異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第三章 リベラティオへの旅路

第188話 教会

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 ──何度目になるのか分からないが、何事もなくアラウダの入り口に着いたぞ。

 看守小屋からは、いつもの三人がこちらに気づき、仕事をするため現れた。

「あ、あんたら……また来たのか?」

 流石に俺達の顔を覚えてたのだろう。彼らは、とても呆れる様な表情でそう答えた。

「はっはっは……。村に忘れ物を取りに戻りました」

 その言葉を聞き頭をかきながら溜め息をつく男達。
 それもそうだろう、本日の早朝、村を出た時、そして今。一日で三度も顔を会わせているのだから……。

「まぁ構わないが、規則だからもう一度ギルドカードを見せて貰うぞ?」

 ギルドカードを見せると前回入ったためか、今回は軽く確認した後に、直ぐ通る事を許された。──流石に……ちょっと恥ずかしい。

 村に入ると、早速宿屋に向かって馬車を走らせることにした。

「確か、シンシ達は宿屋に止まるって言ってたな。亭主に帳面でも見てもらおうか?」

 朝までいた宿屋にまた戻ることに……宿でもきっと同じようなことを言われるんだろうな──。


「──お、お客さん、また来たんですか?」

 ほら見たことか! 分かってた……言われることは分かってた。
 他のメンバーが、また宿に入ることに少し抵抗を持っていたのでリーダーである俺一人が聞き取りに……完璧に貧乏クジだよな、これ?

「あまりにここの宿屋が快適だったからね……別れを惜しんで、ついまた足を運んでしまいました。後少しお聞きしたいのですが、子連れの夫婦が宿泊したいって言って来ませんでしたか?」

 お世辞を言いながら、適当な理由で恥ずかしさを誤魔化しつつ、情報を聞き出す。我ながら見事な作戦だ。

 亭主も「あ、ありがとうございます」と言いながら、宿の宿泊名簿を開いていく。個人情報保護、甘すぎだろ……。

「子供連れ夫婦かい? う~ん。そのようなお客さんは泊まってないね」

「はい? 何かの間違いじゃないのですか!?」

 俺達が村を出てから、随分時間が経ってるよな? 確かに慌てて宿を取るほどの時間でもないが……。

「いえ、間違いありませんよ。今現在お客様は、冒険者の男性が一人っきりなので」

 一人っきりって……。名簿開く必要なかっただろ。でも、確かにそれなら間違えようが無いな……村から出ていたのか? 

「ありがとうございました、また近くに来ることがあったらお世話になります」

 その一言だけ残し、俺は宿を後にした。

「カナデ君、どうだったの? シンシ君達泊まってたのよね?」

「いや、それが泊まってないみたいなんだ……。まだ予約をしてないか、もしくは村から出た可能性もあるな」

 本当に何もかも上手く行かない! でも、今回はばかりは、本当に諦めるわけには行かないんだ……。

「兄さん兄さん、うちが作ったあれや、あれを使えば追跡できるで!」

「あれって……あれか!」

 ルームが作ったマジックアイテムのペアリング、あれならシンシにたどり着ける!

「ミコ、指輪に魔力を込めろ! シンシに会いに行くぞ!」

 俺の呼び掛けに赤い糸がマジックバックから飛び出し、それはどんどんと村の奥へと伸びていく。

「村から出たわけじゃ無さそうだな? 皆、行くぞ!」

 視覚化された赤い糸を追い、村の奥に進んでいく。村の中心を抜け、ギルドの前を通る……。そして、徐々に村の端へと進んでいく──。

「って、ここは教会でしょうか~?」

 教会と思われる建物は、十字架をあしらったオブジェを掲げている。
 一軒家よりは大きな木造建築。建物の周囲には石で作られた、墓石が並んでいる。

「どうしてこんな所に、シンシ様がいるのでしょうか?」

「何ででしょうね……でも赤い糸はこのドアの先に続いていますし」

「カナデさん~何か不気味ですね……」

 ハーモニーが怯える気持ちも分かる……。
 空は暗雲が立ち込め、いつの間にか太陽の光はほとんど届かない。──なんていうか、暗がりの墓地は、雰囲気があるな。

「──ハーモニー危ない、避けて!」

 トゥナの声に振り向くと、突如狼の魔物が大きな口を開けハーモニーに飛び付こうとしていた。

 俺は条件反射で無銘を抜き、振るう。
 空気に触れた刃は瞬く間に、そして無慈悲に魔物を両断した。

 ドサッと地面に落ちた魔物を見ると、無銘で斬った物とは別に、何故か二つほど斬られた後が残っている。

「なんで村の中に魔物がいるんだよ……」

 切り口からは血は流れず、腐敗したような肉の香りが漂ってきた。

「こ、この魔物。シンシちゃんを助けるときに、私がユグドラシルで貫いた……」

 何故その魔物が、この村の中で……。これは、ただ事ではないなにかが、起きているのでは無いだろうか?

「よし、とにかく今は中に入るぞ」

 俺が押すと扉は開かれ、教会内に薄暗い光が差し込む。
 
「──な、なんなんだよ……。これは」

 開けた扉の先には、大小の三人の人影が並ぶ。
 そして教会の床は、所々で赤々とした血の海になっていたのだ……。
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