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第6話 繋がる絆
しおりを挟む1. 予選:繋がれるバトン
会場は1日中熱気に包まれていた。
大会1日目
最初のトラック競技である、男子4×100mリレー予選。桜須学院のオーダーは、1走・若林奏人(2年)、2走・堀江絢太(3年)、3走・青山悠真(3年)、4走・谷口昭美(3年)。エースの涼賀と副主将の沙玖を温存した構成だ。
「昭美さん、頼みます!」
「任せとけ。決勝へ繋ぐのが俺の仕事だ」
アンカーの谷口が力強く頷く。奏人は緊張した面持ちで第1コーナーのスタート地点に立った。
"On your marks" —— "
Set" —— パンッ!
奏人は弾かれたように飛び出した。憧れの先輩たちの舞台を汚すまいと、必死の形相でコーナーを駆け抜ける。バトンは絢太、悠真へと確実に渡り、アンカーの谷口へ。谷口は3年生としての意地を見せ、粘り強い走りで着順を死守。見事、予選突破を決めた。
「奏人、ナイスラン! 昭美もサンキューな!」
スタンド下で迎えた涼賀が、二人の肩を叩く。奏人は「……心臓が口から出るかと思いました」と、ようやく安堵の表情を見せた。
2. 準決勝:エースの帰還
午後に行われた準決勝。ここでついにアンカーとして川瀬涼賀が投入される。1走は引き続き、勢いのある後輩の奏人が務める。
スタンドでは、拓海が静かに腕を組み、その光景を見つめていた。
「予選は冷や冷やしたけど、涼賀は準決から出るんだね」
大夢の言葉に、拓海は冷静に答える。
「……妥当な判断。でも、奏人と絢太のパスが、予選でかなり詰まっていたようにも思える。あそこを修正しないと、決勝で他校に食われるんじゃ...?」
隣で聞いている由嗣も「拓海くん、大夢くん、本当によく見てるなぁ」と感心するが、拓海は表情を変えない。
午後、準決勝の号砲。奏人は予選の反省を活かし、より鋭い加速で絢太へバトンを託す。悠真からアンカーの涼賀へとバトンが渡った瞬間、競技場の空気が変わった。
「きた……!」
拓海の瞳がわずかに見開かれる。
バトンを受けた涼賀は、100m王者としての爆発的なスプリントを披露。他校を寄せ付けない圧倒的な走りで、1着でフィニッシュラインを駆け抜けた。
「……まだ、あいつの本気じゃないな」
拓海は独り言のように呟いた。決勝では1走に沙玖が入るはずだ。その時こそが、桜須学院の真の姿だと彼は知っていた。
3. 幕間の静寂と激励
「お疲れ様。みんな、しっかりアイシングして」
萌歌が保冷剤とスポーツドリンクを配る。奏人は自分の役割を全うした安堵感と、涼賀の走りを間近で見た興奮で目が潤んでいる。
「涼賀先輩……アンカー、凄かったです。僕、もっと速くなって、いつか先輩を驚かせたいです」
「おう。期待してるぞ、奏人。明日の決勝は沙玖に任せる。奏人はしっかり目に焼き付けろよ。」
涼賀はそう言って、ふとメインスタンドへ目を向けた。
そこには、騒ぐ周囲とは対照的に、静かに座ってこちらを見下ろす拓海の姿があった。
目が合ったわけではない。だが、拓海の冷静なまなざしは「お前の走りはまだ完成していない」と告げているようだった。
「……わかってるよ、拓海」
涼賀は心の中で呟いた。
4. 決勝前夜
1日目の競技がすべて終了した。
帰り道、大夢が拓海に尋ねる。
「明日のリレー決勝、どうなると思う?」
「……1走に沙玖が入れば、バトンパスは確実にうまくいく。ミスがなければ、優勝もいけると思う」
拓海は淡々と答えたが、その声には確信がこもっていた。
「涼賀の走りは、誰かに見られている時に一番輝く。……あいつは明日、今日よりさらに速くなるよ」
大夢は眼鏡を直し、夕方の競技場を振り返った。
涼賀が走り、拓海がそれを見守る。言葉を交わさなくても、二人の間には「速さ」を通じた深い対話が成立していた。
明日、大会2日目。
沙玖、絢太、悠真、そして涼賀。桜須学院が誇る最強の4人が、バトンに想いを乗せて疾走する。
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