8 / 22
8、魔王の事情
しおりを挟む
魔族は人族の敵。
勇者は魔王の天敵。
それは、ジャスティオ王国民の共通認識だ。
そして、多分それは……魔族にとっても同じこと。
長い歴史の確認の後、魔王は紅茶を飲んで一息ついてから、また口を開いた。
「余が魔王の座に就いたのは、約二百年前。先代魔王が勇者に倒されて百年経った頃だ」
魔王は百年周期で現れるというから、計算は合っている。二十代前半にしか見えないけど、やっぱり魔族は見た目通りの容姿じゃないのね。
……ちょっと羨ましい。
「ってことは、この国が三百年間魔王軍の侵攻を受けなかったのは、あなたが魔王になったからなの?」
「まあ、そういうことだな」
魔王は頷く。
「元来、魔族は欲の強い存在だ。生命を蹂躙し、版図を広げ、自身の力を世界に知らしめることで快楽を得る。しかし……」
魔王はふっと自嘲して、
「余は魔力の強さに反比例して魔族の属性が薄いらしい。人との諍いにとんと興味がなくてな。山を降りねば人族とは戦わなくてすむ。人族と戦わなければ勇者も来ぬ。そうして怠惰に時を過ごしてきたのだ」
それが……三百年の平和。
「でも……結局あなたはジャスティオ王国に侵攻したじゃない」
七年前を皮切りに国土の三分の一を支配して、現在も人間の住処を脅かし続けている。
「人族は毎日あなたに怯えて生活しているの。私はジェフリー……勇者にフラれたけれど、気持ちは勇者の味方よ。魔族の横暴を赦さない。どうして三百年、ううん、あなたの代になって二百年も我慢してきたのに、今になって宗旨を変える必要があったの?」
真っ直ぐに睨む私を、魔王は憂いを帯びた瞳で受け止めた。
「その理由を、勇者の仲間である聖女に見てもらいたかったのだ」
彼は立ち上がると、光沢のあるローブを翻した。
「余の望みを教えよう。聖女よ、ついてまいれ」
靴音高くドアへ向かう彼を、私は「待って!」と呼び止めた。
振り返る魔王に、私はフォークを握りしめ切実に訴える。
「このケーキ、もう少しで全種類食べ終わるから!」
……。
「そなた、存外肝が据わっておるのぉ」
……妙なところで魔王様に感心されました。
勇者は魔王の天敵。
それは、ジャスティオ王国民の共通認識だ。
そして、多分それは……魔族にとっても同じこと。
長い歴史の確認の後、魔王は紅茶を飲んで一息ついてから、また口を開いた。
「余が魔王の座に就いたのは、約二百年前。先代魔王が勇者に倒されて百年経った頃だ」
魔王は百年周期で現れるというから、計算は合っている。二十代前半にしか見えないけど、やっぱり魔族は見た目通りの容姿じゃないのね。
……ちょっと羨ましい。
「ってことは、この国が三百年間魔王軍の侵攻を受けなかったのは、あなたが魔王になったからなの?」
「まあ、そういうことだな」
魔王は頷く。
「元来、魔族は欲の強い存在だ。生命を蹂躙し、版図を広げ、自身の力を世界に知らしめることで快楽を得る。しかし……」
魔王はふっと自嘲して、
「余は魔力の強さに反比例して魔族の属性が薄いらしい。人との諍いにとんと興味がなくてな。山を降りねば人族とは戦わなくてすむ。人族と戦わなければ勇者も来ぬ。そうして怠惰に時を過ごしてきたのだ」
それが……三百年の平和。
「でも……結局あなたはジャスティオ王国に侵攻したじゃない」
七年前を皮切りに国土の三分の一を支配して、現在も人間の住処を脅かし続けている。
「人族は毎日あなたに怯えて生活しているの。私はジェフリー……勇者にフラれたけれど、気持ちは勇者の味方よ。魔族の横暴を赦さない。どうして三百年、ううん、あなたの代になって二百年も我慢してきたのに、今になって宗旨を変える必要があったの?」
真っ直ぐに睨む私を、魔王は憂いを帯びた瞳で受け止めた。
「その理由を、勇者の仲間である聖女に見てもらいたかったのだ」
彼は立ち上がると、光沢のあるローブを翻した。
「余の望みを教えよう。聖女よ、ついてまいれ」
靴音高くドアへ向かう彼を、私は「待って!」と呼び止めた。
振り返る魔王に、私はフォークを握りしめ切実に訴える。
「このケーキ、もう少しで全種類食べ終わるから!」
……。
「そなた、存外肝が据わっておるのぉ」
……妙なところで魔王様に感心されました。
12
あなたにおすすめの小説
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる