[第一巻完結!]清心館女学院の探偵事情~銀髪の名探偵『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~

水星 透

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星と少女と、消えた名前

一章『司書室の幕間』

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「生徒会役員消失事件……気にならない?」

暁希先輩のその言葉は、事件解決の余韻を鋭く切り裂くようだった。

かなえさんを見送ってから、ひとしきりお喋りした後のそんな一言。

「消失?それは、もう解決してるんですよね?」
不穏な言葉に胸が静かに波立った。

「もちろん。萌花ちゃんには私が見えてるでしょ?」
「私が消えて、また現れる事件……」

「どう?気になるでしょ?」

暁希先輩の瞳が眼鏡越しに静かに瞬いた。

「私が会長の心を射止めた話……いや、逆かもしれないけど」

「会長、どう思います?」

七々瀬会長は何も答えずに、窓の外を見つめていた。
暁希先輩は、いたずらっぽく笑いながら続けた。

「あなた、雪乃さんの恋人なんでしょ?」

わたしは、全力で首を横に振った。
頬がこれ以上なく火照っているのがわかる。
視線の隅で、雪乃先輩のカップを持つ手が微かに揺れた。

「萌花さんになら、私たちの事件――話してあげても、いいと思いませんか?」

「聞いて……いいんですか?」

わたしは控えめに尋ねた。

『恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意思だと思う』

「まあ、そんなような話なんだよ」

七々瀬先輩は静かに太宰の言葉を引用した。
その顔からは、先ほどまでの笑顔は消えていた。

「長いお話になるから、お茶を楽しみながらにしましょう。ここは定番のマルコ・ポーロね。なんだか久しぶり」

雪乃先輩は音もなく立ち上がり、スカートの皺を指で整えた。

「手伝います」

緊張しながらカップを運ぶと、暁希先輩は慣れた手つきで洗い、丁寧に並べてゆく。長い指には淡くクリアブルーのネイルが光っていた。

髪色と合わせるような、さりげないお洒落と普段の真面目な雰囲気。瞳の奥で、微かに揺れるユーモアがわたしを惹きつけた。

「……演劇見ました。とても素晴らしかったです」

暁希先輩に話しかけた。

生徒会副会長、志崎しざき暁希あきさんは演劇部の部長を務めていた。

いわゆる憑依ひょうい型とも違う。
しかし真に迫る演技は、見るものを魅了して止まない。そんな噂は本当だった。

今年の文化祭では、先輩自身が翻案ほんあんした白雪姫で脚本兼主演。その中で、彼女は毒殺される王妃役を見事に演じ切っていた。

わたしは、その演技にすっかり魅了されてしまった。

「美術部の事件を二人が解決したって?」

先輩が楽しそうに問いかけてくる。

「千里が教えてくれたんだ」

先輩はふっと目を伏せた。その瞬間、別人のような雰囲気が漂った。

『僕が褒めていたって』
『萌花ちゃんに伝えておいてくれ』

それはまるで、本当に千里先輩がそこにいるようだった。声色だけでなく、仕草も、微かな呼吸までも完全に再現されていて、思わず胸が高鳴り、わたしは視線を逸らした。

新しいお茶の用意をする間、会長は足を組んだまま、頬杖をついて物思いに耽っていた。
窓の外、何を見ているのだろうか?その表情は影になって読み取れない。

「さあ、さあ。みなさん」

「きっと今からのお話に合うお茶よ、アイスティーにしたのよ」

雪乃先輩がガラスの容器を傾けると、透明な光はガーネットの輝きとなって静かに満ちた。

「会長、このお話は大丈夫?帰ってもいいよ」

砕けた口調とは裏腹に、真面目な表情で雪乃先輩は問いかけた。

「恥ずかしい話ではあるけど、初心に帰る意味でも聞いていこうかな」

青を映す黒髪をかきあげ、七々瀬先輩は深いため息をついた。

「往生際が良くて何より」
「じゃあ、萌花ちゃんも待ちきれないようだし、そろそろ始めましょうか」

「現生徒会副会長、志崎暁希さん」

「彼女が文字通りの消失をしたところから、このお話は始まるの」

「まずはもう一口、紅茶を味わって」

「事件が起こったのは、文化祭の初日、午後二時十五分」

雪乃先輩は壁の時計に視線を移した。

「場所は特別教室棟四階、奇術部の公演内」

香りを胸いっぱいに吸い込んでから雪乃先輩は話し始めた。

「それは、私たちが高等部一年の文化祭の事――」

先輩はゆっくりと過去を振り返る。

開幕のベルが、わたしの知らない『一年前の物語』の幕を静かに開けた。

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