1 / 4
1話
しおりを挟む
「セシル様との婚約を取り消しなさい、マギー・ロア!」
子爵令嬢のシャルロッテ様に指を差されながら怒鳴られたのは、王立学園の昼休みのことでした。
セシル様とは、セシル・フィネガー。フィネガー伯爵家のご令息で、私がお仕えしている方です。
「マギー! あなたはフィネガー伯爵家のメイドの分際で、お優しいセシル様の弱みにつけこみ婚約者の座を手に入れたばかりか、善良なフィネガーご夫妻の好意に甘えまくって学費を出させて、平民のくせに貴族子女の通う王立学園にまで入学する始末! 上流階級の令嬢として、貴女の横暴は赦せない! これ以上フィネガー伯爵家から搾取しないで! 一刻も早くセシル様を解放してあげて!」
柳眉を逆立て、精一杯怒鳴り続けるシャルロッテ嬢。その悲痛な姿に、私は肩を震わせて――
「……ですよねーーー!!」
――感極まってがしっと、彼女の両手を握ってしまいました。
「そうですよね? やっぱりそう思いますよね!? 私はセシル様にふさわしくありませんよね!」
嬉しい! やっと話の通じる人に出会えた!
「そうなんです。私のような一介のメイド風情が旦那様と奥様の大切な御子息様と結婚なんて無理です! 常識的に考えて、許される行為ではありませんよね? 学園にも、私なんぞが通うのは申し訳なさすぎて、皆様に全力で土下座して回りたい毎日なんです。私も早急にセシル様に婚約を破棄して頂きたいのです。でも、私が何度婚約解消を申し出ても聞き入れてくださらなくて。シャルロッテ様、一緒にセシル様を説得していただけませんか!?」
肩まで伸ばした髪を結いもせず頬に垂らし、涙目でぐいぐい迫ってくる私に、ご令嬢は「ちょ、ちかっ、ひっ!」と悲鳴を上げながら半泣きで仰け反っています。ごめんなさい、顔が怖くて。
でも、こっちだって必死です。
「お願いです、シャルロッテ様。どうかセシル様の一時の気の迷いを断つお手伝いを……」
「……誰の気が迷ってるって?」
ぽん、と肩を叩かれ、私は凍りつく。
ギギギ、とブリキ人形のようにギクシャク振り返ると……。
そこには、金髪碧眼の天使と見まごうばかりの愛らしい少年が立っていました。セシル・フィネガー様。相変わらず完璧なお美しさです。
「探したよ、マギー! 僕の可愛い子猫ちゃん!」
セシル様はがばっと私を抱きしめるとにっこり微笑みました。
「今日は天気がいいから中庭でランチを食べよう。早くしないと昼休みが終わってしまうよ。君との逢瀬は僕にとって重要な時間なんだ。瑣末事に囚われて一分一秒も無駄にはしたくないよ」
私の手を取り、ずんずん進んでいくセシル様。そして大分離れてからシャルロッテ様を振り返り、氷点下の眼差しで、
「愛し合う二人の邪魔をするのはいい趣味とはいないね、シャルロッテ嬢。文句があるなら、弱いマギーではなく直接僕に言って」
……ひぃぃぃっ!
背景にブリザードが吹き荒れていましたよっ。
泣き崩れるシャルロッテ様を置いて、セシル様は私を連れて優雅に歩いていきます。
……巻き込んですみません、シャルロッテ様。
私は手を引かれるまま、セシル様に中庭に連行されました。
子爵令嬢のシャルロッテ様に指を差されながら怒鳴られたのは、王立学園の昼休みのことでした。
セシル様とは、セシル・フィネガー。フィネガー伯爵家のご令息で、私がお仕えしている方です。
「マギー! あなたはフィネガー伯爵家のメイドの分際で、お優しいセシル様の弱みにつけこみ婚約者の座を手に入れたばかりか、善良なフィネガーご夫妻の好意に甘えまくって学費を出させて、平民のくせに貴族子女の通う王立学園にまで入学する始末! 上流階級の令嬢として、貴女の横暴は赦せない! これ以上フィネガー伯爵家から搾取しないで! 一刻も早くセシル様を解放してあげて!」
柳眉を逆立て、精一杯怒鳴り続けるシャルロッテ嬢。その悲痛な姿に、私は肩を震わせて――
「……ですよねーーー!!」
――感極まってがしっと、彼女の両手を握ってしまいました。
「そうですよね? やっぱりそう思いますよね!? 私はセシル様にふさわしくありませんよね!」
嬉しい! やっと話の通じる人に出会えた!
「そうなんです。私のような一介のメイド風情が旦那様と奥様の大切な御子息様と結婚なんて無理です! 常識的に考えて、許される行為ではありませんよね? 学園にも、私なんぞが通うのは申し訳なさすぎて、皆様に全力で土下座して回りたい毎日なんです。私も早急にセシル様に婚約を破棄して頂きたいのです。でも、私が何度婚約解消を申し出ても聞き入れてくださらなくて。シャルロッテ様、一緒にセシル様を説得していただけませんか!?」
肩まで伸ばした髪を結いもせず頬に垂らし、涙目でぐいぐい迫ってくる私に、ご令嬢は「ちょ、ちかっ、ひっ!」と悲鳴を上げながら半泣きで仰け反っています。ごめんなさい、顔が怖くて。
でも、こっちだって必死です。
「お願いです、シャルロッテ様。どうかセシル様の一時の気の迷いを断つお手伝いを……」
「……誰の気が迷ってるって?」
ぽん、と肩を叩かれ、私は凍りつく。
ギギギ、とブリキ人形のようにギクシャク振り返ると……。
そこには、金髪碧眼の天使と見まごうばかりの愛らしい少年が立っていました。セシル・フィネガー様。相変わらず完璧なお美しさです。
「探したよ、マギー! 僕の可愛い子猫ちゃん!」
セシル様はがばっと私を抱きしめるとにっこり微笑みました。
「今日は天気がいいから中庭でランチを食べよう。早くしないと昼休みが終わってしまうよ。君との逢瀬は僕にとって重要な時間なんだ。瑣末事に囚われて一分一秒も無駄にはしたくないよ」
私の手を取り、ずんずん進んでいくセシル様。そして大分離れてからシャルロッテ様を振り返り、氷点下の眼差しで、
「愛し合う二人の邪魔をするのはいい趣味とはいないね、シャルロッテ嬢。文句があるなら、弱いマギーではなく直接僕に言って」
……ひぃぃぃっ!
背景にブリザードが吹き荒れていましたよっ。
泣き崩れるシャルロッテ様を置いて、セシル様は私を連れて優雅に歩いていきます。
……巻き込んですみません、シャルロッテ様。
私は手を引かれるまま、セシル様に中庭に連行されました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
191
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる