異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

文字の大きさ
437 / 469
第四章 新天地

421話 秘策

しおりを挟む
「──カナデ君、やっぱりここに居た」

「トゥナ!? どうしたんだよ、夜遅くにこんな所に来て」

 鍛冶場の入口から、トゥナが顔を覗かせた。
 どうやら先ほどの声の主は、彼女だったらしい。

「カナデ君を追って来たのよ。何となく、元気が無さそうだったから……」

 気遣ってなのだろうか、上目遣いで俺の様子を伺っている様だ。

 本当、皆よく見てるな……。
 そんなに俺、分かりやすいのだろうか?

「あー……心配かけちゃってるよな、すまない。それにしても、ハーモニーとティアが良く許したな?」

「今回は私の番らしいから、それに……」

 それに? それに何だろう。

「薄々気付いてると思うの。二人とも私がカナデ君の事で、皆に隠し事をしている事に」

「隠し事?」

「……うん、魔王の正体。その事だけは、誰にも話してないから」

 そうか、だから誰も触れないで居てくれたのか。
 確かにその事が周りに知れ渡れば、心象を悪くするだろう。
 俺だけなら良い。最悪、周りの人にも飛び火するかもしれないからな……。

「そうか……ありがとう。気を使わせちゃったな」

 俺はトゥナにお礼を述べた。
 しかし、彼女の心配事はそれだけでは無いらしい。 

「それと昼間は声に出して確認出来なかったけど、本当にいいの? 相手はお父さんなんでしょ?」っと、さらに表情を曇らせたのだ。

「あの時も言っただろ? 皆を守るのが俺の仕事だから。それにミコは家族だ。例え父さんだろうと、邪魔をするなら……」

 そう、覚悟はとうの昔に決まっている。
 今までとは違う、一歩も引けないところまで来ているのだから……。つまり、背水の陣って奴だ。

「ねぇ、カナデ君。本当にあの人を倒せるの? 不意打ちが通用する相手だとは思えないのだけど……」

「……武器を片手に向かうんだ、その時点で多分駄目だろうな」

 目的はあくまでも鎮を倒すことだ。流石に丸腰で近づく訳にもいかない。
 腰から刀を下げている以上、相手は警戒するのは目に見えてるな。

「じゃぁ、どうやって……」

「そんなの、真っ向勝負しかないだろ?」

「──真っ向勝負って!? いくらカナデ君でも……」

 彼女の言いたい事は分かる。俺達と鎮とでは、戦闘能力に雲泥の差があるのだから。
 だからと言って、後は無いのだ。引く事は許されない。

「大丈夫。俺も考えなしって訳じゃないよ、秘策はある……」

「秘策?」

 勝てる保証はない。
 ただこれ以外の策は、いくら思考を巡らせても考えはつかなかった。

「じいちゃんがどうして、俺に帯刀流剣術じゃなく抜刀術を教えたか、今回の件が関係している気がするんだ」

 抜刀術の特徴。それを最大限に発揮できれば、確信は無いが格上の相手にも対抗できるはずなのだ。
 最速を誇る抜刀術、ならではの方法で──。

「トゥナ、すまないがこの後少し付き合ってくれないか?」

「付き合う? えっと……何をすればいいのかしら?」

 ただ、ぶっつけ本番って訳にも行かない。
 丁度手持ち無沙汰だったし、相手がトゥナなら特訓相手に申し分ない。

 俺は蝋燭を棚から引っ張り出し、火を移していく。
 そしてランタンに入れ、鍛冶屋の外へと並べた、そして──。

「今からするのは、対魔王戦に向けての特訓だよ。トゥナにしか頼めないんだ、協力してくれ!」っと、俺は彼女に向かい刀を構えたのだった。
しおりを挟む
感想 439

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...