異世界での異生活

なにがし

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113話 朝食で胃袋つかんで虜にする

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 翌朝、陽の昇らぬ暗いうちから、ヤスオは朝食の準備を始めていた。ご飯を大量に炊き、味噌汁も多く作った。一夜漬けの白菜やキュウリなどを昨日から多く作り、長期の遠征に備えていた。かなり多めの朝食の準備が整い、魔法で収納して出かけようとした時、玄関扉をノックする者がいた。まだ、陽が昇らぬ時間帯のノックに、ヤスオは嫌な予感しかしなかった。

「はい」

 恐る恐る、ゆっくり扉を開け外の様子を見た。すると、扉は強引に開けられヤスオは外に引きずり出された。

「ガハハハハ。朝早くに、すまんな。お邪魔するぞぉ」
「ヤスオ、おはよう。朝早くに失礼する。お邪魔します」

 そこには、マークとマチルダがいた。二人は強引に家に入ると、当たり前のように昨日と同じ席に腰を下ろす。今日は何の用だろうと、用件が気になるが、その前に重大な事を二人に聞かねばならない。

「二人共、朝食は?」
「私は、済ませて来ている」
「ガハハ、わしはまだだ。簡単なもので良いので、何かないか?」

 ヤスオは溜息をつき、観念した。とりあえず、ご飯と味噌汁と漬物と目玉焼きをマークに用意した。

「かたじけない。ご馳走になる」

 マークは慣れない早起きに加えて、食事抜きで訪問したせいか朝食を美味しく感じていた。ご飯はふっくらとしていて、漬物もさっぱりしてうま味がある。それ以上に、この味噌汁は絶品だ。今までの上位5位には確実に入る。何か隠し味があるようだ。

──これは、すき。

 マークの胃袋は、完全にヤスオにつかまれ、虜にされていた。昨日のヤスオの奇想天外な対応に感服し、できれば衛士団に欲しいと思っていたが、そんな事はどうでもいい。もはや、胃袋がヤスオを必要としていた。

「なんだろう、何でもない朝食なのだが、すごく美味しく感じる。何か細工でも、しているのか?」
「はい。ひと手間かけていますよ」

 それを聞いたマチルダが、ソワソワとしだした。そういえば、いままでヤスオにはご馳走になったが、惣菜ばかりで手料理をご馳走になった覚えがない。いや、鍋をご馳走にはなったのだが、サーチェとの争奪戦に夢中になり、味を堪能していなかった。ましてや、こんな自分専用の家庭料理を食べているマークがうらやましい。マチルダは唾を飲み込み、マークの食事を見つめていた。そんなマチルダを察知したヤスオは気遣った。

「マチルダも見ているだけでは、つまらないだろう。残してもいいから、一口だけでもどうぞ」

 そう言い、マチルダにも朝食を用意した。
 ただでさえ、ヤスオには限りない食事の提供を受けているのに、ここにきてさらにご馳走してくれるとは。ありがたく、手を合わせご馳走になる。

──う、美味い。

 先ほどのマークの話は、お世辞と思っていたが、本当に美味しい。ご飯が、もちっとしていて、漬物もみずみずしくて素材の味が生きている。何より、この味噌汁は何なのだ?これまでで、五本指に入る美味さだ。何か隠し味がある。マークも同じ事を感じていたのだろう。ご飯と味噌汁をお代わりしていた。

──これは、すき。

 マチルダの胃袋は完全にヤスオにつかまれ、虜にされていた。もはや、吊り橋効果の影響を通り越して、胃袋がヤスオを必要としていた。

 二人が朝食を堪能していると、再び玄関扉をノックする者がいた。ヤスオが玄関に向かい応対すると、その客人を招き入れる。その客人は頬を赤く染め、しおらしく入室するが、二人と目が合うと表情が戻り、態度が急変する。

「そなた達、何をしているのだ?」
「やはり来たか、コメット団長。我々は、朝食をご馳走になっている」
「それは見れば、分かる。何のようで、ここにいるのだと聞いている」
「そなたの事だ。律儀に事件の真相を話に来ると思っていた。ついでに、私達も聞かせてもらおうと思って待っておったのだ」

 せっかく、ヤスオと二人きりで話をして、機会があれば距離を縮めようと目論んでいたのに、一瞬で破綻した。

──ぐぬぬぬぬ。ようは暇なのだろ。

 衛士は、基本お館様の護衛が仕事で、たまにフランツのように内部調査などもする。衛士長は常にお館様の傍にいるので何もなければ、やることがない。

 騎士団は、有事に前線に立つか、災害時の人命救助か来賓の護衛、それがなければ訓練と演習しかやることがない。

 だが、衛兵は違う。門番の仕事に、街の巡回、事件の捜査に犯罪者の確保。来賓があれば道路の規制をして整理もする。有事が起これば戦闘に参加し、災害が起これば救助や復旧も行わなければならず、とにかく忙しい。

──やっと時間を作ったのに、こいつら悠々と。

 チャーフィーは計画が破綻し苛ついたが、いつもの事なので諦めた。こんな事で怒っていては衛兵団の団長は務まらない。チャーフィーも昨日と同じ席に腰を下ろす。両手の平を太ももの上に重ね、手前のテーブルの上には何も置かず、口を開こうとしない。まるで、何かを待っているようだ。

「お待たせしました」

 ヤスオが察して、朝食を手前に並べた。チャーフィーは手を合わせ、食べ始める。やはり、これを待っていたようだ。チャーフィーは二人に先を越され、やや不機嫌そうに、食材を口に運ぶ。すると、お椀に口をつけたまま目を見開いて、止まっていた。

──何これ、おいしい。

 そして、何事もなかったように、お椀の中身を飲み干すとヤスオに向かって、手を伸ばした。

「おかわりですか?」

 まだ、飲み込んでなかったので、うなずいて見せた。おかわりを受け取ると、再びお椀を口に運ぶ。その絶妙な味に、すっかり機嫌を戻していた。チャーフィーは、初めての歳の近い対等な男、ヤスオを意識していた。だが、この朝食で変わった。
 ご飯はふっくらとしていて、漬物もシャキシャキして、みずみずしい。何より味噌汁がいい、間違いなくランキングベスト5に入る。何か隠し味があるみたいだ。不機嫌な気分をこの味噌汁が、吹き飛ばしてくれた。

──これは、すき。

 チャーフィーの胃袋は完全にヤスオにつかまれ、虜にされていた。もはや対等な男など、どうでもよく、胃袋がヤスオを必要としていた。

 こうして三人共ヤスオに胃袋を奪われ、虜になっていた。先日ヤスオは乾燥昆布を屋台で見つけていた。その昆布で出汁を作り、その出汁で味噌汁を作る。まだこの世界では出汁で味噌汁を作るのが知られていなかったので、三人を虜にしていた。

 三人の朝食が落ち着き、やっと本題に入る。

「さて察しの通り、本日は事件の真相について、話に来た。といっても、おおむねヤスオ殿の推理どおりだ」
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