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第二章
勘弁
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「あら、そう・・・・・一言良いかしら?」
埃の被っていた家具、食器、机。ひとまず手入れはされているものの、まだいまいちである。
誰かが運んだであろう西洋風の四角いテーブルに並んだ湯気の立つ食事を前に、小さな女の子がちょこんと椅子に腰掛けている。
背が足りなかったからか、尻の下に厚い枕を敷いてもらっていた。
傍らでは、上着を脱いだ楽な格好をした大和が湯飲みに自ら茶を注いでいる。
鎮守府では絶対にあり得ない光景に、大和とよく似た少女は矢継ぎ早に囃し立てた。
「あんた馬鹿ぁ!?」
身体の震えに合わせて、頭の後ろで結んである長い黒髪が揺れる。
見た目はほぼ大和に似ているが、その萩色の瞳は怒りで染まっていた。
「山城さんと殴りあいするわ、勝手に居なくなるわ・・・・・それだけならまだしも、今度はなに!?誘拐!?」
「人聞きの悪い事をいいんさんな、矢矧。拾ったんよ」
「拾ったで済むか!!」
渾身の雄叫びである。
そもそも、矢矧がここに立ち寄ったのは大和に「相談がある」と持ち掛けられたからであった。
まさか、子供を拾ってしまうなど、誰が想像できようか。生きていれば、陸へ返せばそれで済む話だが、大和から聞く限りその子は生きていないと言うではないか。
「・・・・・一応聞くけど、死者を、子供を拾ってどうするつもりなの?」
もう喚いても仕方がないと、スープのおかわりを要求する女の子に新しいものを差し出す大和を呆れたように見ながら、矢矧は額を押さえつつ問うた。
「ただの死者なら浄土へ送ってやろうと思うたんじゃが、残念な事に、この子の魂は四割も欠けてしもうとる。これじゃあ、すぐにとは言わんがいつかは消えてしまう」
一瞬、矢矧の表情が固まった気がした。信じられないと言うように、大和と女の子を交互に見ている。
「四割も?魂が欠けるなんて事あるの?」
「うちも初めて視た・・・・矢矧、お前もやっぱり視えんか?」
「視えんかって・・・・・あんたの"目"が特殊過ぎるだけで、私達は普通だって何度も言ってるじゃない」
「・・・・・やっぱりそうか」
さっきからばくばくと無言で食事を一生懸命口につめこむ女の子を見ながら、大和はどこか切なそうに目を伏せた。
矢矧の言う"目"とは、大和が艦魂として生まれ変わった時から備わった特異中の特異、魂を可視する能力の事である。
ただ、大和のそれは魂の色、形が見えると言うだけで、こちらから干渉したり弄くり回したり等は出来ないようだ。
それでも矢矧達からしてみれば十分特殊だった。
「それで?どうする気?」
「それをうちらで考えるんよ」
「まさか、なんの考えも無しに連れてきたの?」
呆れた、と言いたげに矢矧は腕を組むと、女の子と対面するように置かれた椅子に遠慮なく腰掛けた。
「あんたって昔からそう言うところあるわよね。熱くなり易いと言うか、脇目もふらないと言うか・・・・・」
「しょうがないじゃろう、咄嗟の事やったんじゃけえ」
「もう・・・・・長門さんに怒られても庇ってやんないんだから」
もう何も言うまい。矢矧の表情からそんな言葉が読み取れるようだった。
女の子は、はる子はしかし、我々の会話に入る事も気にする事もなく美味しそうにスープを飲んでいる。その表情はどこか満足げでもあった。
「ぶちうまいね。うち、こがいなの初めてたべた」
「そ、そう・・・・・良かったじゃない」
矢矧にふられたのか大和にふったのかわからない感想を述べるはる子。
だが、次の瞬間に食事の並んだテーブルにポタポタと水滴がいくつも落ち始めた。驚いた矢矧は声を上げそうになったが、尚もなにか話そうするはる子の言葉に声を失った。
「うちね、いっつもその辺の草とか花とか食べとったんよ・・・・・ずっとお腹が空いて。でもなんもなくて、お魚も、ずっと食べてなかった・・・・」
そう、泣きながら言ったのだ。
あの時代、みんな我慢をしてた。我々の勝利を信じ、帰ってくるのを、ずっと。
もう、矢矧も大和も、なにも言うことが出来なくなってしまった。
埃の被っていた家具、食器、机。ひとまず手入れはされているものの、まだいまいちである。
誰かが運んだであろう西洋風の四角いテーブルに並んだ湯気の立つ食事を前に、小さな女の子がちょこんと椅子に腰掛けている。
背が足りなかったからか、尻の下に厚い枕を敷いてもらっていた。
傍らでは、上着を脱いだ楽な格好をした大和が湯飲みに自ら茶を注いでいる。
鎮守府では絶対にあり得ない光景に、大和とよく似た少女は矢継ぎ早に囃し立てた。
「あんた馬鹿ぁ!?」
身体の震えに合わせて、頭の後ろで結んである長い黒髪が揺れる。
見た目はほぼ大和に似ているが、その萩色の瞳は怒りで染まっていた。
「山城さんと殴りあいするわ、勝手に居なくなるわ・・・・・それだけならまだしも、今度はなに!?誘拐!?」
「人聞きの悪い事をいいんさんな、矢矧。拾ったんよ」
「拾ったで済むか!!」
渾身の雄叫びである。
そもそも、矢矧がここに立ち寄ったのは大和に「相談がある」と持ち掛けられたからであった。
まさか、子供を拾ってしまうなど、誰が想像できようか。生きていれば、陸へ返せばそれで済む話だが、大和から聞く限りその子は生きていないと言うではないか。
「・・・・・一応聞くけど、死者を、子供を拾ってどうするつもりなの?」
もう喚いても仕方がないと、スープのおかわりを要求する女の子に新しいものを差し出す大和を呆れたように見ながら、矢矧は額を押さえつつ問うた。
「ただの死者なら浄土へ送ってやろうと思うたんじゃが、残念な事に、この子の魂は四割も欠けてしもうとる。これじゃあ、すぐにとは言わんがいつかは消えてしまう」
一瞬、矢矧の表情が固まった気がした。信じられないと言うように、大和と女の子を交互に見ている。
「四割も?魂が欠けるなんて事あるの?」
「うちも初めて視た・・・・矢矧、お前もやっぱり視えんか?」
「視えんかって・・・・・あんたの"目"が特殊過ぎるだけで、私達は普通だって何度も言ってるじゃない」
「・・・・・やっぱりそうか」
さっきからばくばくと無言で食事を一生懸命口につめこむ女の子を見ながら、大和はどこか切なそうに目を伏せた。
矢矧の言う"目"とは、大和が艦魂として生まれ変わった時から備わった特異中の特異、魂を可視する能力の事である。
ただ、大和のそれは魂の色、形が見えると言うだけで、こちらから干渉したり弄くり回したり等は出来ないようだ。
それでも矢矧達からしてみれば十分特殊だった。
「それで?どうする気?」
「それをうちらで考えるんよ」
「まさか、なんの考えも無しに連れてきたの?」
呆れた、と言いたげに矢矧は腕を組むと、女の子と対面するように置かれた椅子に遠慮なく腰掛けた。
「あんたって昔からそう言うところあるわよね。熱くなり易いと言うか、脇目もふらないと言うか・・・・・」
「しょうがないじゃろう、咄嗟の事やったんじゃけえ」
「もう・・・・・長門さんに怒られても庇ってやんないんだから」
もう何も言うまい。矢矧の表情からそんな言葉が読み取れるようだった。
女の子は、はる子はしかし、我々の会話に入る事も気にする事もなく美味しそうにスープを飲んでいる。その表情はどこか満足げでもあった。
「ぶちうまいね。うち、こがいなの初めてたべた」
「そ、そう・・・・・良かったじゃない」
矢矧にふられたのか大和にふったのかわからない感想を述べるはる子。
だが、次の瞬間に食事の並んだテーブルにポタポタと水滴がいくつも落ち始めた。驚いた矢矧は声を上げそうになったが、尚もなにか話そうするはる子の言葉に声を失った。
「うちね、いっつもその辺の草とか花とか食べとったんよ・・・・・ずっとお腹が空いて。でもなんもなくて、お魚も、ずっと食べてなかった・・・・」
そう、泣きながら言ったのだ。
あの時代、みんな我慢をしてた。我々の勝利を信じ、帰ってくるのを、ずっと。
もう、矢矧も大和も、なにも言うことが出来なくなってしまった。
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