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134、継承(1)
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纏わりつくような濃い闇が徐々に薄れ、淡い白に変わっていく。
瞼に強い光を感じ、スイウはゆっくりと目を開けた。
最初に視界に飛び込んできたのは、
「スイウさん!」
赤毛のポニーテールを揺らす、少女のくしゃくしゃな涙顔。
「よかった。目を覚ましてくれて、本当によかった。私、名前を呼ぶことしかできなかったから……」
しゃくりあげるリルに苦笑して、スイウは頬を伝う彼女の涙を指で拭った。
「聞こえてた」
「え?」
顔を上げるリルに微笑む。
「君の声、聞こえていた。ありがとう」
「スイウさん……っ」
言葉に詰まり、またボロボロと涙が零れる。感極まって体当たりのように胸に飛び込んできたリルを受け止めながら、スイウは天を仰いだ。
「大樹が……」
枯れかけている。
それだけで、自分の魔法使いとしての寿命が尽きかけているのを知る。
「スイウさん」
リルは服の裾で目尻を擦りながら、彼を見上げた。
「私、結界を繋ぐ四つの楔と契約しました。森の王にも認めてもらって、今……あなたの前にいます」
早鐘のような心臓を抑え、厳かに宣言する。
「私は碧謐の森の九代目魔法使いになります。だから私に、真名をください」
次代が森の管理者を引き継ぐ時、当代が真名を読み解く。それが碧謐の森の魔法使いの継承方法だ。
スイウはもう、リルに「本当にいいのか?」なんて再確認はしない。
……最初から、気づいていた。
街で彼女のお茶を飲んだ時から。
『魔法使いは絶えない』
その言葉の意味を噛みしめる。自分が朽ちても、必ず後の続く誰かが現れる。
リルとの出会いは必然だ。彼女が魔法使いになることは、最初から決まっていた。
「アイフィロス」
スイウはリルの常緑樹の瞳の中に、真名を読み解く。
「我、スイウ=ヒュエトスは、リル=アイフィロスを九代目碧謐の森の魔法使いに任命し、全権を譲渡する」
「アイフィロス……」
その名を口にした……途端。
ぶわっ! と大樹の枝という枝から一斉に緑の葉が芽吹いた。
剥き出しになっていた地面に新しい床が張り替えられ、倒れていた本棚も立ち上がっていく。青い葉の天井から雨のように降り注ぐ優しい木洩れ日。
「な、なに、これ……?」
内側から力が溢れ、高揚に息が上がる。空気中に無数の光の粒が舞っているのが視える。教えられなくても、リルにはそれが思念の粒子なのだと知っている。
リルがただのリルだった頃と違う景色、違う世界。これが……、
「森の王と寿命を共有する、碧謐の森の魔法使いの力だ」
初めての感覚に肌が粟立つ。
(スイウさんはこんな重い使命を一人で背負ってきたのか……)
責任の重大さに押しつぶされそうになるが……後悔はない。
これはリルが決めた道だ。
「次にやるべきことは解っているな?」
スイウに訊かれたリルは「はい」と答える。
そして、出口に向かって歩き出した。
瞼に強い光を感じ、スイウはゆっくりと目を開けた。
最初に視界に飛び込んできたのは、
「スイウさん!」
赤毛のポニーテールを揺らす、少女のくしゃくしゃな涙顔。
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しゃくりあげるリルに苦笑して、スイウは頬を伝う彼女の涙を指で拭った。
「聞こえてた」
「え?」
顔を上げるリルに微笑む。
「君の声、聞こえていた。ありがとう」
「スイウさん……っ」
言葉に詰まり、またボロボロと涙が零れる。感極まって体当たりのように胸に飛び込んできたリルを受け止めながら、スイウは天を仰いだ。
「大樹が……」
枯れかけている。
それだけで、自分の魔法使いとしての寿命が尽きかけているのを知る。
「スイウさん」
リルは服の裾で目尻を擦りながら、彼を見上げた。
「私、結界を繋ぐ四つの楔と契約しました。森の王にも認めてもらって、今……あなたの前にいます」
早鐘のような心臓を抑え、厳かに宣言する。
「私は碧謐の森の九代目魔法使いになります。だから私に、真名をください」
次代が森の管理者を引き継ぐ時、当代が真名を読み解く。それが碧謐の森の魔法使いの継承方法だ。
スイウはもう、リルに「本当にいいのか?」なんて再確認はしない。
……最初から、気づいていた。
街で彼女のお茶を飲んだ時から。
『魔法使いは絶えない』
その言葉の意味を噛みしめる。自分が朽ちても、必ず後の続く誰かが現れる。
リルとの出会いは必然だ。彼女が魔法使いになることは、最初から決まっていた。
「アイフィロス」
スイウはリルの常緑樹の瞳の中に、真名を読み解く。
「我、スイウ=ヒュエトスは、リル=アイフィロスを九代目碧謐の森の魔法使いに任命し、全権を譲渡する」
「アイフィロス……」
その名を口にした……途端。
ぶわっ! と大樹の枝という枝から一斉に緑の葉が芽吹いた。
剥き出しになっていた地面に新しい床が張り替えられ、倒れていた本棚も立ち上がっていく。青い葉の天井から雨のように降り注ぐ優しい木洩れ日。
「な、なに、これ……?」
内側から力が溢れ、高揚に息が上がる。空気中に無数の光の粒が舞っているのが視える。教えられなくても、リルにはそれが思念の粒子なのだと知っている。
リルがただのリルだった頃と違う景色、違う世界。これが……、
「森の王と寿命を共有する、碧謐の森の魔法使いの力だ」
初めての感覚に肌が粟立つ。
(スイウさんはこんな重い使命を一人で背負ってきたのか……)
責任の重大さに押しつぶされそうになるが……後悔はない。
これはリルが決めた道だ。
「次にやるべきことは解っているな?」
スイウに訊かれたリルは「はい」と答える。
そして、出口に向かって歩き出した。
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