まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)

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4話

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「オリビア・チャールストン! 今、この場で、お前に婚約破棄を言い渡す!」

 ロバートの声に、その場にいた全員が凍りつく。
 集まる視線にエンバー家長男は得意満面だ。
 今夜の主役は俺だ!
 ロバートはキョトンと固まるオリビアに、見せつけるように男爵令嬢を引き寄せた。

「俺はこのハニー嬢と結婚する! お前のような年増などお呼びじゃないんだよ!」

 笑いながら吐き捨てる。ハニーはオリビアと同い年だが、都合の悪いことには目を瞑る。
 この上なく愉快な気分だ。ほら、泣けよ、オリビア!

「だが、俺だって鬼じゃない。土下座して俺に忠誠を誓えば、妾くらいにはしてやるぞ。んん?」

 上から目線で命令する。
 さあ、最後の慈悲だ。俺に縋りついて許しを請え!
 唇を歪め、愉悦の笑みを浮かべるロバート。彼の興奮が最高潮に達した……その時。

「……ええと」

 ようやくオリビアが口を開いた。

「まずはロバート様、ハニー様、ご婚約おめでとうございます」

 華の咲くような、麗らかな笑顔で祝福する。それから、

「でも、わたくしの婚約破棄とは、一体何の話でしょう?」

「……は?」

 心底不思議そうに首を傾げるオリビアに、ロバートは胡乱げに眉を寄せる。

「オリビア! お前、何をとぼけて……」

 怒鳴りかけたロバートを置いて、

「オリビア? どうしたの?」

 彼女の背後から、ひょこっと弟のミハエルが顔を出した。

「ミハエル!? なんでここに??」

「なんでって、僕はオリビアのパートナーだから」

 当然とばかりに答えるミハエルはきっちり夜会服を着込んでいる。

「ねえ、なんで兄さんがここにいるの?」

 顔を寄せてくるミハイルに、オリビアは困惑気味に答える。

「さあ? わたくしの婚約破棄がどうとかって……」

「えー! 僕、オリビアと婚約破棄しないよ!? 今から明日の入籍が楽しみすぎて踊りだしそうだもん! 来月の結婚式のウエディングドレス姿も待ちきれない! 仮縫いについていっていい?」

「あらあら、ミハエルったら。新郎は式までドレスは見ちゃダメなのよ」

「えー、気になるなぁ!」

 急にイチャイチャし出した弟と許嫁に、ロバートは呆然とする。

「え? ちょ? 待て、待って!」

 頭が混乱して、狼狽える。

「何を言っているんだ? オリビア、ミハエル。オリビアの婚約者は俺だろう!」

 叫ぶエンバー家長男に、オリビアとミハエルは顔を見合わせて……ぷっと噴き出した。

「ええ!? 兄さん、それ、いつの話だよ!」

 ケラケラとお腹を抱えてミハエルは言う。

「兄さんとオリビアの婚約なんて、十年も前に解消になってるじゃないか!」
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