異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第三章 リベラティオへの旅路

第186話 両親?

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 ──朝日が昇る前の、薄暗い早朝。

 俺達は、宿屋を出てシンシの両親と思われる人を探すため動き出した。
 早速、この村から出ていないことを確認がてら、検問要員を配置するべく、出入り口へと向かった。

「ちょっと君達、出発はもう少し明るくなってからにしたまえ!」

「いえ、村から出る訳じゃありません。少し確認したいことが──」

 俺は大まかに、エルフの看守に事情を説明して、昨晩から村を出た人がいないか確認を取った。

「いや? 昨晩から村から出た人は居ないはずだ……。昨晩見かけたのなら、間違いなく村の中にいるだろうね」

 記録用紙を確認しながら答える看守……。
 どうやら、トゥナの読みは間違っていなかったようだ。
 
 念の為、俺は打ち合わせの内容を皆に向かい反復する。

「それじゃぁ、ハーモニー、ルームはここでくれ待っていてくれ、トゥナは捜索を頼む。俺とティアさんはギルドで捜索依頼を出して、その後に捜索するから。みんな頼んだぞ?」

 皆で向き合い頷いた後、各自行動を始めた。

 俺はまずギルドだな……。
 ティアが居れば依頼を出すことは造作もないだろう、一応なにか質問されても答えれるように、シンシも俺達と同行してもらう。
 ミコも、顔を出せないとしても少しでも一緒にいたいもんな?

 村の入り口に背を向け歩いていく。ギルドは確か、村の中央辺りって言ってた気がする。
 周囲が薄暗い、人通りの少いこの時間は、なんか不気味なものがあるな。
 心なしか霧も出ているし、それが恐怖をさらに煽る……。

 ギルドに着き扉を開けると、ギルド内には既に数名の冒険者が、職員と打ち合わせをしているようだ。

「──ママ! パパ!」

 突如、俺達と一緒にいたシンシが、冒険者の装いをした二人組に向かい走り出した。

「な、何でこ……ところ……んだ!」

 外套を羽織っているため顔はよくは見えないが、動揺した男の声が聞こえた。

 それにしても、見事なまでに予定通り行かないものだな。
 良い結果に動きはしたけど、何故か腑に落ちない……人生とはそんなものだろうか?

 二人に近づいた俺は、本当にシンシの関係者なのか、確認を取るために声を掛けた。

「あなた方が、この子の……シンシの両親で間違いないでしょうか?」

 外套の下の顔を覗き込むと、似顔絵に瓜二つの男女だ。
 男は俺より少し背が高く、女はトゥナ位だろうか? 共にヒューマンで、かなり若く見えるのだが……。

「貴様は、なに──」

 男の口元に手を伸ばし、遮るようにして女は間に割って入るよう、俺に話しかけてきた。

「──えぇ、私達がこの子の両親です。この度はこの子を保護していただき、誠にありがとうございました」

 そう言葉にした女は頭を下げ、それを見てか男も同じように頭を下げた。

「証拠は……証拠をみせてもらえませんか?」

 胡散臭い……とまでは言わないが、じいちゃんに育てられたため、両親と過ごした記憶はない。
 親子関係をよく知らない俺は、つい疑ってかかってしまった。

「証拠と言われましても……」

 困惑した表情を見せた女は、不意にシンシを抱き上げた。

「この子の、この笑顔が証拠ではいけませんか?」

 確かにシンシが見せる笑顔は、演技でもないかぎり、他人に向ける笑顔ではないな……。
 シンシが笑顔になれて、目の前の二人が自分達が親だと言うのであれば、俺が口を挟む事は無い。

「分かりました……。でも、なぜシンシと離ればなれになったか、説明をしていただいていいですか?」

 あの村であった事を知るためにも、俺は二人に問いかけた。彼らの話によると──。

 ──この村に向かう中、待ち伏せをしていた謎の盗賊に襲われ、命からがら逃げだした。
 しかしその途中、今度は魔物との戦闘になり、二人で応戦していたところ、気づいたらシンシの姿が見えなくなっていたらしい。

 周囲を探し回ったが、シンシを見つけることが出来ず、もよりの村に来ることに、それがこの村だった……。

 村に着き、自分達で情報収集をするものの見つけることは出来ず。
 その後相談の結果、なけなしの全財産を握り今日ギルドに捜索依頼を出しに来た──らしい。

 なんだろう、辻褄つじつまが合っているようで……あっていないような。
 でも、それが本当なら、なぜシンシはラクリマにいたんだ?
 ラクリマ周辺に盗賊のアジトでもあるのだろうか……。

「この子は、いったいどこにいたのでしょうか? あれだけ探して見つからなかったのに……。やはり、盗賊が連れていって?」

 俺は彼女の問いかけに、記憶喪失を踏まえ今まであったことを説明した。
 すると二人は、その表情を徐々に曇らせていく。

「──あぁ~! 何てことだ! 私が目を離した隙に!」

「いえ、貴方は悪く無いわ……。私が、私がつきっきりでいなかったから!」

 女は顔を覆い隠し、泣くような仕草を見せる……。それを男が慰めながらも、シンシ共々も抱き締めた。

「ありがとう! これで、やっと安心することが出来る!」

「誠にありがとうございます! なんてお礼を言ったら……」

 そう言いながらにじりよる二人の、その姿にたじろぎながらも「いえ、シンシ君が笑顔になれたなら良かったです」と、お礼を断った。

 しばらく感謝の言葉は続き「俺達も、仲間にこの事を報告しないといけないので」と彼ら親子に声を掛ける。

「ミコ姉ちゃん、カナデ兄ちゃん、ティア姉ちゃん! ありがとネ! 本当にありがとネ!」 

 いつまでも頭を下げる親子を、手を振り続けるシンシをその場に残し、俺とティア……そしてミコは、ギルドを去ることにした。

「なぁミコ、挨拶はよかったのか? 今なら、俺が相談して……」

「──大丈夫カナ。シンシ、喜んでたモン。水を指したら悪いシ……」

 マジックバックの中で涙を堪え、震えるミコの声を聞く。
 そんな彼女にかける言葉を探すも、見つかりはしなかった。
 そして暗い雰囲気のまま、俺達は他のメンバーと合流するのであった。
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