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第3話 試合間近の共鳴
しおりを挟む1. 追い風の継承
インターハイ予選を三日後に控え、桜須学院高校のグラウンドは、夕闇が迫る中でも熱気に包まれていた。
「涼賀先輩! 今の200、最後の一歩まで伸びてました! すごいです!」
声を弾ませて駆け寄ってきたのは、二年生の次期キャプテン**若林奏人(わかばやし・かなと)**だ。彼は涼賀、大夢、拓海、萌歌の中学の後輩。涼賀の背中を追って桜須学院に進学。現在は短距離の期待の星として、憧れの涼賀と共に練習に励んでいる。
「見てた?奏人にそう言われると、もっと上げなきゃって思うよ」
「何言ってるんですか、今のタイム、僕じゃ到底届かないですよ!」
奏人は無邪気に笑う。彼は、涼賀、拓海、大夢、萌歌の四人が一緒に笑い合っていた時代を知る、数少ない後輩でもあった。
「涼賀、奏人くん。休憩入れて。水分補給もしっかり!」
マネージャーの萌歌が、キンキンに冷えたボトルを持って駆け寄る。その隣には、副主将の沙玖が寄り添い、優しく微笑んでいる。
「涼賀、今の走りは完璧だよ。でも、奏人くんが言うように少し気合が入りすぎているかな。本番まで、心に少し『遊び』を作っておいた方がいいかも」
「……そうだな、沙玖。ありがとう」
沙玖の柔らかな言葉に、涼賀の肩からふっと力が抜ける。奏人もそんな先輩たちの空気感に中てられたように、嬉しそうに頷いていた。
2. 窓越しの情景
一方、北校舎の理科室では、大夢率いる科学部全員が静かな熱気に包まれていた。
夏の科学オリンピックに向けた準備は、今が正念場だ。モニターには複雑な化学式のシミュレーションが走り、机には膨大な文献が積み重なっている。
「よし……この触媒の反応速度なら、去年の優勝記録を上回れるはずだ」
大夢は眼鏡を拭き、ふぅ、と長く息を吐いて椅子を回した。
休憩がてら窓辺に立つ。そこからは、夕日に照らされたグラウンドが一望できた。
(……みんな、やってるな)
大夢の視線の先には、沙玖や萌歌らに見守られながらスタートの確認を繰り返す涼賀の姿があった。そして、そのすぐ隣で懸命に追いかける奏人の姿も見える。
「涼賀の走りは、科学じゃ説明できない『意志』の塊だからな」
大夢は一人で静かに笑った。自分はフラスコの中で、涼賀はトラックの上で、拓海はプールの底で。場所は違えど、全員が「極限」を目指している。大夢は再びデスクに向き直り、ペンを走らせ始めた。
その光景を見た二年生部員**青木想真(あおき そうま)**は
(部長、なんだか楽しそう)
と心の中で呟いた。
3. 水底の咆哮:拓海の沈黙
屋内プールでは、渡邊拓海が県総体に向けて、筋肉のキレを出す最終段階に入っていた。
「……ッ、はぁ」
水面から顔を出した拓海の瞳は、鋭く研ぎ澄まされている。陸上と水泳の二刀流で培った強靭なメンタル。彼は今、誰とも言葉を交わさず、ただ自身の限界と向き合っていた。
練習を切り上げ、道具を片付けていた拓海のもとへ、練習を終えた奏人がひょっこりと顔を出した。奏人は中学時代に拓海からも指導を受けていたため、今でもこうして時折、拓海の様子を見に来るのだ。
「拓海さん、お疲れ様です! プール、今日もいい音してましたね」
「奏人か。……グラウンドの方は、どうだ」
拓海はプールから目を逸らさずに、静かに尋ねた。
「涼賀先輩、今日もいいタイムで走ってました。沙玖先輩も萌歌先輩もついてますし、雰囲気最高ですよ」
「……そうか、なら安心した。」
拓海の返事は短かったが、そこには拒絶ではない、何かを確かめるような響きがあった。
4. 予選前夜の静寂
その日の帰り道。萌歌は、部室の鍵を閉めて一人校門へ向かう涼賀に追いついた。
「涼賀!」
「萌歌か。もう終わった?」
「うん。……ねぇ、今日、拓海の練習を見てきた奏人くんから聞いたんだけど」
涼賀は足を止め、遠くの街灯を見つめた。
「拓海……口には出さないけど、やっぱりグラウンドの方を気にしてるみたい。涼賀たちがどうしてるか、ずっと気になってるんだって」
萌歌の言葉に、涼賀は何も答えなかった。
だが、その拳は、練習着のポケットの中で固く握られていた。
「……あいつがどこで何をしてようが、俺は俺の走りをするだけだ。それが、あいつへの思いやりってやつだ。」
涼賀の言葉には、過去の感傷を振り払うような強さがあった。
三日後、インターハイ予選。
そして、大夢の科学オリンピックへの挑戦。
五人の仲間と、一人の後輩。それぞれの想いを乗せた「最後の夏」が、いよいよ幕を開ける。
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