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71、事後対応
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瞬きすらせず、リルはその光景を見ていた。
地面から跳ね上がった血塗れの赤黒い肉塊が、自分めがけて襲いかかってくる。リルは咄嗟に腕の中の子狐を胸に抱え込んだ。スイウは遠い。大蛇の最後の悪あがきに、最早対抗する術は残ってない……。
――と思われた、矢先。
ザンッ!
天から一条の光が下りた。
否、それは太陽に煌めく一本の長剣で……。
大蛇の顎がリルに届く前に空中で貫き、そのまま地上に縫い止めたのは……あの金の鎧の青年だった。
彼は肉塊と共に地上に刺さった剣の柄を両手で握ったまま、祈るように膝をついた。
「万物を創造せし女神の意により、闇よ、光に還れ!」
口の中で唱えて力を込めると剣は黄金に輝き、光に包まれた肉塊はみるみる形を崩し、光の粒子となって消えていく。
蛇の残骸が塵一つ残らず消え去ると、鎧の青年は膝をついたまま顔を上げた。彼の榛色の瞳と、リルの緑の瞳の視線がぶつかる。
「あの……?」
リルが何か言いかけた瞬間、彼はパタッとその場に倒れた。
「わぁ! 大丈夫ですか!?」
慌ててリルは駆け寄るが、頭から血を流しているし鎧の胴には毒牙の穴が開いているしで、どこをどうみても大丈夫な状態ではない。
「スイウさん! この人……」
振り返って指示を仰ぐリルを魔法使いは一瞥し、
「家に帰って手当しないと死ぬな」
冷静な口調で言われて、リルは取り乱す。
「じゃあ、早く帰りましょう!」
真っ青な彼女に、それでもスイウは動じない。
「私は周辺を浄化してから戻る。先に行け」
「先にって……」
素人一人ではどうにもならない。半泣きで抗議しようとして……リルは気づいた。スイウの足元に転がっている蛇の胴からどす黒い粘液が染み出し、地面を侵食していることに。リルは直感的にこの怪異が伝播するものだと気づいた。ならば、森の管理者である魔法使いがこの場を離れるわけにはいかない。
「……わかりました」
できなくても、これはリルがしなければならない仕事だ。
幸い、彼女には力持ちの協力者もいる。
「ノワ君、この人を大樹に運ぶのを手伝って」
目線を下げて腕の中の子狐に頼むと、彼はふあっと大あくびした。
「無理。もう力が残ってない」
ノワゼアは体をよじってリルのバッグを開けると、水筒代わりのガラス瓶を投げ捨て中に潜り込んだ。先に井戸底の石を回収しているあたりは良心的だ。
「我は寝る。あとは任せた」
非常食のハムサンドイッチを齧りながらうつらうつらと船を漕ぐ。よほど疲れたのだろう。
「……ありがとう、ノワ君」
瞼のくっつきそうな子狐の額を撫でてから、リルは自分に気合を入れる。ノワゼアが頑張ってくれたのだから、次はこちらの番だ。
祈るポーズのまま崩れ落ちた彼の体の下になんとか潜り込み両腕をリルの肩に掛けさせる。いわゆる『おんぶ』の形にして彼を持ち上げようとするが……。
「お、重いっ」
それは当然だ。リルは成人女性の平均的な体格で、青年は長身な上に全身甲冑を着込んでいるのだから。
それでも諦めるわけにはいかない。
「んん~、ふぐぅ~~~っ!」
足腰を踏ん張って、なんとか彼を持ち上げようとしていると、
「わっ!?」
不意にふわっと背中が軽くなった。鎧の彼を支えるように纏わりつく空気。これは……。
(風魔法?)
スイウのお陰かと思って振り返ってみると、彼はまったくリル達を意に介さず蛇の死体を焼いている。
……誰の魔法か解らないけれど……。
「ありがとう」
力を貸してくれている見えない存在にお礼を言い、リルは大樹の家へと急いだ。
地面から跳ね上がった血塗れの赤黒い肉塊が、自分めがけて襲いかかってくる。リルは咄嗟に腕の中の子狐を胸に抱え込んだ。スイウは遠い。大蛇の最後の悪あがきに、最早対抗する術は残ってない……。
――と思われた、矢先。
ザンッ!
天から一条の光が下りた。
否、それは太陽に煌めく一本の長剣で……。
大蛇の顎がリルに届く前に空中で貫き、そのまま地上に縫い止めたのは……あの金の鎧の青年だった。
彼は肉塊と共に地上に刺さった剣の柄を両手で握ったまま、祈るように膝をついた。
「万物を創造せし女神の意により、闇よ、光に還れ!」
口の中で唱えて力を込めると剣は黄金に輝き、光に包まれた肉塊はみるみる形を崩し、光の粒子となって消えていく。
蛇の残骸が塵一つ残らず消え去ると、鎧の青年は膝をついたまま顔を上げた。彼の榛色の瞳と、リルの緑の瞳の視線がぶつかる。
「あの……?」
リルが何か言いかけた瞬間、彼はパタッとその場に倒れた。
「わぁ! 大丈夫ですか!?」
慌ててリルは駆け寄るが、頭から血を流しているし鎧の胴には毒牙の穴が開いているしで、どこをどうみても大丈夫な状態ではない。
「スイウさん! この人……」
振り返って指示を仰ぐリルを魔法使いは一瞥し、
「家に帰って手当しないと死ぬな」
冷静な口調で言われて、リルは取り乱す。
「じゃあ、早く帰りましょう!」
真っ青な彼女に、それでもスイウは動じない。
「私は周辺を浄化してから戻る。先に行け」
「先にって……」
素人一人ではどうにもならない。半泣きで抗議しようとして……リルは気づいた。スイウの足元に転がっている蛇の胴からどす黒い粘液が染み出し、地面を侵食していることに。リルは直感的にこの怪異が伝播するものだと気づいた。ならば、森の管理者である魔法使いがこの場を離れるわけにはいかない。
「……わかりました」
できなくても、これはリルがしなければならない仕事だ。
幸い、彼女には力持ちの協力者もいる。
「ノワ君、この人を大樹に運ぶのを手伝って」
目線を下げて腕の中の子狐に頼むと、彼はふあっと大あくびした。
「無理。もう力が残ってない」
ノワゼアは体をよじってリルのバッグを開けると、水筒代わりのガラス瓶を投げ捨て中に潜り込んだ。先に井戸底の石を回収しているあたりは良心的だ。
「我は寝る。あとは任せた」
非常食のハムサンドイッチを齧りながらうつらうつらと船を漕ぐ。よほど疲れたのだろう。
「……ありがとう、ノワ君」
瞼のくっつきそうな子狐の額を撫でてから、リルは自分に気合を入れる。ノワゼアが頑張ってくれたのだから、次はこちらの番だ。
祈るポーズのまま崩れ落ちた彼の体の下になんとか潜り込み両腕をリルの肩に掛けさせる。いわゆる『おんぶ』の形にして彼を持ち上げようとするが……。
「お、重いっ」
それは当然だ。リルは成人女性の平均的な体格で、青年は長身な上に全身甲冑を着込んでいるのだから。
それでも諦めるわけにはいかない。
「んん~、ふぐぅ~~~っ!」
足腰を踏ん張って、なんとか彼を持ち上げようとしていると、
「わっ!?」
不意にふわっと背中が軽くなった。鎧の彼を支えるように纏わりつく空気。これは……。
(風魔法?)
スイウのお陰かと思って振り返ってみると、彼はまったくリル達を意に介さず蛇の死体を焼いている。
……誰の魔法か解らないけれど……。
「ありがとう」
力を貸してくれている見えない存在にお礼を言い、リルは大樹の家へと急いだ。
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