【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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眼鏡と売国奴と王子

28.忍び寄る影、実験体、発明品

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「おら!!さっと入りやがれ!!」
「くそがぁあああ!!!」

 屈強な男が一人投げ込まれ、ガシャンッと牢の鉄格子が閉ざされた。

 牢の中に入れられた男は悪態を付いていたが、背後から頭部を鷲掴みにされ、言葉を詰まらせていた。

「新入り・・・少しばかり黙れよ。耳触りだ」

「ぁ・・ぁぁあ、あぁあああああああああああ!!!!!」


 男が一人、闇の中へと消えて行ったのだった。

 そんな事はお構いなしに、牢へぶち込んだ人間は手慣れたように業務へと戻って行った。
 同じ制服を見に纏った人混みの中へ消えて行った。


 誰もが胸に大きなバッジが付けられていた。
 彼の正体は、"保安局"の人間達だった。

 力の無い者達である市民を守るのが彼等の務めである。
 今しがたも、街に徘徊し市民に脅威を見せた盗賊を捕まえ、牢屋へと搬送したところだったのだ。


「それにしても、最近盗賊増えてる気がしますね」
「お前知らないのか? 敗戦国の話」
「あぁ~、たしかオリオセージに負けた国でしたっけ?」
「そう、それでまだ逃げ惑ってる元兵士達が盗賊になってこっちに流れてるんだってよ」
「うぅわ、面倒くさいですね。来週休み取れるかな?」


 椅子に座り雑談を楽しんでいた。
 自分達の座る椅子の前にある机の上には大量の書類が積まれていた。それは、捕まえた盗賊の名簿だった。

 それを確認し、名簿化するのもまた彼等の仕事なのだが。手が伸びる気配は皆無だった。


「ならば、これを差し上げましょう」

 ドンッと二人の間に割って入って更なる量の書類が追加された。

「全て終われば、必ず来週はお休みが取れますよ」

 黒紫の髪がユラリと動き、眼鏡を指で上げた。
 追加された資料に圧倒されながらも二人の保安官は立ち上がり抗議しようとしたが、言葉を詰まらせてしまっていた。

「何か?」
「い、いや・・・なんでも無い、です」
「が、頑張らせて貰います。"ケイス"さん」
「よろしくお願いしますね」

 用が済むとまるで人形のように一寸狂う事の無い動きでその場を後にした。
 そんなケイスを見て、二人は小声で声を発していた。

「ちっ、貴族上がりのガキが・・・」

 彼等の言う通り、ケイスは彼等よりも二回り近くの歳の差があった。

 服装も特注な物であり、魔術師のローブのように丈が膝下まで伸びている物だった。
 それがケイスと一般保安官である彼等の圧倒的に違う物、階級の違いだったのだ。

 そんな憎まれ口を叩かれている事に気が付いているのかどうかわからないケイスの表情は氷のように冷たい物だった。

 だが、手にしている一枚の書類を眺め、闘志を燃やすかのように呟いた。


「ルビヤ・スリン・アインドルゼ」








 ルビヤにまた新たな問題が起こりそうな気配があった。

 けれど、そんな当事者であるルビヤは・・・。


「あrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!」
「大丈夫ですか!!? フォーズさん!!?」
「あいおおおおおおおおおるrrrrrrrrrrr!!!」
「では、ルビヤ様少しばかり出力を上げましょうか」
「え!? なんて言ったの!?」
「うああぁあああああああああああああああああああああああ」

 なんで俺はこんな目にあってるんだ。
 確か結晶石の更なる発展とか何とかの実験のはずだ。

 何のになんで俺の身体は電撃を浴びさせられているんだ。

「はっ・・・!!!」

 このままだと、マジで死ぬやつだ。

「停止!!!」

 ルビヤが緊急停止レバーを引いた途端に俺は地面に崩れ落ちた。
 遠くから・・・ルビヤの声が聞こえる。

バシャァーッ!!!

「ぶえぇええ!!!」
「ふむ、大丈夫そうですね」
「よかった・・・」

 大きなバケツに入った大量の水をぶっ掛けられて意識を取り戻す。
 俺の事を心配な眼差しで見るルビヤに対して、先ほど行った実験の成果を確認しているエルター。もちろん水をぶっかけたのはエルターだ。
 今日だけで一体何回俺は起こされたのだろうか、俺の牢獄が大量の水溜りが出来ている事に苦笑いをするしかなかった。

「んー、やっぱり属性付与は難しいな。あと少しな気がするんだけどな」

 今、ルビヤは新たな一歩を踏み出そうとしていた。
 それは俺に作った物の量産を考えていた。

 その名も、誰でも魔術が使えちゃう装置!!

「"セルマギア"ね。いい加減名前覚えてよ、お願いだから」

 口を尖らせ少し恥ずかしそうに顔を赤らめるルビヤ。
 それもそのはず、この技術に名前を付けようと俺が提案したらずっとこの子考えて夜も眠れないって何度も俺の所に来ていたのだから。
 あれはどうだろう、これはどうだろうと。酷い日にはここで寝泊まりしてしまった時もあった。次の日の俺の飯が何故か無くなった。

 っていうか、俺の考えてる事を読み取らないで欲しい。

「というかさ、前々から言ってるんだけど。俺にもセルマギア一つくれない? 柄だけじゃ心持たないって、もう名刀はこりごりなんだよ」
「う、うん・・・。僕は良いんだけど」
「獄中の人間が何を言うかと思えば、驚きでございます。三食昼寝付きを提供しているというのにこれ以上に物を望むとは」
「はい・・・すみません。すみませんでした」

 そりゃさ何も無ければいいようん。
 でも前回のシアマ村みたいなさー事があったらさー。何だかんだ、死ぬ思いはしたくないんだよねー、痛いのは嫌なんだよねぇー。

「ですが、まあこの件に関しては私に、どうか! お任せ頂けないでしょうかルビヤ様」

 これでもかと言う程に深々と頭を下げるエルター。俺には俺自身を虐める口実を下さいってお願いしてるようにしか見えないのだが。

「うん、もちろん僕も協力するから。何かあったら言ってね」
「ありがたきお言葉! このエルター、ルビヤ様の優しさに感銘を受けました。必ずやこの者を更生させてみせます」

 おいおいおい、話しがなんか変な方向に行ってないか?
 流石のルビヤもエルターの過剰な言葉に苦笑いを浮かべているぞ。

 さぁて次は・・・と、次の実験に移ろうとした時だった。

「おや? ごほんっ。ご来客とは・・・ルビヤ様」
「うん、わかった。行こう」
「はい」

 何かを感じ取ったのか、魔術の類か何かか?どうやら来客が来たようで、ルビヤとエルターはさっさと牢獄部屋を後にしていったのだった・・・。

「俺、放置・・・か」
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