく、マチルダも妄想を膨らませ、赤面して何度も身体をくねらせた。フランツは目の前でなにが起こっているのか理解できない。

──このままここにいては、危険なのでは。

 身の危険を感じたフランツは、その場を去り仕事に戻った。
 マチルダの不可解な行動に、周りの男達がざわめき始めた。そのざわめきが聞こえ、現実に戻ったヤスオは、数人程並んだ受付の列の最後尾に身をおいた。これを見たシンシアがカウンターの下で、拳を握りしめ、ささやかなガッツポーズをとった。

──よし、並んだ。

 この時間は受付が一つしか開いておらず、これでヤスオの受付はシンシアで確定した。前回イーシアに、いいようにやられたので、今回は普通に受け付けるか、イーシア以上のパフォーマンスをするか悩んだ。その結論の前に、すぐ横で大きな魔石を観察している女が気になった。シンシアの一回り以上の歳をしたおばさんが、色気づきヤスオと共にやってきたからだ。ただでさえ騎士団長という地位で目立つのに、その上、気合の入った化粧と、クネクネと可愛い仕草をして、周りの男達の視線を独占していた。

──くそ、油断した。

 今日、ヤスオが来るのを知っていたのに、いつも通りの容姿で来てしまった。このまま普通に受け付けたら、この女にすべて持って行かれるかも知れない。

──やるしかない。

 シンシアは、イーシア以上のパフォーマンスを考えた。そして何かを思いつき、口元に笑みを浮かべていた。
受付も進み、次はヤスオの順番まできていた。シンシアは緊張し、その時を急いだ。

「次の方、どうぞ。」

──えっ?
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