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第二章
撤退戦線
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「・・・・・しぶといのぉ」
黒煙に続き、赤錆の様な体液を噴き出しながらも、今だ大和の前を譲らぬ座頭を見ながら舌打ちをした。
演習のまま急行したため、残りの弾数はあと幾ばくもない。
大和は、再び主砲へ次弾装填をし間髪いれずに撃つ、撃つを繰り返す。発射の衝撃で身体が痛む。副砲を握る右手には大きな火傷ができ、出血も始まっている。
はる子は依然として震えたままだ。大和も、これ以上戦局を長引かせたくはない。救援の到着を待っている余裕は、もうはる子の方にはないからだ。
「撤退するしかないか・・・・・」
座頭を取り逃がすとなれば、艦魂達からの叱責を浴びるのは目に見えている。しかし打電では、はる子の救出を最優先としていた。ここで座頭にはる子を奪われるくらいなら、出直す方が懸命だろう。
今の座頭は瀕死とは言わないが、もう戦闘継続の余力はなさそうに見える。
腹を決めた大和は副砲を腰のベルトに引っかけると、主砲による最後の一撃を放つと同時に駆け出した。
ミシ、と身体から限界のサインが来た。肩とも足とも言えぬ箇所から鈍い痛みが競り上がってくる。大和は歯を食い縛って走り続けた。
✳️
「沖合い八○○○より、大和さんを確認!」
ニメートル程ある高い鉄塔の頂点に登り、双眼鏡で海を覗いていた背の低い少女が、下へ向けて叫んだ。
白いスカートをなびかせながら、彼女は状況を伝え続ける。声は少々緊張したように震えているが、平静を保つよう心掛けているのがわかった。
「雪風、はる子はいる?」
「えーと・・・・・はい、います!しっかり抱っこされてます!」
その報告をうけ、陸奥たちは安心したようにほっと胸を撫で下ろした。すぐさま救援に向かっていた他の艦隊に帰投命令を出し、第二種警戒態勢を取るよう大淀へ打電を送り号令を下した。
「良かったなー、陸奥さん。なんだかんだ一番心配してたんじゃない?」
陸奥の横で、装備した艤装の砲を腰から外しながら妙高が笑う。
陸奥は、少し照れ臭いような、困ったような微笑みで答えた。
「いやしかし、まさかあいつが一番乗りで駆け付けるとはなぁ。不貞腐れてるかと思ってたのに、本当めんどくせぇ奴」
妙高と同じく、脚部艤装の金具を取り外しつつやれやれとため息を吐いて伊勢がぼやく。折角準備したのに、と言いたげであった。手慣れてるとは言え、艤装の脱着は結構手間なのだ。
「そう言いなさんな。貴方たちだって一緒の癖に」
「俺らはただ座頭の奴をぶっ潰してぇだけですよ。あいつの為なんかじゃ・・・・・」
言いながら、妙高たちは雪風らを伴って海岸へ早足で坂を下り始めた。
道すがら、何人かの艦魂たちも合流してくる。ぶつくさなにやら言い合ってはいるが、どうしても気になるらしい。
人数の増えた妙高らはさして気にはとめていないようでそのまま港を目指す。
陸奥たちが港に到着したのと、大和が主砲やらの重たい艤装を解除し地面におろしたのはほぼ同時だった。
右側面あたりの装甲は煤けてへこみ、備え付けてあったごく小さな機関砲のいくつかは潰れたり捻曲がったりしてしまっている。どれだけ激しい戦闘を繰り広げていたのか、察するのは容易い。
大和自身、右の袖が肘のすぐ下辺りまでボロボロに焦げており、シャツの白色が若干見えている。袖から覗く右手は、指の先まで大きく焼け爛れていた。
妙高たちの後に着いてきた他の艦魂たちは思わず息を飲んだ。
あの大和が、たった一人の子供の為にここまでしたのか。そう言いたげな表情をしていた。
「・・・・・ここまでしろなんて言ってないんだけど?」
少し険しい目付きをたたえながら、陸奥は低く言った。
「もう、本当に容赦ないのね。良いわ、あとは私がやるから、先に明石の所にいってらっしゃい。一度、はる子はそこで預けてね。お兄ちゃんにきちんと、貴女から話をするように」
それだけ言うと陸奥は集まってきた野次馬に解散するよう手を叩いて促し、損傷の激しい大和の艤装の方に向き直ってなにやら点検を始めた。
身体が痛むのと、火傷のせいで出血が止まらないのとで大和は素直に陸奥の言う事を聞き、はる子を抱えたまま鎮守府へ足を向けた。もう噛みつく余力もなかったのだ。
「着いていってやろうか?」
面白半分のつもりなのか、頭の後ろで手を組ながら妙高が持ちかけた。しかし、大和はいっさい答えない。無視をして鎮守府に向かっていく。
それをなんと捉えたか、妙高はふいーっと鼻から息を吐いて、ゆっくり歩いていく大和の後ろへついたのだった。
黒煙に続き、赤錆の様な体液を噴き出しながらも、今だ大和の前を譲らぬ座頭を見ながら舌打ちをした。
演習のまま急行したため、残りの弾数はあと幾ばくもない。
大和は、再び主砲へ次弾装填をし間髪いれずに撃つ、撃つを繰り返す。発射の衝撃で身体が痛む。副砲を握る右手には大きな火傷ができ、出血も始まっている。
はる子は依然として震えたままだ。大和も、これ以上戦局を長引かせたくはない。救援の到着を待っている余裕は、もうはる子の方にはないからだ。
「撤退するしかないか・・・・・」
座頭を取り逃がすとなれば、艦魂達からの叱責を浴びるのは目に見えている。しかし打電では、はる子の救出を最優先としていた。ここで座頭にはる子を奪われるくらいなら、出直す方が懸命だろう。
今の座頭は瀕死とは言わないが、もう戦闘継続の余力はなさそうに見える。
腹を決めた大和は副砲を腰のベルトに引っかけると、主砲による最後の一撃を放つと同時に駆け出した。
ミシ、と身体から限界のサインが来た。肩とも足とも言えぬ箇所から鈍い痛みが競り上がってくる。大和は歯を食い縛って走り続けた。
✳️
「沖合い八○○○より、大和さんを確認!」
ニメートル程ある高い鉄塔の頂点に登り、双眼鏡で海を覗いていた背の低い少女が、下へ向けて叫んだ。
白いスカートをなびかせながら、彼女は状況を伝え続ける。声は少々緊張したように震えているが、平静を保つよう心掛けているのがわかった。
「雪風、はる子はいる?」
「えーと・・・・・はい、います!しっかり抱っこされてます!」
その報告をうけ、陸奥たちは安心したようにほっと胸を撫で下ろした。すぐさま救援に向かっていた他の艦隊に帰投命令を出し、第二種警戒態勢を取るよう大淀へ打電を送り号令を下した。
「良かったなー、陸奥さん。なんだかんだ一番心配してたんじゃない?」
陸奥の横で、装備した艤装の砲を腰から外しながら妙高が笑う。
陸奥は、少し照れ臭いような、困ったような微笑みで答えた。
「いやしかし、まさかあいつが一番乗りで駆け付けるとはなぁ。不貞腐れてるかと思ってたのに、本当めんどくせぇ奴」
妙高と同じく、脚部艤装の金具を取り外しつつやれやれとため息を吐いて伊勢がぼやく。折角準備したのに、と言いたげであった。手慣れてるとは言え、艤装の脱着は結構手間なのだ。
「そう言いなさんな。貴方たちだって一緒の癖に」
「俺らはただ座頭の奴をぶっ潰してぇだけですよ。あいつの為なんかじゃ・・・・・」
言いながら、妙高たちは雪風らを伴って海岸へ早足で坂を下り始めた。
道すがら、何人かの艦魂たちも合流してくる。ぶつくさなにやら言い合ってはいるが、どうしても気になるらしい。
人数の増えた妙高らはさして気にはとめていないようでそのまま港を目指す。
陸奥たちが港に到着したのと、大和が主砲やらの重たい艤装を解除し地面におろしたのはほぼ同時だった。
右側面あたりの装甲は煤けてへこみ、備え付けてあったごく小さな機関砲のいくつかは潰れたり捻曲がったりしてしまっている。どれだけ激しい戦闘を繰り広げていたのか、察するのは容易い。
大和自身、右の袖が肘のすぐ下辺りまでボロボロに焦げており、シャツの白色が若干見えている。袖から覗く右手は、指の先まで大きく焼け爛れていた。
妙高たちの後に着いてきた他の艦魂たちは思わず息を飲んだ。
あの大和が、たった一人の子供の為にここまでしたのか。そう言いたげな表情をしていた。
「・・・・・ここまでしろなんて言ってないんだけど?」
少し険しい目付きをたたえながら、陸奥は低く言った。
「もう、本当に容赦ないのね。良いわ、あとは私がやるから、先に明石の所にいってらっしゃい。一度、はる子はそこで預けてね。お兄ちゃんにきちんと、貴女から話をするように」
それだけ言うと陸奥は集まってきた野次馬に解散するよう手を叩いて促し、損傷の激しい大和の艤装の方に向き直ってなにやら点検を始めた。
身体が痛むのと、火傷のせいで出血が止まらないのとで大和は素直に陸奥の言う事を聞き、はる子を抱えたまま鎮守府へ足を向けた。もう噛みつく余力もなかったのだ。
「着いていってやろうか?」
面白半分のつもりなのか、頭の後ろで手を組ながら妙高が持ちかけた。しかし、大和はいっさい答えない。無視をして鎮守府に向かっていく。
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