何ノ為の王達ヴェアリアス

三ツ三

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第35話

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   北区で起きた騒動は瞬く間に尾ひれが付いて王都中に噂として広がりを見せてしまっていた。
   当然人々にその詳細が公表される事は無い。誰一人としてその事実を知る者が居ないから、という事実だけわかったからだ。

   しかし、「天使が現れた」という空想の認識は、人々を揺れ動かしてしまったのだった。
   それは現実問題として、王都を揺るがしてしまう程に・・・。


「1班そのまま戦線維持よ! 3班4班があと50秒で合流するわ! 2班の進捗は!?」
「こちら第2班デド! 現在インジュさんと共に対応中、予定通りそちらへと合流出来そうです! ただ・・5班6班の合流に時間がかかっているそうです!」
「ルジェあ違ッ・・・ルジェ協力顧問! 僕が!」
「ダメよ、貴方はそのままよ! はぁ、情報共有はしっかりしろって言ったのに・・・わたくしが直接いきますわッ!!」

   ハンドサインで最前線の第1班に離れる事を告げ、ルジェは飛び立った。

「ライゼーションッ!!」

   右手を輝かせウィザライトを起動させる。
   そして指輪の装飾品を回した。

「ダイヤルセレクト・フレグランスラッシュ」

   装飾が12時を刺す時計の様に回転し、ルジェが選んだダイヤルに変更された瞬間、右手に光刃を覆い現場へと急行した。

   ルジェが向かう先、それはまだ経験の浅い警護兵達の集まりである応急処置にも近い班達。突如出現した感染者の対応の為に出動した班だった為に苦戦を強いられて居た。

「第5班長! このままでは負傷者を出す一方です!」
「わかってる! 今救援が来るらしい、それまで頑張るんだ!」
「救援って言ったってここは主戦場と離れ」

   上空から感染者集団の中央へ強烈な衝撃が起こり、弱音を吐いて居たはずの第6班長は言葉を失った。
   この場への救援、どれだけの時間を稼げばいいのかの問いに対し示すかの様に訪れた。

「協力顧問として、ここを預かりますわ。至急負傷者の救護に当たりなさい」
「まさか、貴女が・・・!?」
「良く頑張ったと言いたいけれど、労いは後よ急ぎなさい」

   右手を一振り。光刃のたった一振りで感染者から生まれ出た感染物を一瞬で消滅させた。
   信じられないと新米警護兵達が呆気にとられている中、すぐさま第5班長が後退指示を叫び、その場をルジェに託したのだった。

「ここまで、感染者が増えるなんて・・・。いや、今は目の前の事よね。ダイヤルセレクト・フレグランスワロー」

   再び装飾ダイヤルを回転させるルジェ。
   これがルジェの使うウィザライト。インジュの使っていたガントレット型とは違い、小型化に成功させ、出力等を同等以上にした代物。
   インジュと同じ様に多様性を持たせたカートリッジ式では無く、瞬時の変更動作を念頭に置き最初から設定されている物を装飾ダイヤルという形で多様性を持たした、新型のウィザライト。

   当然作ったのは。

「違うってぇええええ!!!! ダイヤルセレクトはカッコよく決めポーズしながら回さなきゃダメだって何回言えば良いんだよぉぉおぉお!!! 黙々とやらないでぇえええー!!!」
「うっさいわねぇーッ!!! 急に怒鳴らないでっていつも言ってるでしょうが!!」
「少年はしっかりとやってると言うのにこの差は一体なんだと言うのかねぇええ!!! 恥ずかしいのか!!? なぁあ!? 恥ずかしいのかぁああー!!?」

   黙って通信音量をミュートにして、光刃を振るうルジェ。
   たった一振りで無数の光鳥が姿を見せ、感染者へと襲い掛かる。
   感染者も光鳥の存在に気付き、感染物を生み出し迎撃に出たが。光鳥と感染物、双方がぶつかり対消滅するという事は無かった。
   一方的に光鳥がまるで生物かの様に舞い、感染物を次々と斬り裂き目標である感染者へと取り付く。

   そして一斉に光鳥はその場で斬烈を始めた。
   斬烈四散した感染者達は身動きが取れない程に”大事な部分以外”が細切れにされてしまっていた。

「これで・・・あとは」

   再び装飾ダイヤルを回し、ルジェは大きく息を吸った。
   気持ちを落ち着かせる為に。
   失敗は許されないというプレッシャーも背負いつつ集中力を研ぎ澄まし、右手を突き出す。

「リ・ライゼーションッ!!!」

   地面に横たわる感染者達は、巨大な魔方陣の放つ光に取り込まれる。
   それはインジュが使った物、そしてルジェもまた知らぬ間に感染体へとなってしまったインジュに使った物であった。

「んッ!・・・やっぱりちょっと、負担が大きいですわね」

   感染者を人へと戻す異業と思われていた物。しかし今はインジュのみが使える物では無い。
   初めてインジュが使用してからインジュ自ら解析に勤しみ、自分以外にも使える様にしたのだった。
   その解析情報は当然先生の手を借りた物でもあり、ルジェが使うウィザライトにも同じ機能を搭載したのだった。

「はぁー・・・んーッ!」

   魔方陣が一際輝きを増した。
   最後の仕上げ。そう意気込みルジェは魔力を繊細に扱う。
   まだ失敗例を出していないものの、忠告は受けいていた。人へと戻すリ・ライゼーションは偶発的に生まれた物であり、以前試した事のある人に対して害を及ぼす物では無いとわかった。
   しかし正しく使おうとこの力、誤れば何が起こってしまうのか誰もが想像のしたく無い事態になる。

   だからこそ、ルジェは念入りに感染者を安全に人へと戻す為に警護団の指揮を率先して請け負い尽力したのだった。


「・・・・ッッッぷはぁあ!!」

   そして、無事に戦いの火蓋は終わりを迎えたのだった。
   目の前に居た感染者達は次々とその身を元の人間の姿へと無事に戻す事が出来、それを見てルジェも一安心と大きく息を吐いた。

「こちらインジュ! やりましたよルジェさん! 全員無事に元に戻せました! ルジェの指示通りに纏めてもとに戻す作戦のおかげで僕もやり易かったです!」
「そう、それはそうね・・・はぁ」

   疲労に襲われるルジェとは対象的にインジュは作戦成功を子供の様にはしゃいで居た。どの元気さに溜息をつい吐いてしまったルジェ。

   とはいう物の、そんなインジュの声を聞いたからか、溜息で息を整えたからか少しだけ気分が回復したルジェは立体画面を出現させ、被害状況の確認をしていた。

   今回の戦い。突如として同時多発的に出現した感染者の騒動。
   王都アルバスの1番に栄えている東区で起きた物であった。
   用事で警護団の本部である南区に足を運んでいたインジュ達は、すぐさま対応に向かった。
   本来であれば、インジュ1人で感染者を元に戻す対応をする事が多かったが、今回に至ってはそれだけでは対応しきれないと、重い腰を上げたのが付き添いで同行していたルジェだった。

「ルジェさーん! お疲れ様です!」
「えぇ・・貴方もよく動いて」
「「ありがとうございました! ルジェ協力顧問!!!」」

   インジュの声に反応して振り返った先には、頭を下げる2人の警護兵が居た。
   インジュが連れてきたのか、勝手についてきたのかはルジェに知る術は無く、咄嗟に自前のフードを被ろう身構えたが肩を落とすだけで済ませた。

「本当に!本当に総指揮をお任せして申し訳ございませんでした! しかし、洗練された指揮、行き届かないところへの配慮等、感服致しました!!」
「新人達も助けて頂き本当にありがとうございました!!」

   カルスとデド。とんでも無く頭を下げルジェを賞賛していた。
   普通ならば、今は、いち民間人であるルジェに指揮系統を任せる何てことは天と地がひっくり返る程にあり得ない話だが、現状の警護団ははっきりと言って組織としてはガタガタである。
   未だに本部長という椅子は空席のまま、民衆からの声も当初よりは少なくはなっているものの風当たりは強いまま。

   それでも5班や6班の様に多くを考え、何かを感じ入団する者も後を絶たない。
   紆余曲折ありつつ、デドも不本意ながらも第2班長として出世し、カルスもその補佐として副班長の地位に上がってしまう程に、警護団の上層は今もてんやわんやしているのだった。

「ルジェさん!」
「・・・何」
「あの、カッコよかったです凄く! 僕も出来る様になりたいです! 頑張れば出来ますか!?」
「・・・・・・」

   真っ直ぐとしたインジュの瞳がルジェを捉えていた。
   しかしインジュの問いに対しルジェは口を紡いだ。
   それは誰もが容易に思った事であり、頭を上げたカルスとデドもルジェと同じ感想を抱いていた。

「・・・その、うち・・ね」
((逃げた・・・))

   インジュの総指揮。3人全員がイメージした物は同じ物だった。

   「僕がやります!」「僕が行きます!」「僕に任せて下さい!」「僕が!」「僕が!」「僕がぁあああああーッ!!!!」」

   この場にいる全員が苦い顔を浮かべた。その理由をインジュは知ることは無かった。

「それにしても・・・」

   カルスが粗相の無い様にと慎重にルジェの顔を見つめる。
   その視線を当然、ルジェは感じ取っているが。特別な反応をすることは無く・・・ただ硬直してしまっていた。

「どうした?カルス」
「いやぁ・・・ルジェさん、私どっかで見た事ある気がーって」

   カルスの言葉にさらに固まるルジェ。
   ルジェがルジェになってから多くの事があり、日もそれなりに経っている。しかし王位継承3位のルージェルトが失踪、行方不明、謀反者としての指名手配など王城からの動きは一切無い。
   それこそ外出した初日以降、ルジェに対して何か行動を見せる素振りも無い事からこそルジェは総指揮なんていう大役の代行を務める事が出来た。

   そして何より・・・。

「いやいあやいあやいいあやいあいあやいあ!! ルジェさんはルジェさんで僕のーー! えっとわからないですけど怪しい者でないし悪い人じゃなくて髪も短いし!! 2つ結びなんてしてないですし!! ステッキも今は持ってないし!!」

(わたくし思った以上に、顔の認知されてないのですわねぇ・・・・・・)

   色々な複雑な気持ちを抱えながら勝手に1人落ち込むルジェと1人ワチャワチャと余計な事ばかりを口にするインジュ。
   そんな2人を見たカルスとデドは、まるで仏の様な悟りを開いた表情で2人を見守り、詮索だけはしないという事を固く決意したのだった・・・。

「ん? あら?」
「どうかしましたか?」
「えぇちょっと・・・。デド班長、よろしくて?」

   空気が少し変わり、デドはルジェの近くへと駆け寄る。

「あの元に戻した方々、もしかしてアルバスの人間では無い?」
「え・・・えーっと、どうでしょう確かにちょっと見たことの無い人達の様な気がしますね」
「それに・・・」

   ルジェは1人唇に手を当てて考える。というよりも記憶を掘り起こしていた。
   古い記憶では無い、どちらかというと最新に近しい物、ルジェがウィザライトを扱う様になってからの数日間の間の。

「インジュ貴方も、彼等の事知らない?」
「・・・あっ、知らない人ですが、知ってます」

   やっぱりと、ルジェは目付きを変えた。

「知らないけど知ってる。理由は・・・」
「前に・・・僕が感染者から戻した人、です」
「そうよね、やっぱり・・・」

   唇に手を当てたまま腕を組むルジェ。
   インジュも何かを察したのか目の色を変える。元感染者、今再び警護団の救護を受けている者達の姿を凝視する。

   そしてインジュは驚きを見せた。

「笑ってる・・・?」

   それは感染者から元に戻れたという喜びを感じるモノ。そう捉える事も出来なくは無い。
   しかし、今のインジュ。感染者と類似している感染体へとなった事のあるインジュには、その笑みはあまりにも違和感を感じるモノだった。

「インジュ、ひとまず戻りますわよ」
「・・・はい、わかりました」
「デド班長、お疲れのところ申し訳ないのだけど。ここ数日の”元”感染者の情報集めてもらえるかしら。出来れば、”今現在”の詳細も」

   ルジェの頼みに何かを察したデド。カルスと目を合わせお互い相槌を打った。
   只ならぬ気配を感じる。しかしそれ以上にインジュとルジェからの与えられたモノを胸に大きく秘めた事に突き動かされ、2人は形式正しく姿勢を取った。

「了解しましたッ!!!」
「私も、及ばずながら尽力させて頂きますッ!!」

   カルスとデドが与えられたモノは2人を大きく飛躍させる物だった。
   魔力でもウィザライトという器具でも無い。
   それはただ純粋に尊敬出来る者達からの簡単な言葉だけだった・・・。



【35話】 期待
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