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第三章 リベラティオへの旅路
第187話 演技
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──日が登り霧も晴れ、世界は少しずつ熱を帯びていく。
しかし、突然シンシと別れた俺達の心は決して晴れず、霧のような靄がかったわだかまりを俺達に残した。
そして、目的がなくなったアラウダの村を出ることに……。
揺れる馬車の上、静閑な雰囲気の中、車輪が回る音だけが虚しく響く。
「──なんや、えらい静やな。なんか辛気くさくあらへんか? 確かに結末は呆気ないもんやったけど……」
彼女の言う事が何となく分かる。
シンシも両親が見つかり、一番喜ばしい結末のはずなのに誰一人笑顔になることはない。
一度みんな集まって、しっかりとサヨナラを伝えた方が気持ちにメリハリがついたのかもしれない……。
何よりムードメーカーのミコがこの調子だとな。
でも俺は、あの時のシンシの笑顔をくもらせることと、何よりミコの覚悟を無駄にするようなことを、したくはないと感じたのだ。
「残念ね……。私も、シンシ君とちゃんとお別れしたかったわ」
トゥナの何気ない一言が聞こえたのか、マジックバックに閉じ籠りっきりになったミコが揺れ動いたのが分かった。
「そうですね。確かに、私もシンシ様の親御さんとの話ばかりで、しっかりとした挨拶は出来ませんでしたね」
その言葉を聞き、再びマジックバック内でさらに激しく動き回るミコ。──やっぱり、皆が納得した上で別れないと……なんか、気持ち悪いよな?
別れる前、シンシの事を伝えたときに言ってたな……。
確か、シンシの両親達は自分達もあまり寝れていない。
今日一日は、宿を借りてアラウダでシンシとゆっくりするとか……。
よし、いっちょ──俺の演技力をみせてやろうか!?
「あ~、シマッタゾ! 日用品を買い忘れてしまっタ~!」
俺の発言の違和感にいち早くトゥナが気づいたのだろう、彼女が便乗するかのように後に続いた。
「イワレテみたら~、私も宿に忘れ物をしてしまったかもしれナイワ~!」
荷台の向かいに座っているトゥナと目が合い、お互いの下手くそな演技にクスリッと笑顔がこぼれた。
笑顔はティアに感染し、次第にルームにも感染する。御者席のハーモニーまで笑い始めた。
「ふふ、それは大変じゃないですか! 皆様、今一度アラウダに戻りましょうか?」
両手をパンッ! っと叩いたティアから、俺の意図を汲み取った魅力的な提案がなされた。
「クスッ、じゃぁ折角戻るのだから、シンシ君に挨拶いかせてもらおうかしら?」
「そうだな? 折角だし、皆で挨拶だけしてくか?」
子供の演技の用なやり取りに、マジックバック内にいたミコも顔を出し、物言いたげな顔で俺を見つめた。
「なんだよ、いつもは言いたいことを直ぐ言うだろ? らしくないな」
流石のミコも、この不自然な会話と流れはおかしいと思ったのだろう。
ニコニコしているメンバーの顔を見回すと、やっと口を開いた。
「皆……バカカナ。そんな演技じゃバレバレだシ……。すっごいへたっぴだモン……」
小さな容姿で、一杯一杯頬を膨らませてプイっと視線をはずすミコ。──もう一押しだろうか?
「文句があるなら、俺達だけで仲良くお別れいってくるけど? ミコは嫌なら、無銘の中にでも入ってろよ?」
ミコもこれだけお膳立てされれば分かるだろ?
ここにいる皆は、本当はお前のためにあの村に戻るって言ってるんだよ……お前に笑顔になってもらいたいんだよ!!
小さな手を、震えるほど強く握りしめるミコ……。
先程までとは違い、何かを決意したような顔を俺たちに見せた。
「……ボクも。ボクもお別れ言うカナ!」
──その一言を待っていた!
「ハーモニー!」
「はい~それでは決まりですね!? オスコーン! メスコーン! アラウダに戻りますよ~」
急な急旋回による遠心力で、荷台の中にいる俺達は転がりそうになる。
ただ今は、それすらも楽しく感じてしまう。
村から出た時の雰囲気が嘘のように、村に戻る道中は笑い声が響き渡った──。
しかし、突然シンシと別れた俺達の心は決して晴れず、霧のような靄がかったわだかまりを俺達に残した。
そして、目的がなくなったアラウダの村を出ることに……。
揺れる馬車の上、静閑な雰囲気の中、車輪が回る音だけが虚しく響く。
「──なんや、えらい静やな。なんか辛気くさくあらへんか? 確かに結末は呆気ないもんやったけど……」
彼女の言う事が何となく分かる。
シンシも両親が見つかり、一番喜ばしい結末のはずなのに誰一人笑顔になることはない。
一度みんな集まって、しっかりとサヨナラを伝えた方が気持ちにメリハリがついたのかもしれない……。
何よりムードメーカーのミコがこの調子だとな。
でも俺は、あの時のシンシの笑顔をくもらせることと、何よりミコの覚悟を無駄にするようなことを、したくはないと感じたのだ。
「残念ね……。私も、シンシ君とちゃんとお別れしたかったわ」
トゥナの何気ない一言が聞こえたのか、マジックバックに閉じ籠りっきりになったミコが揺れ動いたのが分かった。
「そうですね。確かに、私もシンシ様の親御さんとの話ばかりで、しっかりとした挨拶は出来ませんでしたね」
その言葉を聞き、再びマジックバック内でさらに激しく動き回るミコ。──やっぱり、皆が納得した上で別れないと……なんか、気持ち悪いよな?
別れる前、シンシの事を伝えたときに言ってたな……。
確か、シンシの両親達は自分達もあまり寝れていない。
今日一日は、宿を借りてアラウダでシンシとゆっくりするとか……。
よし、いっちょ──俺の演技力をみせてやろうか!?
「あ~、シマッタゾ! 日用品を買い忘れてしまっタ~!」
俺の発言の違和感にいち早くトゥナが気づいたのだろう、彼女が便乗するかのように後に続いた。
「イワレテみたら~、私も宿に忘れ物をしてしまったかもしれナイワ~!」
荷台の向かいに座っているトゥナと目が合い、お互いの下手くそな演技にクスリッと笑顔がこぼれた。
笑顔はティアに感染し、次第にルームにも感染する。御者席のハーモニーまで笑い始めた。
「ふふ、それは大変じゃないですか! 皆様、今一度アラウダに戻りましょうか?」
両手をパンッ! っと叩いたティアから、俺の意図を汲み取った魅力的な提案がなされた。
「クスッ、じゃぁ折角戻るのだから、シンシ君に挨拶いかせてもらおうかしら?」
「そうだな? 折角だし、皆で挨拶だけしてくか?」
子供の演技の用なやり取りに、マジックバック内にいたミコも顔を出し、物言いたげな顔で俺を見つめた。
「なんだよ、いつもは言いたいことを直ぐ言うだろ? らしくないな」
流石のミコも、この不自然な会話と流れはおかしいと思ったのだろう。
ニコニコしているメンバーの顔を見回すと、やっと口を開いた。
「皆……バカカナ。そんな演技じゃバレバレだシ……。すっごいへたっぴだモン……」
小さな容姿で、一杯一杯頬を膨らませてプイっと視線をはずすミコ。──もう一押しだろうか?
「文句があるなら、俺達だけで仲良くお別れいってくるけど? ミコは嫌なら、無銘の中にでも入ってろよ?」
ミコもこれだけお膳立てされれば分かるだろ?
ここにいる皆は、本当はお前のためにあの村に戻るって言ってるんだよ……お前に笑顔になってもらいたいんだよ!!
小さな手を、震えるほど強く握りしめるミコ……。
先程までとは違い、何かを決意したような顔を俺たちに見せた。
「……ボクも。ボクもお別れ言うカナ!」
──その一言を待っていた!
「ハーモニー!」
「はい~それでは決まりですね!? オスコーン! メスコーン! アラウダに戻りますよ~」
急な急旋回による遠心力で、荷台の中にいる俺達は転がりそうになる。
ただ今は、それすらも楽しく感じてしまう。
村から出た時の雰囲気が嘘のように、村に戻る道中は笑い声が響き渡った──。
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