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48、聖なる血、黒い血

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 自分に害を成す魔法に耐性が高く、支援魔法には親和性がある。
 そういう人間のことを、私は聞いたことがある。
 我が国パルティトラ王家の血脈。深淵の歪から湧き出す『魔』から人々を護るために神から特別な力を授かったという、貴き『聖なる血』の一族だ。
 聖なる血を受け継ぐ王族は、魔力に強く、魔物の扱いが上手い。
 それは、学校でも習うパルティトラの歴史なので子供でも知っている。
 第三王子のフィルアートがその体質なのは当然として。あれ? ってことは……。

「スノーも王族なんですか?」

 あの子、何故か窮奇セリニと仲良いし。
 ……もしかして私、知らぬうちに不敬なことしまくったかも!
 内心あせる私に、ミカは「ううん」と首を振る。

「スノーは別よ。ちょっと……事情があって」

 言い淀む軍医に、私は思い出す。

「そういえば、スノーは自分を『黒い血』だって言ってましたけど」

 あれ? これって秘匿事項だっけ? いや、確か内緒にするのは『鍵鑰けんやく』の方だったかな。

「ああ、それね」

 ミカは難しい顔で天井を見上げる。

「まあ、本人が公言してるし、この基地内の全員が知ってることだから。そうよ、スノー・レシタルは『黒い血』の血統なの」

 少し考えてから、彼女はポツリと呟く。

「悪意に歪められた情報が入る前に、エレノアちゃんにはアタシから説明した方がいいわね」

 軍医は椅子を引っ張ってきて、ベッドに腰掛けている私の前に座った。

「エレノアちゃんは最大期って知ってる?」

「はい。深淵の歪が一番開いた状態のことですよね」

 この前、ユニに教えてもらった。暗晦の森は二十年周期で活性化し、最大期と収束期を繰り返すのだと。

「そうね。でも、今から五期前……約百年前に、いくら待っても最大期が終わらない年があったの」

 肩先に零れるピンクの髪を背に払い、ミカは語り出す。

「――これは、暗晦の森の畔に住むアタシ達が背負った業の物語よ」
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