【完結】投獄中の売国奴が出会ったのは、敵国の泣き虫王子だった。 ~期待された神器が"柄"ってだけで迫害を受けた~

三ツ三

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絡み合う陰謀

43.従順なケイス

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 これは、ケイスがイドーの帳簿を国安の本部へと提出した時の話。

 ケイスは深々と頭を下げ、終始ニコニコとした表情の国安本部長に任務完了の報告をしていた。

「以上が、概要です。奴隷商元締めであるイドー名誉王族の身柄はサファイナ王女殿下へと」
「そうですか。お疲れ様です」

 椅子に座る本部長に対して毅然とした態度のケイス。
 その視線はずっと本部長を見ていた。何かを訴えるかのように。

「何かあったかな、ケイス君」
「本部長は、イドー本人の身柄についてお気に為さらないのですね」
「いえいえそんなことはありませんよ。ただ~サファイナ王女殿下が直接手を下すというのであれば正直我々国安でも少しばかり――」
「本部長は、最初からご存知だったのでは無いですか?」

 ケイスの言葉でただならぬ空気が張り詰めた。
 へらへらと笑みを浮かべていた本部長の表情が固まる。目を少し開け圧が掛かる、「何が言いたいのだ」と。

「私はこの任務、名誉王族の違法を取り締まる第一歩だと考えておりました。ですが」
「この帳簿・・・見たのですか?」

 バシンッと帳簿が机に叩き付けられた。
 表情は変わらずに激昂していたようだったが、ケイスはそれに動揺を見せない。むしろそれが答えかのように察してしまった。

「・・・お答し兼ねます」
「そうですか、それは困りましたねぇ」

 深く座っていた椅子から本部長は重い腰を上げた。
 ケイスはそれでも視線は落とさず、常に前を見続けていた。己の主張を変えないように。

「何か国安にとってまずい事でもあるのでしょうか」
「あったら、どうするのかね?」
「正す必要があると思います」
「ほぉ~、確かにその通りだ」

 何かを隠している。そんな事はケイスにとって最初からわかっていた事だった。自らが所属する国安も一枚岩では無いのも重々承知している。
 この世界には人間を裁く神は居ない。だが人裁く者はいる。
 それは王族の人間だ。

 そして、その王族を裁く者は・・・一体誰なのか。

「そうですね~、我々は、王族の不正や貴族の不正を取り締まり、そして・・・裁くのがお仕事ですね」
「常に公平であれ。先代の本部長の教えを守りたいと私は考えている」
「素晴らしい、とても素晴らしい考えだよケイス君」
「だからこそ・・・!」

 熱い想いが先走っている。ケイスは自らの信念を燃やしていた。理由は簡単だ。
 自らの意思で、不正を暴こうとした小さな少年。王族である使命を全うしようと立ち向かった小さな王子。彼は今もまだ未熟、だからこそもがき苦しんでいる。
 不慣れかつ詰めが甘過ぎる。

 それでも・・・ケイスの目には、彼が裁かれるような人間には、到底見えなかったのだ。

「我々は公平な人間です。公平に裁く権利がある・・・そんな我々を、"誰が裁く"のでしょうかね?」
「本部長・・・!」
「新たな任務を与えます。これは急ぎの為このまま現地に向かってください」


 ケイスの言葉は届くことは無かった。
 所詮は貴族上がりのケイスと名誉王族の本部長。その差はこの世界においてあまりにも大きかった。
 ただ言葉に従うしか出来ない・・・今の自分にはそれしか出来ないのだと。

「了解しました」
「うむ、期待しているよ。ケイス君」

 頭を下げるケイス。あまりにも無力な自分に内心では猛り狂っていた。
 自分は、彼の一歩前を歩いている。それは間違いなかった。
 けれど、それが本当に正しいのかどうか。

『受けて立ちます』

 彼は真っ向から立ち向かった。その言葉通りに。
 自分に言い放ったその瞳は一切の曇り無き瞳だったと今でもケイスは覚えていた。
 その瞳に心を震わされていたのだ。

 背丈は誰よりも小さく、非力なはずの事をまるでわかっていないかのような立ち振る舞いにケイスは・・・ケイスも真っ向から立ち向かいたかった。

 それが・・・本音、だったのだ。



・   ・   ・



「丁度いいや、お前の事は一発殴らないと気が済まなかったからな」
「狂犬風情が、牢獄で飼い馴らされてればいいものを」

 ケイスの眼鏡野郎が待ち受けていたのは巨大な収監施設だった。上を見上げると何層にも牢屋が配置されているような場所だった。
 囚人達が次々と牢屋から俺達の様子をニヤついた顔で見ていた、何が起きるのか大体わかっているようだった。
 そんな中で俺の存在を喜ぶ者達も居た、それはシアマ村で捕まった元盗賊達・・・と。

「脱獄さんだぁー!!」
「うおぉおおー!! 脱獄だぁあー!!」

 耳に入る呼び名。何処にいるのかわからないがもしかしてここにいつぞやの奴隷達でも収監されているのか? 何か悪さをして捕まったのか。
 これだけ大きな収監施設なのだから居ても不思議では無いのかもしれない。

「ここでは、英雄か何かなのか貴様は」
「嫉妬か何かか、あまり嬉しい物では無いが。よかったらお前も仲間に入れてやろうか?」

 俺がいつものように軽口を叩いた瞬間ケイスの姿が消えた。
 お得意の高速移動か。

ガキンッ!!!

 俺の持つ光りの刃の贈呈具とケイスの贈呈具の剣がぶつかる。それが開戦の合図になったのか、施設内で歓声が響き渡るのであった・・・。
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