プレイヤーズゲーム 〜生徒たちの挑戦〜

モンモン

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第2話 それぞれの場所で

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1. 幼馴染の距離感

陸上部の練習後、マネージャーの**山口萌歌(やまぐち・もか)**は、涼賀たちのタイムをノートに記録しながらふと空を見上げた。
萌歌は、滝溝中学校出身。涼賀、大夢、そして拓海と小学校からの幼馴染だ。中学時代は陸上部に所属し、100mと200mを専門でやっていたこともあり、3人のことをよく知っている。
高校に入り、涼賀と拓海の間に流れる奇妙な沈黙を誰よりも悲しく、そしてもどかしく思っているのは彼女だった。

「涼賀、はい。今日もお疲れ様。これ、筋肉の疲れに効くサプリ」

「ありがとな、萌歌。いつも助かるよ」

涼賀は萌歌から差し出されたボトルを受け取り、表情を緩める。
萌歌は大夢と同じく、今でも涼賀と拓海、両方の部活を等しく気にかけていた。彼女だけは、二人を繋ぐ細い糸を切りたくないと願っている。

2. ライバルを超えた信頼

「涼賀、今のスタート、腰の位置そして後半のピッチがすごく良かったよ。このままいけば予選は確実にトップ通過だね」

穏やかな声でそう言ったのは、陸上部副主将の**金本沙玖(かなもと・さく)**だ。
彼は関村中学校出身。涼賀と何度も死闘を繰り広げたかつてのライバルだ。同じ高校に進んでからは、誰よりも涼賀の努力を理解し、支える理解者となった。

「沙玖がそう言ってくれると自信が出るよ」

「俺こそ、涼賀の走りでいつも刺激をもらっているよ。さあ、もう一本だけ流して終わりにしようか。無理は禁物だぞ」

沙玖の優しさは、勝負の世界で神経を尖らせている涼賀にとって、最高の仲間だった。

3. 水底の咆哮:拓海の挑戦

一方で、屋内プールでは拓海が、県総体に向けての最終調整に入っていた。
陸上部の熱気とは対照的に、水泳部は重く、力強い水の音だけが響いている。

(もっと深く、もっと鋭く……)

拓海は壁を蹴る。中学時代、陸上で培った爆発的な脚力は、今や推進力へと完全に変換されていた。県総体で全国の切符を掴むためには、自己ベストの更新が絶対条件だ。

「拓海、ストロークが少し硬いぞ。肩の力をもっと抜くんだ。」

顧問の指示に、拓海は水面から顔を出し、短く返事をする。
彼の視界の端には、時折、窓の外のグラウンドを走る涼賀の影が映る。そのたびに、心臓の鼓動が速まるのを感じていた。

「……負けられないんだ、俺も」

拓海は再び水中へ潜る。彼にとっての県総体は、ただの大会ではない。陸上を選ばなかった自分への、そして言葉を交わせない親友への、彼なりの「証明」の場でもあった。

プールサイドで拓海の練習を見かねた、2年生の部員で次期キャプテンでもある**鎌田 純希(かまだ じゅんき)**が声をかける。

「拓海先輩、今日すごい集中ですね」

「……そりゃな。これが最後の夏だから」

「全国、また行くんですよね?」

「当たり前だ」

笑いながらも、その瞳には静かな焦りが浮かんでいた。
拓海はわずかに水を蹴る力を強めた。
水の抵抗が全てを洗い流してくれる気がした。

一方そのころ。
理科室では、大夢が机に向かっていた。
白衣の袖をまくり、試験管を慎重に扱う。

「……あれ、また反応ずれたな」

机の上のノートには、無数の数式と失敗の記録。
科学部部長として、県科学オリンピック大会に向けた実験を続けていた。
だが、結果は思うように出ない。

「やっぱり、温度管理ミスか……」

ペンを置き、ため息をついた。
窓の外では、陸上部の掛け声が響いている。
トラックを走る涼賀の姿が小さく見えた。

「……僕も負けてられないな」

そう呟いて、再びノートを開く。
最終下校時間まで続く実験。
ときどき心が折れそうになるけれど、
あの二人が汗を流している姿を見ると、不思議と立ち上がれる。

「やっぱり僕も、あいつらと同じ“今”を生きてるんだな」

小さく笑って、試験管を握り直した。
窓の外の夕陽が、白衣を淡く照らしていた。


夕暮れ。

練習を終えた涼賀がタオルで汗を拭っていると、大夢がグラウンドのフェンス越しに手を振った。

「涼賀おつかれー! 相変わらず速いな!」

「大夢こそ、白衣姿で日焼けしたら面白いな!」

「それは一生ないな」

「だろうな」

軽口を交わすふたりの間に、穏やかな風が流れる。

「……拓海も、もうすぐ大会だろ」

「うん。知ってる」

「また、同じ舞台に立てたらいいな」

「立てるさ。2人なら」

大夢の声は静かで、どこか優しかった。
その言葉に、涼賀はわずかに頷く。
互いに多くは語らない。けれど、心の奥ではちゃんと通じている。

空の色がゆっくりと藍に変わっていく。
吹き抜ける風が、夏の気配を運んできた。

——それぞれの場所で、三人の、そして萌歌と沙玖を加えた五人の時間は、インターハイ予選と県総体という大きな舞台に向かって加速し始めていた。

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