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第四章 新天地

422話 閃き

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「驚いたわ……カナデ君の秘策、まさか手も足も出ないなんて」

 ランプに収まっているロウソクの明かりだけで、周囲が薄暗く視界が良好とは言えない。
 しかしそんな中、俺はトゥナに真剣を用いての特訓に付き合ってもらっていた。

「どうだ? これなら奴の早さにも食らいつけると思うんだが」

 実際の戦闘とは、多くの条件が違うだろう。
 それでも俺は、少なからず手応えを感じていた。

 事実、特定条件の下で、俺は彼女の攻撃を一度たりとも受ける事は無かったのだ。

「凄いと思うわ。どれだけ打ち込んでも、私はカナデ君に一撃を入れれる気がしなかった……。ただ──」

 彼女の言わんとする事は、何となく分かっていた。

「まだ、あの人を相手取るには足りないと思うの。何よりカナデ君の右目側……。死角を狙われらたら、どんな技を使おうと……」

 そう、片目を失ったことは戦闘に置いても当然不利にも働く。
 相手がコチラの弱点を知っているのであれば、当然そこを突かれるだろう。
 
「だよな……どうしたものかな?」

 誰に言う訳でも無く、独り言のように呟いた。

 間違いなく、この技は鎮と俺の力量差を埋める事には一役買うだろう。
 しかし対等にはほど足りない……。

「悩んでても仕方がないか。それでも今はこれしか手は無いんだ、トゥナもう一度頼む!」

 俺達はその後も、何度も何度も必死に刃を重ねた。
 今はただ、刀を一心不乱に抜き続ける事で未来を切り開けると信じて。

「ハァハァ……」

 どれほど時が立ったのだろうか?
 息が上がり、服は汗を吸い重く感じる。
 自分でも気づいていた。不安を誤魔化すため、自らを騙し騙しに奮い立たせていると……。

 しかしそんな時だ。突然、トゥナが膝を地面につけたのだ。
 余裕のない俺は、彼女の体調が本調子で無いことを完全に失念していた──。

「大丈夫か!? すまない、無理をさせすぎた……」

 真剣を使った長時間の訓練。彼女の身体に負担がかからない訳がない。
 俺は、いまだ立てずにいるトゥナに向かい手を差し伸べた。

「大丈夫。私はハーモニーみたいにご飯が上手に作れないし、ティアさんみたいにカナデ君をサポートをする事が出来ないから……。だから役に立ててる今が、とても嬉しいの」

 トゥナと目が合い握った手を引くと、強すぎたのだろうか? 彼女は俺の胸の中に納まる形で抱き着いてきた。
 離された手は、いつしか背中へと回されている……。

「あ、あの……トゥナさん?」

 きっと特訓をしていたせいだろう、自分の心臓の鼓動が跳ねてるかのようだ。
 密着しているトゥナに、音が聞こえてしまいそうだ……。それに──。

「凄く柔らかい。それに良い香りだななんて、口が裂けても……」

「カナデ君、声に出てるわよ?」

 しまった! っと思った時には時すでに遅し。
 きっと照れ隠しなのだろう。ドスッ! っと、トゥナの拳が俺の腹へとめり込んだ。

「痛い! って、思ったより痛くない?」

 痛いには痛いのだが、全然我慢できる痛みだった。
 トゥナの力なら、もっと重い一撃を入れられてもおかしくないのに……手加減してくれた?

「──いや、そうじゃない。そうか、この手が」

 咄嗟の閃きで、つい声に漏れた。
 それを聞いたトゥナは「え、何の事?」と、尋ねて来たのだ。
 彼女に説明しようと、俺が口を開きかけた時、抱き着いたままのトゥナが何かに気付いた様に、突然そっぽを向いた。

「空が明るい? 日が登って来たのかしら」

 本当だ。今までずっと光を遮っていた雲が、若干薄れて。 
 もしかしたら、鎮が約束を守って争いを控えているからなのか。

「……って朝帰りじゃないか、これってまずくないよな」

「え、朝に帰ると何か都合が悪いの?」

 穢れの無い瞳で、真っすぐ俺の顔を覗き込む。
 純粋な彼女に、俺の言う朝帰りの意味を説明することが出来ようか……イヤ、出来まい。

「え~っとだな、朝帰りっては……」

 この後、言葉を選びながらも、何とかトゥナに説明する事に成功したのだが。

 この後きっと、自宅で待ち構えているハーモニーとティアに散々お説教を受けることになるのは、言うまでも無いだろうな……。
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