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23、没落令嬢と冒険者パーティ(3)
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洞窟に降りるとすぐに、ふわりと足元が軽くなった。
(速度増加魔法だわ)
リュリディアはすぐに魔法を掛けられたことに気づいたが、詠唱反応は感じなかった。周りを確認しても、パーティメンバーは皆平然としている。
パーティの中で魔法を使えるのは、自己申告を信じるならイニアスとサリーナだけ。どちらかか、あるいは二人がメンバー全員に支援魔法を掛けて回っているのだろう。
(詠唱すら気づかせず、この人数に魔法を掛けるなんて、戦闘職の魔法使いの技術は高いのね)
机の上では学べない実践的な魔法に、心が踊る。
「この洞窟は、どこまで続いてるんだろう?」
「とりあえず行けるところまで進んでみましょうよ」
スティーブとアンの前衛二人が方針を決め、サリーナの出した光灯の明かりを頼りに奥へと進む。
人が三人も横並びになれない狭い道。足元の暗さに、リュリディアはせり出した石筍に何度も躓いてしまう。無理もない、彼女が履いているのはヒールのある履き口の浅いストラップシューズだ。平坦な街歩きには問題ないが、荒れ地でも活動には不向き過ぎる。
こんな場所に入るって判っていたら、丈夫なブーツにしたのに、と密かに後悔する。しかも、服装も踝丈のフレアスカートだ。岩に引っ掛けて破かないようにしないと、と裾を持ち上げ歩いていると、
「来たぞ!」
斥候のニックが鋭い声を上げた。
前方からはゾンビが五体。体をぎくしゃくと左右に揺らし、低く唸りながらこちらへ向かってきていた。腐り方から、比較的新しい死体のようだ。どろりと目玉が飛び出し、吐き気を催す臭気を撒き散らす。
こちらに近づくにつれ、鈍いゾンビの足が更に遅くなる。
(速度減少ね。それに、風盾も発動している)
いつの間にか追加された補助魔法に、リュリディアは感服する。彼女も詠唱の速さには自信があるが、上には上がいるものだ。
すっかり観光客気分で眺めるリュリディアを置いて、冒険者達は動き出す。
「俺達が足止めする。サリーナ、浄化魔法を!」
「はい!」
剣を構えて飛び出すスティーブとアン。ニックは弓矢をつがえ、イニアスは詠唱を始める。彼らに守られるように、巫女のサリーナが浄化魔法の準備に取り掛かる。
「ふん!」
スティーブが剣を振るい、ゾンビが伸ばしてきた手を斬り飛ばす。
「てあぁ!」
負けじとアンも、バスターソードでもう一体のゾンビの頭を叩き潰した。
「火弾!」
ニックがゾンビを射抜く横で、イニアスも火魔法を発動させる。ゾンビは火だるまになるが、動きを止めず人間達へと近づいてくる。火力が弱くて燃えきらないのだ。剣士達が斬ったゾンビも、欠けた部位をそのままに元気に起き上がって生ある者にしがみつく。
仲間達が奮闘している間、サリーナの準備は着実に進んでいた。
地面に聖水を撒き、それを触媒に浄化方陣を創る。
「我が母、我が命なりし水の女神。清き水より来たりて、彷徨える魂に永久の安らぎを!」
祈りの言葉に呼応し、聖水を垂らした地面が輝き出す。
「今です!」
サリーナの合図に、皆が一斉に彼女の傍まで下がった。ゾンビ達は人間を追いかけてきて……、
ギャアアァァァ!!
……自ら浄化方陣の中に足を踏み入れ、聖なる光に灼かれていく。
「やりましたわ……」
ふらつく体を杖で支え、ほっと息をつくサリーナに、スティーブが駆け寄ってきて肩を抱く。
「やったな、サリーナ! 君は最高だ!」
「い、いえ、そんな。皆さんが時間を稼いでくれたお陰ですわ」
巫女は真っ赤になってモジモジする。
「ちょっとー! あたしも誉めてよ!」
そこにアンが乱入し、「ったく、あいつらってば」とニックが首を竦め、盛り上がるタイミングに入れなかったイニアスが一歩離れた場所で愛想笑いしている。
「どうだい、ディアちゃん。これが冒険者の戦い方だよ。勉強になったかい?」
「……ええ」
白い歯を見せて振り返るスティーブに、リュリディアは曖昧に頷きながら……、
(………………おっそっ!!)
心の中でツッコんだ。
ゾンビ五体を相手に何時間掛ける気だ。自分だったら、火炎魔法一発で終わっていたはずだ。しかし、
「いきなりゾンビじゃ初心者には刺激が強すぎたかな?」
「ま、あたし達が守ってあげるから、気楽についてきなよ」
呆れて口数の少ないリュリディアを、アンデッド初遭遇の恐怖で震え上がっていると思ったのか、ニックとアンが慰めてくる。
「はあ、どうも……」
一応、気遣いには感謝する。
「さ、この調子でサクサク行こう!」
意気揚々とスティーブが先陣を切る。
……全然サクサクじゃなかったけど……。
(補助魔法はあんなに速いのに、何故、攻撃魔法は遅いのかしら?)
不可解な思いを抱えつつ、リュリディアは更に奥へと進んでいった。
(速度増加魔法だわ)
リュリディアはすぐに魔法を掛けられたことに気づいたが、詠唱反応は感じなかった。周りを確認しても、パーティメンバーは皆平然としている。
パーティの中で魔法を使えるのは、自己申告を信じるならイニアスとサリーナだけ。どちらかか、あるいは二人がメンバー全員に支援魔法を掛けて回っているのだろう。
(詠唱すら気づかせず、この人数に魔法を掛けるなんて、戦闘職の魔法使いの技術は高いのね)
机の上では学べない実践的な魔法に、心が踊る。
「この洞窟は、どこまで続いてるんだろう?」
「とりあえず行けるところまで進んでみましょうよ」
スティーブとアンの前衛二人が方針を決め、サリーナの出した光灯の明かりを頼りに奥へと進む。
人が三人も横並びになれない狭い道。足元の暗さに、リュリディアはせり出した石筍に何度も躓いてしまう。無理もない、彼女が履いているのはヒールのある履き口の浅いストラップシューズだ。平坦な街歩きには問題ないが、荒れ地でも活動には不向き過ぎる。
こんな場所に入るって判っていたら、丈夫なブーツにしたのに、と密かに後悔する。しかも、服装も踝丈のフレアスカートだ。岩に引っ掛けて破かないようにしないと、と裾を持ち上げ歩いていると、
「来たぞ!」
斥候のニックが鋭い声を上げた。
前方からはゾンビが五体。体をぎくしゃくと左右に揺らし、低く唸りながらこちらへ向かってきていた。腐り方から、比較的新しい死体のようだ。どろりと目玉が飛び出し、吐き気を催す臭気を撒き散らす。
こちらに近づくにつれ、鈍いゾンビの足が更に遅くなる。
(速度減少ね。それに、風盾も発動している)
いつの間にか追加された補助魔法に、リュリディアは感服する。彼女も詠唱の速さには自信があるが、上には上がいるものだ。
すっかり観光客気分で眺めるリュリディアを置いて、冒険者達は動き出す。
「俺達が足止めする。サリーナ、浄化魔法を!」
「はい!」
剣を構えて飛び出すスティーブとアン。ニックは弓矢をつがえ、イニアスは詠唱を始める。彼らに守られるように、巫女のサリーナが浄化魔法の準備に取り掛かる。
「ふん!」
スティーブが剣を振るい、ゾンビが伸ばしてきた手を斬り飛ばす。
「てあぁ!」
負けじとアンも、バスターソードでもう一体のゾンビの頭を叩き潰した。
「火弾!」
ニックがゾンビを射抜く横で、イニアスも火魔法を発動させる。ゾンビは火だるまになるが、動きを止めず人間達へと近づいてくる。火力が弱くて燃えきらないのだ。剣士達が斬ったゾンビも、欠けた部位をそのままに元気に起き上がって生ある者にしがみつく。
仲間達が奮闘している間、サリーナの準備は着実に進んでいた。
地面に聖水を撒き、それを触媒に浄化方陣を創る。
「我が母、我が命なりし水の女神。清き水より来たりて、彷徨える魂に永久の安らぎを!」
祈りの言葉に呼応し、聖水を垂らした地面が輝き出す。
「今です!」
サリーナの合図に、皆が一斉に彼女の傍まで下がった。ゾンビ達は人間を追いかけてきて……、
ギャアアァァァ!!
……自ら浄化方陣の中に足を踏み入れ、聖なる光に灼かれていく。
「やりましたわ……」
ふらつく体を杖で支え、ほっと息をつくサリーナに、スティーブが駆け寄ってきて肩を抱く。
「やったな、サリーナ! 君は最高だ!」
「い、いえ、そんな。皆さんが時間を稼いでくれたお陰ですわ」
巫女は真っ赤になってモジモジする。
「ちょっとー! あたしも誉めてよ!」
そこにアンが乱入し、「ったく、あいつらってば」とニックが首を竦め、盛り上がるタイミングに入れなかったイニアスが一歩離れた場所で愛想笑いしている。
「どうだい、ディアちゃん。これが冒険者の戦い方だよ。勉強になったかい?」
「……ええ」
白い歯を見せて振り返るスティーブに、リュリディアは曖昧に頷きながら……、
(………………おっそっ!!)
心の中でツッコんだ。
ゾンビ五体を相手に何時間掛ける気だ。自分だったら、火炎魔法一発で終わっていたはずだ。しかし、
「いきなりゾンビじゃ初心者には刺激が強すぎたかな?」
「ま、あたし達が守ってあげるから、気楽についてきなよ」
呆れて口数の少ないリュリディアを、アンデッド初遭遇の恐怖で震え上がっていると思ったのか、ニックとアンが慰めてくる。
「はあ、どうも……」
一応、気遣いには感謝する。
「さ、この調子でサクサク行こう!」
意気揚々とスティーブが先陣を切る。
……全然サクサクじゃなかったけど……。
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