[第一巻完結!]清心館女学院の探偵事情~銀髪の名探偵『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~

水星 透

文字の大きさ
22 / 72
三つの手紙と五つの嘘

九章『私自身を』

しおりを挟む

「欺瞞、ね、さすがだね、雪乃さん」

静かな声の中に、鋭さは消えていた。
ゆっくりと記憶の蓋を開けていくそんな声。

「ずっとずっと、一番でなくてもって、自分に嘘をつき続けてた。でも違った。響に憧れて、響になりたくて、それが叶わなくて……だから平等でいいフリをしてた。でもその嘘が、私を一番苦しめてた……」

「私の初めての恋人……今も思い出す」

「詩と出会うずっと前のこと……私と響、その子は三人でいつも一緒にいたの」

「楽しかったな……そのころから響は人気があったけど、今よりもっと仲もよくて私もこんなんじゃなかった」

「その子はね、私をはじめて選んでくれた子だったの」

「デートもしたし、バレンタインには手作りのチョコも貰った」

「嬉しかった――世界が輝いて見えるほどに、嬉しかった」

奏さんは震える声を無理やり絞り出して続けた。

「その子がね……顔を真っ赤にしながら、可愛いカップケーキを握りしめてね……」

「私、今でもその時のことを夢に見るのよ」

「幸せの絶頂の時にね……響に先に告白していた事を知った。響と相思相愛だった事も」

自分の記憶と存在を消し去りたい、そんな声だった。

「私ね、見ちゃったんだ。響とその子が階段でキスしてるのを」
「胸が張り裂けそうだった。『やっぱり響が好きなの』と、あの子が涙に濡れた顔でかすかに呟いた瞬間、色鮮やかな記憶が黒く染まっていったの」

「私、どういう事って問い詰めた。泣いて謝ってくれた。――“響に言われて告白した”って、あの子は言った……」

「私はね、その子に失望したわけじゃない。響に怒ってるわけじゃない」

「でも二人の無垢な善意は、私の全部を壊してしまった」

「もう……傷つくのも疲れ果ててしまった」

「――結局、響とその子も上手くいかなかった」
「私がいたからだよね?双子なんかで生まれなければ、響は幸せになれたんだ」

「だから、詩が私のことを一番だって言ってくれた時、ああ、今度こそ私も選ばれたんだって、本気で思った。でも、その夢も、十二時の鐘が奪い去ってしまった」

「笑っちゃうよね」

「分不相応なシンデレラ……」
「お下がりのドレスに灰をかぶるだけの毎日」

「響が私の事を好きになってくれればいいのに、そんな馬鹿な事まで考えたことがあるのよ。二人でね、鏡写しで……止まった時間の中で生きるのよ。高校も、大学も、ずっと一緒。ずっと二人で……」

「――でもね。この三日間は私だけが主人公だった。私が中心だった」

「私だけに灯りが落ちていた……楽しかった」
「でも、辛かった……早く楽になりたかった……もう消えてしまいたかった」

奏さんは、灰にまみれた白薔薇を、摘みたての花を愛でるように大切そうに手に持った。
しばらくして、戸惑いながら口を開いたのは響だった。

「奏……そんな……あなたが居なくなったら私、嫌だよ。もっと一緒に居たいよ。ダンスもしたいし色んな事したい。詩も、おんなじ気持ちだよ……ダメだよ……」

響さんは泣きじゃくっていた。詩先輩はその手を握ったまま、何も言わなかった。
奏さんは柔らかい眼差しを二人に向け、言葉を落とした。

「ありがとう、お姉ちゃん、詩。あなた達の気持ちがわかっただけでも良かった」

出会った時の鏡像が、初めて形を得たように見えた。
でも、そんな和解の空気は一瞬のことだった。

また、静かで暗い声。

「ねえ、雪乃さん、こんな私の気持ちがあなたにわかる?」
「恋なんかしたこともないって、澄ました顔して」

「わかるわけないよね」

「遊びなら、そろそろやめたら?こんな灰を被った薔薇、あなたには似合わないよ」

わたしに視線を移し、冷ややかに笑った。

「如月さん。幽霊屋敷の薔薇がきっかけで、いい夢が見れて良かったね」
「そういう噂、みんなしてるよ……“身の程知らず”だって」
「でも、もうほんとに終わりにした方がいい、取り返しがつかなくなる前に」
「私みたいに壊れてしまう前に」

わたしは何も言えなかった。だってその言葉は、噂なんかじゃないから。全部わかっていたから。
胸が苦しくて、うまく息ができない。それでも、それ以上に胸の奥が熱くなった。
どんなに怖くても、傷ついても、好きな人が傷つけられるのだけは耐えられなかった。

優しかったおばあちゃんと、あの日の先輩の微笑みを思い出す。
『天使』の泣き笑いを――

先輩の苦しい心の内を、どうしてわかってもらえないの?
悲痛に揺れる睫毛も、雨が落ちそうな夕暮れの瞳も、なにもかも――。
そう叫びたかった。

奏さんは話し続けた。

「いつも自分だけが蚊帳の外って気持ちわかる?自分がいることで、世界が歪んでる気持ち……わかる?」
「わからないでしょ?雪乃さん。あなたに、わかるわけが、ない」

そう言うと雪乃先輩に向き直った。

「だからね、響と詩だけじゃなくて雪乃さん、どうしてもあなたを巻き込みたかった。あなた、ずっと主人公だったんでしょ……響と同じ、愛される人だったんでしょう」

「なんで?何が違う?私と何が違うの?」

奏さんの独白がしんしんと降る雪の様に、部屋に響き渡った。
耳鳴りが止まないような、空気の震え。

胸の奥で何かが弾けた。
膝の震えを押さえ込んで、わたしは立ち上がった。
その衝動が何なのか、自分でも理解できたのは、
雨が止んだずっと後のことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...