交通量調査物語

がしげげ

文字の大きさ
6 / 19

6、監督員の高橋氏

しおりを挟む
たった2時間の勤務を終えただけにも関わらず、しかも座り仕事だったにも関わらず、信じられないぐらいの疲労感だった。

精神的な要因が大きいのだろうが…

なにわともあれ時間は10時5分。
やっとの休憩時間だ。

僕は高橋氏が待機しているであろうハイエースに向かった。

後部座席のドアを開けると、運転席にはやはり高橋氏がいた。

「先程はありがとうございました。」

高橋氏は笑顔で応えてくれた。

「いや、こちらこそありがとうございました。しっかり2時間やり遂げてくれて。」
「中にはいるんですよ。途中で逃げ出す人が…特に初めて調査する初心者の人。」

いや、高橋氏がいなければ僕もそうしてた…
とは言わないでおこう…。

高橋氏が続ける。

「前田さんは学生さんですか?」

「いえ、大学卒業したばかりの就職浪人です。」

「なるほど~…就活中なんですか??」

「一応そうなんですが…  あまり取り組めてません…  お金が無くて何にも出来ない状況だったので、とりあえず動くための資金作りのためにこの調査に応募したんです。」

高橋氏が頷く。

「なるほど~…」





なんとなく会話が途切れ、違和感なく沈黙状態となった。

僕はスマホいじりを初め、高橋氏はラジオの音量を少しだけ上げた。

10時30分。

休憩時間はもう折り返しだ。

高橋氏はカメラを持って車を下りた。
どうやら交差点へと向かったようだ。

僕は引き続きスマホいじり。

ふと交差点に目をやると、高橋氏が東西南北の調査員全員を後方から撮影していた。

ただ写真を撮っているだけなのに、高橋氏のセンスある動きが、僕の興味を引く。

高橋氏は間違いなく「仕事が出来るタイプ」の人だった。

写真を撮り終え、ハイエースに高橋氏が戻ってきた。

「お疲れ様です。」

と僕が言うと、高橋氏も、

「おつかれっす!」

と返してくれた。

「高橋さんてロードリサーチさんに入って長いんですか?」



高橋氏はきょとんとしていた。


「私はロードリサーチの人間じゃないですよ(笑)」
「個人で監督員として雇ってもらってるんです。前田さんと同じ日雇いですよ(笑)」

意外だった。
こんなにも責任感を持って、時給にとらわれない動きをしているのに、日雇いだったとは…

僕はただ集合時間に来て、決められた時間に決められたことをするだけ。

一方で、高橋氏は調査が始まる前から車で僕らを運んでいたし、それ以前に駅まで車で来ることは雇用上どうなってるんだろう。

「監督員、難しそうですね。」

そう聞くと高橋氏が応えた。

「確かにトラブルなんかが起こったら大変ですね。でも、ある程度慣れますよ~。」

もし自分がやるとなって、高橋氏と同じように動けるイメージは沸かなかった。

「前田さん、もし、しばらくお金を稼ぐ必要があるならその間だけ私のチームに入りませんか?」

「チーム?」

高橋氏が応える。

「チームっていってもそんな難しいもんじゃなくて、今日みたいな調査の仕事がある時に声をかけさせてもらうだけですよ(笑)」

高橋氏が続ける。

「声かけた時には極力調査に参加してくれたらいいです。無理な時は無理でいいし。私も召集できる仲間が多いほど助かるんで…」

就職が決まるまでの前提で、しかも高橋氏のチームなら悪くない気がした。

ただやはり、先程の経験を思い出すと、自分が交通量調査を続けていけるかどうか自信が持てなくなる。

自分は「周りの目に耐える」が出来るのだろうか。

「少しだけ、考えさせてください。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて  

設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。 ◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。   ご了承ください。 斉藤准一 税理士事務所勤務35才 斎藤紀子    娘 7才  毒妻:  斉藤淳子  専業主婦   33才 金遣いが荒い 高橋砂央里  会社員    27才    山本隆行  オートバックス社員 25才    西野秀行   薬剤師   22才  岡田とま子  主婦    54才   深田睦子  見合い相手  22才 ――――――――――――――――――――――― ❧イラストはAI生成画像自作 2025.3.3 再☑済み😇

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

マッチ率100%の二人だが、君は彼女で私は彼だった

naomikoryo
恋愛
【♪♪♪第19回恋愛小説大賞 参加作品♪♪♪ 本編開始しました!!】【♪♪ 毎日、朝5時・昼12時・夕17時 更新予定 ♪♪ 応援、投票よろしくお願いします(^^) ♪♪】 出会いサイトで“理想の異性”を演じた二人。 マッチ率100%の会話は、マッチアプリだけで一か月続いていく。 会ったことも、声を聞いたこともないのに、心だけが先に近づいてしまった。 ――でも、君は彼女で、私は彼だった。 嘘から始まったのに、気持ちだけは嘘じゃなかった。 百貨店の喧騒と休憩室の静けさの中で、すれ違いはやがて現実になる。 “会う”じゃなく、“見つける”恋の行方を、あなたも覗いてみませんか。

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...