まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)

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3話

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 卒業パーティー当日。
 ロバートは銀の燕尾服でビシッと決めていた。

「ねえ、本当にわたくしと結婚してくれるんでしょうね?」

 彼の腕にしなだれかかり、豊満な胸を押しつてくるのは、オリビアと同学年のハニー男爵令嬢。卒業パーティーには卒業生とパートナーしか出席できないので、ロバートは借金を抱えて爵位剥奪寸前の男爵家の令嬢を口説き落としていた。

「ああ、任せておけ」

 ロバートは胸を張って答えるが、パーティーの後は知ったことではない。ただ、オリビアをギャフンと言わせる人材がいれはいいだけだ。
 巨乳は好みだから、適当に遊んでやってもいい。鬱陶しくなったら金を積んで別れればいい。エンバー家は我が国有数の資産家だ、跡取りの俺に怖いものはない。
 ロバートはハニー嬢を従え、意気揚々とパーティー会場に入った。
 会場内には華やかな正装の男女がダンスしたり仲間と語り合っている。
 卒業生たちは、新たな門出に胸を弾ませ、友との別離を惜しんでいる。

 ……せいぜいバカ面下げて笑ってろ。これからとっておきのショーが始まるんだからな!

 ロバートはほくそ笑みながら、会場内を見回す。
 目当ての人物は、すぐ見つかった。
 凛と伸びた背筋に、柔らかな細身の曲線にマーメイドドレスがよく似合う、一瞬で目を奪われる美女。
 オリビア・チャールストン。
 彼女の周りにはいつも人が溢れ、羨望の眼差しを向けている。
 ……それがロバートの心をささくれ立たせる。
 卒業式の数日前、廊下で彼女とすれ違った時、ロバートはオリビアに「お前とパーティーに出てやらないからな!」と怒鳴っておいた。驚いて固まっていたオリビアの顔は傑作だった。
 きっと今夜は独りで寂しく出席しているのだろう。壁の花にならずに同窓生に囲まれている姿には腹が立つが、前回よりももっと驚愕の表情をさせてやる。

「オリビア!」

 数歩離れた先から声を掛けると、フルートグラスを片手に談笑していたオリビアが目を上げた。

「あら、ロバート様。どうし……?」

 彼女が言い終わる前に、ロバートは彼女を指差し宣言した。

「オリビア・チャールストン! 今、この場で、お前に婚約破棄を言い渡す!」
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