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22、没落令嬢と冒険者パーティ(2)
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「あたしはアン。こう見えて壁役よ」
スティーブより重装備でバスタードソードと鋼の盾を両手に携えた女剣士。
「サリーナです。水の女神に仕える巫女です。わたくしは回復と浄化を得意としております」
白いローブのふわふわした印象の女性。
「俺はニック、職業盗賊だ。本物の盗賊じゃないぞ。鍵や罠の解除が仕事だ」
細身の革ズボンの男。
そして……。
「い……イニアスです。魔法使いやってます。よろしくお願いします……」
おどおど愛想笑いする紺色のローブに赤髪丸眼鏡の青年。
それに剣士でリーダーのスティーブを入れた五人編成のパーティに、リュリディアはお邪魔することとなった。
「みんな、ディアちゃんは初心者だからフォローしてあげてね。ディアちゃんは見てるだけでいいから!」
「……はあ」
人懐っこく距離感の近いスティーブに、リュリディアは若干引き気味だ。
なんというか……妙な違和感がある。それが何かは判らないのだけれど。
挨拶が済んだら飯屋を出て、目的地へ向かう。
道中、リュリディアはザックから零れ落ちそうなほど大量の荷物を背負っているイニアスが気になった。他のパーティメンバーは武器防具だけを身につけた動きやすい格好なのに。
「すごい荷物ね。戦闘職の魔法使いって、そんなに道具を使うの?」
研究職の箱入り魔法使いが尋ねると、冒険者パーティの魔法使いはぼそぼそと、
「いや、これは、全部が僕のではなく……」
「イニアスはパーティの荷物持ちなんだよ」
言い終わる前に、ニックが答える。
「魔法使いとして役立たずだから、それくらいしてもらわないと」
「アン、それは言い過ぎだよ。僕らはイニアスに荷物を持ってもらって助かってるよ」
女剣士のキツい言い方をスティーブが嗜める。
「もう、スティーブは優しいんだから」
赤らめた頬を膨らますアン。そして、頼れるリーダーに熱い眼差しを送るサリーナ。端から見ても、女性二人の男剣士への好意は丸わかりだ。
「……ディアさんの荷物も持ちましょうか?」
気を遣ったのか、おずおずとイニアスが尋ねてくる。
「自分の荷物くらい自分で管理できるわ。それより、あなたは納得して他人の荷物まで背負っているの?」
訊き返されて、彼はビクリと肩を揺らした。
「これが僕の仕事ですから……」
……冒険者パーティって、みんなこんな雰囲気なのかしら?
リュリディアはモヤモヤするが、なにせ冒険初体験なので基準が解らない。
「ま、軽量化魔法かかってるし、問題ないのね」
「……え!?」
独りごちる金髪美少女を、大荷物の青年がまじまじと見つめる。
「なに?」
「いえ……」
リュリディアが見ると、イニアスは顔ごと目を逸らす。……コミュニケーションが取りづらい。
「あ、あそこだ!」
ニックが指差す先に、土地神のシンボルを象った古い建物が見えてくる。
それきり会話が途絶え、リュリディアとイニアスは黙々と歩みを進めた。
◆ ◇ ◆ ◇
村外れにある寂れた教会の裏手。錆びた鉄の扉を開き、冒険者パーティは隊列を組んで地下墓地へと降りていく。
かび臭く湿った空気が皆を包む。
「光灯」
サリーナは杖を振り、真っ暗な地下に篝火のような光の玉を浮かべた。
さして天井の高くない石室。壁には幅の狭い棚が設置されている。ここには棺が整然と並んでいたはずなのだが……。
棺は今はすべて床に投げ出され、破損し、蓋が開いていた。その数、数十基ほど。
「スティーブ、こっち!」
斥候役のニックが石室の奥で手招きする。灯りを翳すと、壁の一部が崩れ、穴が開いているのが見えた。穴は更に深い地下へと続いている。
「この地下墓地、洞窟の上に建てられたのね」
「悪しき波動を感じます。棺の中のご遺体が洞窟に澱んでいた邪霊に取り憑かれ動き出したのでしょう」
アンの見立てに、サリーナが補足する。
「と、いうことはアンデッドは洞窟にいるのか。みんな、降りるよ」
スティーブの号令で穴を潜り始めるパーティメンバー。リュリディアは思わずそれに待ったをかけた。
「情報と違うわ。アンデッドは十体くらいと言っていたじゃない。棺の数は五十はあるわよ」
しかしスティーブは颯爽と振り返ると、
「墓地の死体すべてがアンデッド化したとも限らない。それに、俺達は強いし、何よりこのパーティには浄化が得意な巫女のサリーナがいる。少し敵が増えたって大丈夫さ」
白い歯を見せて新入りの杞憂を笑い飛ばした。
傍らでは、サリーナが「がんばります!」と意気込んでいる。
……想定の五倍の敵を『少し増えた』だけと認識するなんて……。
さすが、冒険者は豪胆ね。と頓珍漢な感心をしながら、初心者魔法使いは自称ベテランパーティを追いかけた。
スティーブより重装備でバスタードソードと鋼の盾を両手に携えた女剣士。
「サリーナです。水の女神に仕える巫女です。わたくしは回復と浄化を得意としております」
白いローブのふわふわした印象の女性。
「俺はニック、職業盗賊だ。本物の盗賊じゃないぞ。鍵や罠の解除が仕事だ」
細身の革ズボンの男。
そして……。
「い……イニアスです。魔法使いやってます。よろしくお願いします……」
おどおど愛想笑いする紺色のローブに赤髪丸眼鏡の青年。
それに剣士でリーダーのスティーブを入れた五人編成のパーティに、リュリディアはお邪魔することとなった。
「みんな、ディアちゃんは初心者だからフォローしてあげてね。ディアちゃんは見てるだけでいいから!」
「……はあ」
人懐っこく距離感の近いスティーブに、リュリディアは若干引き気味だ。
なんというか……妙な違和感がある。それが何かは判らないのだけれど。
挨拶が済んだら飯屋を出て、目的地へ向かう。
道中、リュリディアはザックから零れ落ちそうなほど大量の荷物を背負っているイニアスが気になった。他のパーティメンバーは武器防具だけを身につけた動きやすい格好なのに。
「すごい荷物ね。戦闘職の魔法使いって、そんなに道具を使うの?」
研究職の箱入り魔法使いが尋ねると、冒険者パーティの魔法使いはぼそぼそと、
「いや、これは、全部が僕のではなく……」
「イニアスはパーティの荷物持ちなんだよ」
言い終わる前に、ニックが答える。
「魔法使いとして役立たずだから、それくらいしてもらわないと」
「アン、それは言い過ぎだよ。僕らはイニアスに荷物を持ってもらって助かってるよ」
女剣士のキツい言い方をスティーブが嗜める。
「もう、スティーブは優しいんだから」
赤らめた頬を膨らますアン。そして、頼れるリーダーに熱い眼差しを送るサリーナ。端から見ても、女性二人の男剣士への好意は丸わかりだ。
「……ディアさんの荷物も持ちましょうか?」
気を遣ったのか、おずおずとイニアスが尋ねてくる。
「自分の荷物くらい自分で管理できるわ。それより、あなたは納得して他人の荷物まで背負っているの?」
訊き返されて、彼はビクリと肩を揺らした。
「これが僕の仕事ですから……」
……冒険者パーティって、みんなこんな雰囲気なのかしら?
リュリディアはモヤモヤするが、なにせ冒険初体験なので基準が解らない。
「ま、軽量化魔法かかってるし、問題ないのね」
「……え!?」
独りごちる金髪美少女を、大荷物の青年がまじまじと見つめる。
「なに?」
「いえ……」
リュリディアが見ると、イニアスは顔ごと目を逸らす。……コミュニケーションが取りづらい。
「あ、あそこだ!」
ニックが指差す先に、土地神のシンボルを象った古い建物が見えてくる。
それきり会話が途絶え、リュリディアとイニアスは黙々と歩みを進めた。
◆ ◇ ◆ ◇
村外れにある寂れた教会の裏手。錆びた鉄の扉を開き、冒険者パーティは隊列を組んで地下墓地へと降りていく。
かび臭く湿った空気が皆を包む。
「光灯」
サリーナは杖を振り、真っ暗な地下に篝火のような光の玉を浮かべた。
さして天井の高くない石室。壁には幅の狭い棚が設置されている。ここには棺が整然と並んでいたはずなのだが……。
棺は今はすべて床に投げ出され、破損し、蓋が開いていた。その数、数十基ほど。
「スティーブ、こっち!」
斥候役のニックが石室の奥で手招きする。灯りを翳すと、壁の一部が崩れ、穴が開いているのが見えた。穴は更に深い地下へと続いている。
「この地下墓地、洞窟の上に建てられたのね」
「悪しき波動を感じます。棺の中のご遺体が洞窟に澱んでいた邪霊に取り憑かれ動き出したのでしょう」
アンの見立てに、サリーナが補足する。
「と、いうことはアンデッドは洞窟にいるのか。みんな、降りるよ」
スティーブの号令で穴を潜り始めるパーティメンバー。リュリディアは思わずそれに待ったをかけた。
「情報と違うわ。アンデッドは十体くらいと言っていたじゃない。棺の数は五十はあるわよ」
しかしスティーブは颯爽と振り返ると、
「墓地の死体すべてがアンデッド化したとも限らない。それに、俺達は強いし、何よりこのパーティには浄化が得意な巫女のサリーナがいる。少し敵が増えたって大丈夫さ」
白い歯を見せて新入りの杞憂を笑い飛ばした。
傍らでは、サリーナが「がんばります!」と意気込んでいる。
……想定の五倍の敵を『少し増えた』だけと認識するなんて……。
さすが、冒険者は豪胆ね。と頓珍漢な感心をしながら、初心者魔法使いは自称ベテランパーティを追いかけた。
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