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第二章
ハジメノ功績
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「いやぁ、派手に暴れたんですねぇ」
診察台に座る大和の右腕を掴みながら、少し煤けたような灰色の髪をかきあげつつ、冷や汗を流して明石が言う。
上着を脱ぎ、シャツの袖を捲りあげた格好で大和はされるがままに治療を受けていた。
思いの外火傷の具合が悪く、出血もまだ止まらない。なんとかして薬を塗って白いガーゼをあて包帯でぐるぐる巻きにしてしまえば、ある程度はおさまるだろうとの事だった。
「事実上の中破、と言ったところですか。また修理資材が嵩みますな。一体お相手はどんな手を使ってきたんです?」
明石はくるくると慎重に白い包帯を巻いていくが、やはり激しく痛むのか大和は時折ビクッと肩を揺らし険しい表情を浮かべた。
「・・・・・至って普通の弩級型だった。魚雷発射管を装備していたのは計算外だったが。ただ、生者ばかりを狙っていた座頭がどうして死者・・・・・はる子を狙ったのかわからない」
「その事でしたら、私からご説明したします」
ノックすら飛ばしていきなり戸を開けられた。入ってきたのは黒縁の眼鏡をかけた、背の低い女性だった。黒髪に一房分の緑髪が混じっている。きちんと白い第二種軍装を着込み、手には黒表紙を抱えていた。
「大淀・・・・・」
「ご苦労様です、大和さん。それで、座頭の事ですが・・・・・」
明石の使っている机、それとセットになっていた丸い椅子に腰かけて、大淀は眼鏡のズレを直しながら続ける。
「赤城さんが持ち帰った座頭の骸を私と明石さんとで細かく分析した結果、座頭は人間や動物、我々のような"生きてはいないが存在はしているモノ"の魂を取り込む事で、活動を活性化させている事がわかりました。座頭が人を襲うのも、自分たちが"生きていく"原動力を得ることを目的としている為、と言うのが私と明石さんの見解です」
「・・・・・・じゃあ、一度轟沈してしまった艦の魂は」
「座頭に取り込まれたと見るべきですかね。もちろんこれは可能性の話になりますから、沈んでしまった艦魂が全て座頭に食われたとも言いきれません。しかし、あれだけ"サルベージ"を繰り返しても、引き揚げられた艦魂はごく僅か。これは紛れもない事実です」
ふと、大和の腰かけた診察台のすぐ横、休息の為のベッドに大淀は目線を投げた。泣き叫び、声も気力も渇れ果てたはる子が、背中を丸めた格好で眠っている。
傍らでは、何故か一緒に着いてきた妙高もおり、うつらうつらしながらはる子の背をとんとんと静かに叩いていた。
「・・・・・あと少し遅ければ、彼女も座頭の贄となっていた。危ないところでしたね」
不意に大淀の表情が和らいだ。死者とは言え、元は我ら艦魂の産みの親たる人間だ。親を救う事になり、大淀は大変満足であった。
しかし、大和の顔に笑みが浮かぶことはなかった。どこか浮かばれないような、納得し難いように眉をひそめた顔をしていた。損傷の激しい右手を思い切り握り締め、なにかに耐えている。大淀にはそう見えた。
「気ばかり焦っては事を損じます。これはあくまで可能性の話です。座頭から、取り込まれてしまった魂を引き戻す術もきっとあります。我々の研究が進めば、きっと武蔵と信濃も・・・・・」
気を遣った明石が静かに諭すが、大和はいきなり立ち上がって側に置いてあった上着を乱暴に引っ付かんだ。油断していたのと眠かけていたのとで、妙高は思い切り肩を揺らして頭を起こした。
「もう良い。もう聞き飽きた」
「や、大和さん・・・・・!」
「え、なに?なにしてんのお前?」
すっとんきょうな妙高の物言いに更に神経を逆撫でされたらしく、大和は明石の呼ぶ声の一切を切り捨てて医務室から出ていってしまった。
診察台に座る大和の右腕を掴みながら、少し煤けたような灰色の髪をかきあげつつ、冷や汗を流して明石が言う。
上着を脱ぎ、シャツの袖を捲りあげた格好で大和はされるがままに治療を受けていた。
思いの外火傷の具合が悪く、出血もまだ止まらない。なんとかして薬を塗って白いガーゼをあて包帯でぐるぐる巻きにしてしまえば、ある程度はおさまるだろうとの事だった。
「事実上の中破、と言ったところですか。また修理資材が嵩みますな。一体お相手はどんな手を使ってきたんです?」
明石はくるくると慎重に白い包帯を巻いていくが、やはり激しく痛むのか大和は時折ビクッと肩を揺らし険しい表情を浮かべた。
「・・・・・至って普通の弩級型だった。魚雷発射管を装備していたのは計算外だったが。ただ、生者ばかりを狙っていた座頭がどうして死者・・・・・はる子を狙ったのかわからない」
「その事でしたら、私からご説明したします」
ノックすら飛ばしていきなり戸を開けられた。入ってきたのは黒縁の眼鏡をかけた、背の低い女性だった。黒髪に一房分の緑髪が混じっている。きちんと白い第二種軍装を着込み、手には黒表紙を抱えていた。
「大淀・・・・・」
「ご苦労様です、大和さん。それで、座頭の事ですが・・・・・」
明石の使っている机、それとセットになっていた丸い椅子に腰かけて、大淀は眼鏡のズレを直しながら続ける。
「赤城さんが持ち帰った座頭の骸を私と明石さんとで細かく分析した結果、座頭は人間や動物、我々のような"生きてはいないが存在はしているモノ"の魂を取り込む事で、活動を活性化させている事がわかりました。座頭が人を襲うのも、自分たちが"生きていく"原動力を得ることを目的としている為、と言うのが私と明石さんの見解です」
「・・・・・・じゃあ、一度轟沈してしまった艦の魂は」
「座頭に取り込まれたと見るべきですかね。もちろんこれは可能性の話になりますから、沈んでしまった艦魂が全て座頭に食われたとも言いきれません。しかし、あれだけ"サルベージ"を繰り返しても、引き揚げられた艦魂はごく僅か。これは紛れもない事実です」
ふと、大和の腰かけた診察台のすぐ横、休息の為のベッドに大淀は目線を投げた。泣き叫び、声も気力も渇れ果てたはる子が、背中を丸めた格好で眠っている。
傍らでは、何故か一緒に着いてきた妙高もおり、うつらうつらしながらはる子の背をとんとんと静かに叩いていた。
「・・・・・あと少し遅ければ、彼女も座頭の贄となっていた。危ないところでしたね」
不意に大淀の表情が和らいだ。死者とは言え、元は我ら艦魂の産みの親たる人間だ。親を救う事になり、大淀は大変満足であった。
しかし、大和の顔に笑みが浮かぶことはなかった。どこか浮かばれないような、納得し難いように眉をひそめた顔をしていた。損傷の激しい右手を思い切り握り締め、なにかに耐えている。大淀にはそう見えた。
「気ばかり焦っては事を損じます。これはあくまで可能性の話です。座頭から、取り込まれてしまった魂を引き戻す術もきっとあります。我々の研究が進めば、きっと武蔵と信濃も・・・・・」
気を遣った明石が静かに諭すが、大和はいきなり立ち上がって側に置いてあった上着を乱暴に引っ付かんだ。油断していたのと眠かけていたのとで、妙高は思い切り肩を揺らして頭を起こした。
「もう良い。もう聞き飽きた」
「や、大和さん・・・・・!」
「え、なに?なにしてんのお前?」
すっとんきょうな妙高の物言いに更に神経を逆撫でされたらしく、大和は明石の呼ぶ声の一切を切り捨てて医務室から出ていってしまった。
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