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16、没落令嬢とゴロツキ(2)
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まだ日が昇りきらぬ早朝。
大勢の罵声と爆裂音、それに忙しなく行き交う蹄の音で、リュリディアは目を覚ました。
「……コウ、何事?」
目をこすりながら寝室から出てきた主に、一分の隙きもない執事姿の従者が困った風に首を竦めた。
「それがコウにも何も。外の様子を見に行きましょうか?」
「そうね……」
リュリディアが迷っていると、不意にドアを叩く音がした。
「リュリちゃん、コウ君、起きてる?」
部屋に入ってきたのは、大家のエレーンだ。ネグリジェにショールを羽織っただけの彼女は、すっぴんでも色気のある美人だ。
「今、王国騎士団が違法薬物の製造所の摘発に着手したって! ほら、四本先の通りにある古い倉庫。あそこがアジトだったのよ」
「あんなご近所で……。それでよくこの辺りでゴロツキを見かけたのね」
納得するリュリディアに、コウは眉を顰めて、
「この間も、リュリお嬢様は怪我したゴロツキを見つけたっておっしゃってましたしね」
血みどろで帰ってきた主に、従者は危うく卒倒しかけた。
「あの時着てた服、結局シミが落ちずに処分しちゃったのよね。もったいないわ」
「……コウは知らぬ男性の血液が付着した服など、リュリお嬢様に着て欲しくありません」
お嬢様はいつだってちょっとズレている。
しばらくすると、外が静かになってきた。
「あ、終わったのかも。ちょっと見に行かない?」
エレーンに促されて、二人は外に出た。
空はすっかり明るくなっていた。下町の一番大きい通りに、銀の甲冑姿の騎馬兵が整列している。
「撤収!」
先頭の騎士団長の号令を合図に、縄を打たれた数十人の悪漢を連れて騎馬隊が動き出す。
この罪人を晒し者にする連行方法はピケスナ王国では一般的で、他の犯罪への抑止効果がある。
「騎士団の特務隊の方が何ヶ月も潜入捜査してたんですって」
「これでこの辺りも少しは治安が良くなるかしら?」
沿道に集まった住民達がさざめき合う。
リュリディアが観衆に埋もれながら何気なく進んでいく隊列を眺めていると、急に射るような視線を感じた。
顔を上げると、今まさに彼女の横を通り過ぎようとしている白馬に乗った騎士が、じっとこちらを見つめていた。
短く刈った清潔そうな銀髪。綺麗に髭の剃られた、男らしく凛々しい頬。そして、新芽のように瑞々しい緑色の瞳は……。
「……あ」
リュリディアと目があった瞬間、騎士はパチリと小粋にウインクした。
その途端、集まっていた女性達からキャーッ! と歓声が上がる。騎士はそれほどの美男子だった。
遠ざかる白馬の背に、リュリディアはぽつりと呟いた。
「服代って、王国騎士団に請求できるかしら?」
「……はい?」
傍らのコウは、こてんと首を傾げた。
大勢の罵声と爆裂音、それに忙しなく行き交う蹄の音で、リュリディアは目を覚ました。
「……コウ、何事?」
目をこすりながら寝室から出てきた主に、一分の隙きもない執事姿の従者が困った風に首を竦めた。
「それがコウにも何も。外の様子を見に行きましょうか?」
「そうね……」
リュリディアが迷っていると、不意にドアを叩く音がした。
「リュリちゃん、コウ君、起きてる?」
部屋に入ってきたのは、大家のエレーンだ。ネグリジェにショールを羽織っただけの彼女は、すっぴんでも色気のある美人だ。
「今、王国騎士団が違法薬物の製造所の摘発に着手したって! ほら、四本先の通りにある古い倉庫。あそこがアジトだったのよ」
「あんなご近所で……。それでよくこの辺りでゴロツキを見かけたのね」
納得するリュリディアに、コウは眉を顰めて、
「この間も、リュリお嬢様は怪我したゴロツキを見つけたっておっしゃってましたしね」
血みどろで帰ってきた主に、従者は危うく卒倒しかけた。
「あの時着てた服、結局シミが落ちずに処分しちゃったのよね。もったいないわ」
「……コウは知らぬ男性の血液が付着した服など、リュリお嬢様に着て欲しくありません」
お嬢様はいつだってちょっとズレている。
しばらくすると、外が静かになってきた。
「あ、終わったのかも。ちょっと見に行かない?」
エレーンに促されて、二人は外に出た。
空はすっかり明るくなっていた。下町の一番大きい通りに、銀の甲冑姿の騎馬兵が整列している。
「撤収!」
先頭の騎士団長の号令を合図に、縄を打たれた数十人の悪漢を連れて騎馬隊が動き出す。
この罪人を晒し者にする連行方法はピケスナ王国では一般的で、他の犯罪への抑止効果がある。
「騎士団の特務隊の方が何ヶ月も潜入捜査してたんですって」
「これでこの辺りも少しは治安が良くなるかしら?」
沿道に集まった住民達がさざめき合う。
リュリディアが観衆に埋もれながら何気なく進んでいく隊列を眺めていると、急に射るような視線を感じた。
顔を上げると、今まさに彼女の横を通り過ぎようとしている白馬に乗った騎士が、じっとこちらを見つめていた。
短く刈った清潔そうな銀髪。綺麗に髭の剃られた、男らしく凛々しい頬。そして、新芽のように瑞々しい緑色の瞳は……。
「……あ」
リュリディアと目があった瞬間、騎士はパチリと小粋にウインクした。
その途端、集まっていた女性達からキャーッ! と歓声が上がる。騎士はそれほどの美男子だった。
遠ざかる白馬の背に、リュリディアはぽつりと呟いた。
「服代って、王国騎士団に請求できるかしら?」
「……はい?」
傍らのコウは、こてんと首を傾げた。
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