プレイヤーズゲーム 〜生徒たちの挑戦〜

モンモン

文字の大きさ
4 / 27

第4話 最速の証明

しおりを挟む
朝6時。
桜須学院高校は、いつになく静かだった。
県総体開催に伴い休校となった日――。
だが、校門を抜けていく陸上部員たちの背には、それぞれの「最後の夏」が乗っていた。

川瀬涼賀はスパイク袋を手に、
バスに揺られながら、窓の外に流れる景色を見ていた。
今日の空は雲ひとつない。
まるで、自分たちを見届けるかのようだった。

「おい、涼賀。寝れたか?」

副キャプテンの沙玖が隣で笑う。

「三時間くらい」

「それ寝てねぇだろ」

「まぁ、走ってる夢見てたけどな」

「やっぱ陸上バカだわ」

軽口を交わしながらも、どこかに張り詰めた空気があった。

競技場のスタンドは人で埋まっていた。
その中には、大夢の姿。
そして、その隣に――拓海。
真っ直ぐに競技場を見つめている。
その表情は静かで、どこか遠い。

(……あいつ、どんな顔で走るんだろ)

口に出さずとも、心の奥で応援していた。

さらに隣の席には、父・由嗣の姿もあった。
腕を組み、息子を見つめる目は厳しくも温かい。

「涼賀、そろそろアップ行くよ」

スタンド下の通路で声をかけてきたのは、
陸上部マネージャー・萌歌。
束ねた髪を揺らしながら、
ドリンクボトルを差し出す。

「ありがとな、萌歌」

「今日の涼賀、絶対調子いいよ。顔が違うもん」

「顔?」

「うん。いつもよりちょっと“勝ち顔”してる」

「……そんな顔あるかよ」

「ある。ほら、主将なんだからカッコつけなきゃ」

そう言って笑う萌歌に、涼賀も苦笑した。

「沙玖もそろそろ来るって。2人とも、絶対決勝行こうね」

「任せとけ」

「もちろん」

萌歌の笑顔が、不思議と緊張をほぐしてくれた。
このチームが支え合ってここまで来たことを、
改めて実感する瞬間だった。


1. 予選:確信の加速

午前10時。男子100m予選。3組6レーンの川瀬涼賀は、スターティングブロックを調整しながらスタンドを見上げた。

(......やっぱり来てるんだな、あいつ)

確に近い予感。涼賀はあえて視線を外さず、自分を見つめる親友の気配を全身で受け止め、前を見据えた。

"On your marks" ー "Set"ーパンッ!

ピストルの音。
一瞬で世界が音を失う。
踏み出した一歩。空気を裂く感覚。
すべての思考が、ただ前だけを見ていた。
ゴールラインを駆け抜ける。
掲示板に数字が浮かぶ。
10秒89と異次元なタイムで1着通過。

沙玖も6組8レーンで10秒94と余裕の1着通過。
桜須学院の声援が、会場全体に響いた。

準決勝までの空き時間。
涼賀はスタンドの大夢のもとへ向かう。

「おーい、大夢!」

「おつかれ! 見事な走りだったな!」

「まぁ、悪くなかった」

「悪くなかった、ねぇ……。全国狙いの余裕発言か?」

「ちげぇよ。まだ満足してねぇだけだ」

「お前らしいわ」

ふたりは並んで他の競技を眺めた。
スタンドを吹き抜ける風が心地いい。

「なぁ、涼賀。さっきのスタート、速かったな」

「狙ったわけじゃねぇけど、身体が勝手に動いた」

「……昔からそうだったよな。考えるより先に動くタイプ」

「お前は逆に考えすぎ」

「はは、それな」

大夢が笑う。
涼賀もつられて笑った。
そして、ふと視線を遠くのスタンドへ。
その先で拓海がこちらを見ていることに気づかずに。

準決勝前、アップ場。
萌歌が駆け寄ってきた。

「涼賀、タイム良かったじゃん!」

「まだ準決勝、油断できねぇ」

「わかってる。でもね、顔がまた変わってる」

「今度はどんな顔だよ」

「“勝つ人の顔”。……あたし、何年も見てきたからわかるんだ」

「そっか。なら、信じるわ」

「うん。信じて、走って」

萌歌の言葉はまっすぐで、涼賀の胸にすっと染み込んだ。

準決勝――組1着で決勝進出。
沙玖も別組2着で決勝を決めた。

スタンドでは、大夢と拓海がふと呟く。

「いけるな、あいつ」

「……ああ、いける」

拓海の声は低く、しかし確信に満ちていた。

2. 決勝前:託された想い

決勝一時間前。ウォーミングアップエリアには、異様なまでの緊迫感が漂っていた。
涼賀と沙玖は、言葉を交わさずとも互いのリズムを感じ取りながら、入念に動きを確認していく。二人とも、限界まで研ぎ澄まされていた。

「二人とも、ちょっといい?」

声をかけたのは、マネージャーの萌歌だった。その後ろには大夢と、興奮を抑えきれない奏人が立っている。
「これ、冷えてるから。あと……これ、お守り」

萌歌が手渡したのは、キンキンに冷えたスポーツドリンクと、萌歌らマネージャー手作りのお守りだった。

「涼賀先輩、沙玖先輩。僕、一番近くで二人のワン・ツーが見たいです!」

奏人が拳を握りしめる。大夢も静かに眼鏡を上げ、涼賀の肩を叩いた。

「科学的な根拠は十分だ。あとは、2人がその脚で証明するだけだぞ」

「……ああ。行ってくる」

涼賀はお守りの感触を確かめ、沙玖と顔を見合わせた。幼馴染たちの、そして仲間の想いが、二人の脚に最後の力を宿らせる。

夕方、決勝。
西日がトラックを金色に染め、スタジアム全体が静まり返る。

アップを終えた涼賀のもとへ萌歌が小走りでやってきた。

「涼賀、最後。思い切り行こう」

「……ああ」

「負けてもいい。でも、後悔する走りは絶対だめ」

「……わかってる。ありがとう、萌歌」

「がんばれ、主将」

萌歌が軽く背中を叩く。
その一撃が、不思議と身体の芯を温めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...