ひきこもりがいくぅ

東門 大

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第一章 ログイン

第二話 最悪

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「見ないで」と背中を向けられても、お尻と背中はしっかり見えていた。

 僕は彼女に習って、壁を向くことにした。そうしなければいけないような気がしたから。

 その後は、互いに背中を向けたまま長い沈黙が続いた。

(こういう時、なんて話しかければいいんだ?)

(そもそも引きこもりの俺が、可愛い子がいいだなんて、どうしてそんな事考えたんだ? チャットでも上手く返せないことのほうが多いのに、……リアルで話せる訳ないじゃないか。)

 僕は自分のコミュ力の低さを呪った。

 そんな無力感とは裏腹に、空腹で腹がなった。朝ご飯……。習慣とは困ったものだ。

 食べたい物を考える前に、右の視界にテーブルとその上に朝食が現れるのが見えた。

 この部屋は、昨日くらいから、頭で言語化するよりも早く、僕の考えを読み取るようになってきた。

 僕はテーブルにつき、女の子が視界に入らない向きに座って、朝食を食べた。

「いっしょに食べないかい?」なんて、言葉をかけた方がいいのかな?

 どうやって話しかけようかと思案しながら、みそ汁をすすっていると、五メートルくらい離れた壁の前に便器が現れた。しかも和式の便器。

 彼女がリクエストしたのは明らかだった。

 でも、この状況で排便? 排尿? どちらも無理に思えた。

「壁つくってよ。かべかべかべかべ」

 強く願ったが、ヤツは完全無視だった。

 僕は流し込むように食事をとると、ベッドへ行き、便器に背中を向けた。

 彼女がパタパタと動く気配がして、少ししてから排尿の音が聞こえた。

 シャーー

 プッ プスー

 排尿の最後に放屁の音が混じった。

 その音に、自分でも意外なほど興奮した。

「こういうことにも、興奮するんだ」

 興味深そうに呟くあいつの声。

「うるさい!」

 おもわず声に出た。

「では、こういうのはどうだ?」

 僕の目に、お尻を向けて排尿する彼女の映像が映し出された。


「やめろよ!」

 後ろから「ごめんなさい」

 絞り出すような彼女の声がした。

 最悪のタイミングだった。

 彼女にしてみれば、排尿、放屁からの「うるさい」「やめろよ」となったわけで、深く傷ついているのが分かった。

 しばらくの間、彼女のすすり泣く声が聞こえた。

「おい、彼女に説明しろよ」

「何を? おまえがが排せつの音で興奮するということか?」

 僕は呆れて、考えるのをやめた。


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