【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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眼鏡と売国奴と王子

29.来訪と調査と牢獄

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 ドンドンドンッと扉が叩かれる音が響く。
 荒らしく、盗賊の襲来を思わせるほどの物だった。

「"王国保安局"だ! 城内を改めさせてもらう!!」
「国安のお方? どうかなさいましたか?」

 玄関の扉を開けた途端、外からゴキブリのように部屋へ入ってきた国安の人間。

 王国保安局。
 彼等の仕事は大国内業者の不正等を取り締まる組織である。
 ある意味では最も権力があり、国王直々の組織であり、そこには階級や爵位など意味を為さない。

 一般的な保安局の人間達とは違い、表向きのいざこざには介入せず、名門貴族の悪制や商売人達の違法取引。
 そして、王族の不正を調べ処罰を与えるのが主な仕事となっている。

「令状が出ている、貴様のな」
「僕が!?」

 突き出された書類に目を凝らすルビヤ。
 大量に書かれた文字を読み続ける内に顔が歪み出す。

「未申請による不正私兵団運用・・・、それに伴う違法奴隷保持!!?」

 書かれた文面に声を荒げてしまった。

 不正私兵団運用、そしてこの国では違法である奴隷保持。
 無駄に多くに書かれた書類を全て読み取ってもルビヤにとって全く思い当たる節のない令状だった。

「何かの間違いでは無いですか!? 僕にはそんな」
「それを決めるのは貴様では無い、我々だ」

「牢獄、見つけました!!」

 遠くから国安の人間の声が響き、導かれるように全員がその場に集まり出した。

 牢獄へと繋がる出入り口でルビヤと言葉を交わしていた国安の男が一歩前に出る。

「ルビヤ・スリン・アインドルゼ。殿下は、奴隷の保持はされていない。つまりは、この中には誰も居ない。という認識でよろしいのでしょうか?」
「当然です。父である国王に誓いましょう」

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、男はニヤリとした表情を浮かべた。

「開けろぉー!!!!」

 ほぼ強引に扉をこじ開け、玄関から入ってきた時と同じようにゾロゾロと牢獄の中へと人がなだれ込んでいった。

 暗い室内を魔術で照らし、隅々まで調べ出した。

 だが、誰もが口を紡いだ。

「居ません!」
「こちらも!」
「全て探せ!! 石一つ見落とすな!! 痕跡を探すんだ!!」」

 怒鳴るように部下達に指示を出すも、この牢獄に足を踏み入れた途端誰もがその事実を理解していた。

 頭上には蜘蛛の巣が点々とし、朽ちた地面は歩く度に汚れ、手入れのされていない鉄格子はボロボロだったのだ。
 あまりにも、誰かがここに居たようなという空気ではなかったのだ。

 それでも必死になって国安の人間達は血眼になって這いつくばりながらも、何かしらの痕跡を見つけ出そうと躍起になっていた。

「き、貴様!!! 何処へ隠した!!?」
「言いがかりはやめて下さい。無い物を隠す事は出来ない、それくらいわからないのですか?」
「この餓鬼ーー!!!!」

 頭に血が昇った男の右手が上がった。

 だが、男の手がルビヤに振り下ろされる事はなかった。

「ケ、ケイスさん!!?」
「この手は、何だ」

 男の背後にはケイスと呼ばれる男が腕を握り締め立っていた。
 そしてケイスの顔を見るや否や、青褪めていくのがルビヤにはわかった。つまり、ケイスという男がこの横暴な調査のリーダーであると。

 眼鏡の奥から見える冷たい目付き。
 腕を離したケイスは、部下を無言で牢獄の調査へと向かわせたのだった。

「ご無礼を致しました、ルビヤ殿下」
「いえ、僕は慣れているので。あなた方のやり方は理解しているつもりです」
「感謝します」

 お互いほぼ表情に出さないまま、睨み合いが行われた。相手の真意を確かめるように、目を外す事無く、ルビヤもまたケイスの目的を少しでも探れないかと目を離さなかった。

「一つお聞きします。 牢獄は・・・"ここ"だけですか?」
「・・・城外れの塔であるここの構図はあなた達の方が熟知していると思いますが」
「そうですね。えぇ、その通りですね」

 ケイスはそれだけをルビヤに告げ、来た道を戻るようにきびつを返した。
 その気配を察知したのか、牢獄に居た者達も次々と姿を見せ出した。

「また、来ます。お騒がせしました」


 そうして、ケイス率いる王国保安の調査が終わったのだった。

 ルビヤは見送る事はせず、最後の最後まで緊張感を解く事はなかった・・・。


「国安とは、これはまた物騒な事になりそうですね」
「うん。でも一つだけわかった事がある」

 ルビヤは、虚空を見つめた。
 何も無かった安堵も感じながらも、考える事は一つだった。


「フォーズさん・・・あなた、一体」


 ケイス達はフォーズの居る牢獄、来訪があるまでルビヤ達も居た牢獄を知らないということだった。
 つい先日まで、この塔で暮らしていたルビヤ自身も知らなかった場所。簡単には見つかる事の無い場所である。

 そんな牢獄に、何故フォーズは居たのだろうか。
 フォーズは、何をしたのだろうか。

 そんな事ばかりを考えてしまうルビヤだった・・・。
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