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17、没落令嬢と求婚者(1)
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「あー、ヒマだわー」
リュリディアは、ダイニングテーブルに突っ伏して、足をバタバタさせる。
今日は条件の良い求人募集が見つからず、ご令嬢は昼間から長屋で腐っていた。
「いっそ、自宅でできる仕事をしようかしら。魔法薬や呪文巻物を作って売るとか」
彼女は十五歳にして魔法構築学の権威だ。薬や道具に魔力を籠めることなどお手の物……なのだが。
「お嬢様の魔道具取扱許可証は凍結されてますからね。個人で使う分には問題ありませんが、販売したら逮捕されるかと」
ティーカップに桃色の紅茶を注ぎながら、コウが冷静に指摘する。
「うぅ。特許権もみんな停止されてるから、不労所得も入らないのよね」
反逆者一族には世知辛い世の中だ。
「たまには家でゆっくりするのもよろしいかと」
「そうね。じゃあ、兄様に近況報告の手紙でも書こうかしら?」
「それはよろしゅうございますね」
主従が晴れた昼下がりをまったり部屋に引き籠もって満喫していると、
ドンドンドン!
些か粗野なノックの音が響いた。
「おーい、いるかー?」
聞き慣れない声に呼ばれて、コウは怪訝そうにドアを開けた。
そこに立っていたのは、二十代前半の男。身長は背の高いコウよりも更に高い。薄い麻のチュニックの上からでもしっかり筋肉がついていると判る体つき。短い銀髪に精悍な緑の瞳を持つ彼は、オンボロ長屋野一室から現れた場違いに上品な執事に、驚きに眉を跳ね上げた。
「どちら様でしょうか?」
慇懃に尋ねる執事に、青年は戸惑いながら、
「ここに女の子がいるって聞いたんだ。長い金髪の美人が」
その答えに、コウは琥珀の瞳を険しくした。
「どのようなご用件で? アポイントメントはお取りでしょうか?」
「へ? アポ? いや……」
「それでは、一度ご用件とご連絡先を記載したお手紙をお送りください。後日改めて都合の良い日取りをお報せしますので」
「は!?」
どこの王侯貴族の接見だ。
「それでは失礼します」
「ま、待て!」
閉まりかけたドアに、男は素早く足を入れた。
「怪しいもんじゃない。俺はただ、あのお嬢ちゃんに会いたくて」
「どこからどう見ても怪しいです。お引取りを」
「待てって。話を聞けよ」
「ですから、面会の目的を手紙で送ってきていただければ考慮いたします」
「いや、だから……」
「コウ、どうしたの?」
ドアを挟んで揉める男二人に、室内の少女が声をかけた。
「お嬢様、奥へ行っていてください」
振り返った従者の肩越しに見えた男の顔に、リュリディアは「あ」と指差した。
「よう!」
彼女に気づいた男が気さくに手を挙げる。コウは主と男を交互に見遣って、
「お知り合いですか?」
リュリディアに尋ねた。彼女はこくんと頷く。
「ほら、前に話したでしょ? 今際の際の台詞を空振った人よ」
「なっ!?」
あまりの紹介のされ方に、真っ赤になって口をパクパクさせる男に、
「ああ、一般人のお嬢様に合印や潜伏拠点を教えちゃった王国騎士団の方ですか?」
コウが追い打ちをかける。
「……酷いな、お前ら。誰が街の治安を守ってると思ってんだ……」
すっかりいじけてしまった青年に、リュリディアは飄々と質問を戻す。
「で、なんのご用かしら? 騎士様」
彼はバツが悪気に銀髪の後頭部を掻いて、
「俺の名前は、ラルフ・バージェス。もうすっかりバレてるみたいだが、王国騎士団の特務隊に所属している。今日はお嬢ちゃんに礼を言いに来たんだ」
リュリディアは、ダイニングテーブルに突っ伏して、足をバタバタさせる。
今日は条件の良い求人募集が見つからず、ご令嬢は昼間から長屋で腐っていた。
「いっそ、自宅でできる仕事をしようかしら。魔法薬や呪文巻物を作って売るとか」
彼女は十五歳にして魔法構築学の権威だ。薬や道具に魔力を籠めることなどお手の物……なのだが。
「お嬢様の魔道具取扱許可証は凍結されてますからね。個人で使う分には問題ありませんが、販売したら逮捕されるかと」
ティーカップに桃色の紅茶を注ぎながら、コウが冷静に指摘する。
「うぅ。特許権もみんな停止されてるから、不労所得も入らないのよね」
反逆者一族には世知辛い世の中だ。
「たまには家でゆっくりするのもよろしいかと」
「そうね。じゃあ、兄様に近況報告の手紙でも書こうかしら?」
「それはよろしゅうございますね」
主従が晴れた昼下がりをまったり部屋に引き籠もって満喫していると、
ドンドンドン!
些か粗野なノックの音が響いた。
「おーい、いるかー?」
聞き慣れない声に呼ばれて、コウは怪訝そうにドアを開けた。
そこに立っていたのは、二十代前半の男。身長は背の高いコウよりも更に高い。薄い麻のチュニックの上からでもしっかり筋肉がついていると判る体つき。短い銀髪に精悍な緑の瞳を持つ彼は、オンボロ長屋野一室から現れた場違いに上品な執事に、驚きに眉を跳ね上げた。
「どちら様でしょうか?」
慇懃に尋ねる執事に、青年は戸惑いながら、
「ここに女の子がいるって聞いたんだ。長い金髪の美人が」
その答えに、コウは琥珀の瞳を険しくした。
「どのようなご用件で? アポイントメントはお取りでしょうか?」
「へ? アポ? いや……」
「それでは、一度ご用件とご連絡先を記載したお手紙をお送りください。後日改めて都合の良い日取りをお報せしますので」
「は!?」
どこの王侯貴族の接見だ。
「それでは失礼します」
「ま、待て!」
閉まりかけたドアに、男は素早く足を入れた。
「怪しいもんじゃない。俺はただ、あのお嬢ちゃんに会いたくて」
「どこからどう見ても怪しいです。お引取りを」
「待てって。話を聞けよ」
「ですから、面会の目的を手紙で送ってきていただければ考慮いたします」
「いや、だから……」
「コウ、どうしたの?」
ドアを挟んで揉める男二人に、室内の少女が声をかけた。
「お嬢様、奥へ行っていてください」
振り返った従者の肩越しに見えた男の顔に、リュリディアは「あ」と指差した。
「よう!」
彼女に気づいた男が気さくに手を挙げる。コウは主と男を交互に見遣って、
「お知り合いですか?」
リュリディアに尋ねた。彼女はこくんと頷く。
「ほら、前に話したでしょ? 今際の際の台詞を空振った人よ」
「なっ!?」
あまりの紹介のされ方に、真っ赤になって口をパクパクさせる男に、
「ああ、一般人のお嬢様に合印や潜伏拠点を教えちゃった王国騎士団の方ですか?」
コウが追い打ちをかける。
「……酷いな、お前ら。誰が街の治安を守ってると思ってんだ……」
すっかりいじけてしまった青年に、リュリディアは飄々と質問を戻す。
「で、なんのご用かしら? 騎士様」
彼はバツが悪気に銀髪の後頭部を掻いて、
「俺の名前は、ラルフ・バージェス。もうすっかりバレてるみたいだが、王国騎士団の特務隊に所属している。今日はお嬢ちゃんに礼を言いに来たんだ」
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