森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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70、救いの手

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 ――はじめに見えたのは、青と緑の光沢のある黒い翼に腹部の白い羽毛。
 大蛇に飲み込まれる寸前、蛇のあぎととリルの顔の間に飛び込んできたのは、小さなカササギだった。
 場違いな野鳥は美しい羽を広げると、みるみる形を変えていき……人間の姿になった。
 森に溶け込むような深緑のローブと木洩れ日に透ける銀髪が涙に滲む。

「……スイウさん!」

 万感の思いで、リルは彼の名を口にした。
 碧謐の森の魔法使いが、リルのピンチに駆けつけてくれたのだ。
 スイウはいつもの無表情のまま、大きく開いた蛇の口に右手を突き出した。……途端。

 ボンッ!!

 強烈な爆発音を立てて、蛇の頭の上半分が吹っ飛んだ!
 バラバラと赤黒い肉塊の雨が降る。あまりのことにリルが目を見開いて動けないでいると、

「さがれ」

 スイウが振り向きもせず冷たい声で言う。

「まだ終わってない」

 魔法使いの言葉通り、頭が下顎だけになった大蛇は辛うじて残った二股の舌をチロチロ揺らめかせながら、太い胴体を元気にくねらせている。

「ひっ。まだ生きてるの?」

 引きつった声を上げるリルに、スイウは淡々と返す。

「この森に発生する禍物まがものは死体に憑く。元々生きていない」

「マガモノ?」

「生けるものにわざわいを成す存在だ」

 説明をしている間にも、大蛇は血と毒液を撒き散らしながら半分になった頭を振り回す。リルは転げるようにスイウの背中から離れた。

「リル、こっちに!」

 呼ばれた彼女は黒狐の元に走る。

「ノワ君、無事だった!?」

 かがんで顔を寄せてくる人間の少女に、狐はふんっと鼻を鳴らした。

「無事に決まっている。スイウめ、手柄を横取りしやがって」

 悪態をつくノワゼアは息が荒く、足元がおぼつかない。かなり消耗しているようだ。

「ありがとう、ノワ君」

 リルは小さな狐の体を抱き上げた。
 少女と幼獣が合流している間にも、魔法使いと大蛇の戦いは激化していく。
 半分頭のない蛇が樫の木に巻き付き引っこ抜きぶん投げるのを、魔法使いは紙一重で躱す。そして一歩踏み出し、蛇の胴に掌を翳した。

 ドン! ドン! ドン!

 立て続けに空気を震わせ炸裂音が響く。気がつくと大蛇の腹に三つの風穴が開いていた。
 グラリと揺れる斑の皮に、スイウの手刀が横一文字に空を裂いた。すると、大蛇の首に赤い線が引かれたかと思うと……ゴロン、と下顎だけの頭が地面に転がった。一拍置いて、穴の開いた胴が土煙を上げて真横に倒れた。

「やった!」

 リルはノワゼアを抱き締め飛び上がる。魔法使いは、見事に怪異を退治してのけた!

「スイウさん!」

 ふうっと息をつくスイウに喜び勇んで駆け寄ろうとしたリルは、何かに躓いた。

「あっ」

 下を向くとそこには……首から分断された大蛇の下顎が。

「!?」

 リルが体を強張らせた瞬間、顎だけの大蛇は彼女に飛びかかってきた!
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