異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第一章 グローリア大陸編

第13話 人は見かけによらず

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 町を出てから早くも四日目。

 自身の髪をレモンを使い、何度も何度も脱色を繰り返した。その結果、何とか黒髪が赤茶色へと落ち着いた様だ。

「それにしてもこれ……冬場にやるものじゃないな……寒いし、何回も何回もやらないといけないしで大変だったぞ」

 しかし、これなら手配が出回っても、簡単には捕まらないだろう……後残る当面の問題は、今着ている衣装と。

「この髪か……うぅ~、ベタベタゴアゴアするな」

 手持ちの水も量に限りがあるため、今は無駄に使えずにいる。

 「もう少し我慢してね? この近くに川があるはずよ。今日はソコで野宿しましょう」

 地球よりもかなり巨大な太陽が、地平線の彼方に沈もうとしている。──太陽が近いのか? そもそも太陽と呼ばれているのかも怪しいな……まったく、あんな大きいものが浮かんでいるのに気温は低いって……流石異世界だ。

 地球の常識やルールに縛られない事象があり、それを知っていくことは正直面白くもあり、同時に不安にも感じる。
 むしろ帰れない今、知らない知識は積極的に身に付けなければな。

 ここで生きて、夢をかなえる為にも!

「カナデ君、川が見えてきたわ」

 彼女の言葉に目を凝らすと、俺の目にはその姿がまだ見えないのだが……お? やっと見えてきたぞ。あそこが今日の宿泊地か!

 川につくとマジックバックから、テントをワンセットとキャンプ道具をフタセット分用意した。
 初日の休憩から、荷物持ちは、このバックもあってか俺の担当することになったのだ。

 あの時は彼女の荷物を俺が持つと、彼女も心配するかと思ってあえて言い出さなかったが……。

「そんな便利なものあるなら、私の荷物も持ってもらってイイかな? 移動も楽になるし……お願い!」とお願いされたのである。

 まぁ彼女との契約内容も、俺にかなり都合のいいものだし、荷物を持たされてもマジックバックがあり、重さを感じる事もない。
 俺にデメリットはあまりないから、それ事態は全然いいのだが……。

 目の前のトゥナを見ると武器以外ほぼ手ぶらである。

「ってことは、替えの衣類とかも俺が持っているわけだよな……? 下着とかも?」

 小声で呟いた俺の声が聞こえたのか、トゥナが突如振り返る。

「ん? 何か言ったかしら?」

「いやいや! 何でもないから。アハハ」

 あっぶな! 危うく変態認定されるところだった……。かなり小声で呟いたつもりなのに、耳が良すぎるだろ?

 そんなことを考えながら、ワンポールタイプのテントを一人で手早く組み立てていく。

 地球にいた頃から森育ちだったので、この程度のアウトドアならお手の物だ。

 ちなみに今日は冒険をして初めて、俺がテントと火起こし担当、トゥナが薪拾いと料理担当だ。

 早々にテントを立て終え、火起こしの準備を始める。
 石で簡単な囲いを作り、トゥナが持ってきた枯れ草や枯れ枝を山にする、その中には松ぼっくりもある様だ。──これに含まれている松ヤニが火起こしにはいいんだよな着火剤としてよく使ってたっけ……。

 準備が出来整ったら、その上から少量の度数の高いアルコールをかけた。
 そして手早く火打ち石を取り出し、叩くように擦り付け火花を散らした。

「良し……無事についたぞ」

 火花はアルコールに伝い、枯れ葉の山に火を着けた。──暖かい……やっぱり焚き火を見るとテンションが上がるな。

  火が燃え広がっていくのを確認して、火のついている枯草の上から町で購入しておいた、いくつかの炭を入れた。

 すると徐々に、炭にも火が着いていく。──これで火起こしも終わりか……。

「トゥナ~火起こし終わったよ~。」

 簡易調理台の前でトゥナが何やら剣を抜いて……あれ? 何となく野菜を剣で切ってる様に見えた気がするけど……?

「ありがとう、カナデ君。私も下準備が出来たわ」と、今し方斬った野菜を鍋に入れて持ってきたのだが。──うん……嫌な予感しかしない。

「すぐ作るからね?」と野菜が入った鍋を無造作に火の上に置いた……。──あれ? 油は引いていただろうか?

 調理を見ていると無惨に野菜たちが焦げていく……。それでも自信満々に作っている彼女を見て、俺はあの懸命に熱に耐えている食材達を助けることができなかった……。

 一頻ひとしきり野菜たちに火を入れた後、おもむろに……勢いよく水をぶっこんだ。──煮物だろうか?

 そのまま煮詰めるように、グツグツと煮込んでいく……。──水面に灰が浮いてきてるな……。アレを俺も食べるのか?

 俺はつい手で口元を抑え、涙してしまった。──こんな無残な状況、もう見てられない!

 そして、右手に小麦粉のようなものを持ち、目分量で入れ始めた……。

「もうわかっちゃったかしら? 今晩は寒いからシチューよ?」

 得意げな顔をしながら、小麦粉を次々と足していく彼女に恐怖を覚える。俺は、その姿を見て言葉を無くしてしまった……。その鍋にある物は、俺が知っているシチューと作り方が違う。──ダマが! ダマが焦げと一体化していく!

 彼女はそれをお椀に装い、満面の笑みで「どうぞ」と俺に差し出してきた。差し出されてしまったのだ……。

 おかしい……寒いはずなのに汗が頬をつたっていく……。喉が渇いてきたし、手も少し震えてきたぞ? 風邪かな?

「どうぞ」と笑顔で死注しちゅうを進めてくるトゥナ。今思えば、パーティーを組んだ時点で、俺には逃げ場は無かったのだろう……。木製のスプーンを手に取り口へと運んだ。──うん……苦い。

  野菜を口に入れ噛むとちょっとカリカリっとした触感が……。──これは……コゲかな?

 野菜の中心部分の優しい甘さが、舌と心に染み渡る。──農家さんゴメンナサイ……そして美味しいお野菜を有難う。

「ほ、ほら、ミコ起きろ! ご飯だよ!」

 マジックバックを小突いてミコを起こす……被害者を増やしてやし。自分の取り分を減らすためだ。

「ん~……ご飯なのカナ……?」

 この精霊、ここ連日そうなのだが、食事と聞くと必ず起きる習性があるらしい……。そしてよく食べるのだ。

「ほら?トゥナの手作りだぞ?」

 俺はスプーンですくい、ミコの口元へ運んでやった。ミコはそれを口一杯にふくんで味わうようにモゴモゴと口を動かす。

「──ゲロ不味ダシ!」マーライオンの様にキラキラを吐き出したのだ。──流石光の精霊様だ。

 勿体ないだろ! と一言。しかし、それを待ってたんだ。俺が言えなかった言葉をミコが代弁してくれた。誉めてやる!

 それを見ていた目の前のトゥナは、明らかに落ち込んでいるようだけど……。それを見て疑問に思い、彼女に質問をして見る事にした。

「トゥナはよく料理するのか?」

 彼女を首を左右に振って「初めて…」っと一言と言った。 そうか……初めてなら誰しもそんなものだろう……大丈夫練習すればきっと……。

 ──っん?

「初めてなのかよ!」と突っ込みを入れた。

 自身の指と指を合わせ、何やらもじもじとする彼女が小さい声で「うん……」と呟く。──冒険者って料理もしないで出来るものだったのか。

「それにしても、初めてならなんで断らなかったんだよ? 出来ないなら俺がやったのに……」

「だって、担当分けで決めたでしょ? それに……みんな簡単そうにやってたから……」

 うーん、世の中の主婦や料理人が聞いたら怒ってしまいそうだ。責任感が強い事は悪くはないと思うのだが。
 
「料理も剣術と同じだよ、ルールや型、練習や少しの才能でより美味しくなるんだよ」

 それだけ口にすると、俺はおもむろに彼女の作った料理の鍋に手を掛けた。

 具材を残し、スープをコシて別の容器に移す。焦げを取った野菜を鍋に入れ、バターで少し炒める。
  それと並行するようにボールに小麦粉と先程のスープを少し入れかき混ぜ。その後ミルクと小麦粉と足しダマが出来ないように混ぜた。

 先に準備した二つを……混ぜる! そして少量の塩を入れて味を整えた。
 最後に味見をする……。──とりあえず、これぐらいでいいか?

「はい、どうぞ」

 俺が手直しした料理をトゥナに出すと、それをジっと見つめる。そのまま両手で掴み、彼女がそれを口に運んだ。

「悔しいわ…」

 様子を見るに、どうもそれなりには旨かったらしいな。
 それにしても……トゥナがメシ不味だとは……。できる子だと思ってたよ。

 その後二人と一匹で、俺とトゥナの合作料理を美味しくいただくことにしたのだった。
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