コンビニ前でサンタが泣いていた

猫丸

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26.実家での療養

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―――― この光景見たことある…。

 聖人は思った。白い天井に、吊り下げられた点滴。

―――― また倒れたのか…。

 身体こそ細いものの、今までそれほど大きな病気もなく、健康体のつもりだった聖人だったが、さすがに自分の身体が心配になってきた。
 このまま精密検査してもらったほうが良いかもしれない。体調不良という理由が言霊ことだまとなって不調をきたしているのかもしれない。

 腰のあたりに重みを感じて見ると、新太が聖人の手を握りながら椅子に座ったまま寝ていた。
 そっと手を引き抜こうとすると、新太が無意識でぎゅっと握り返して、目を覚ました。

「聖人さんっ!!気が付きましたか?」

「あぁ…何度もごめん」

「細かな精密検査はしたほうがいいけど、多分、過労と心労じゃないかって、先生が。……俺のせいですみません…」

「あぁ、いや、病院へは君が?気付いてくれてありがとう」

 話の後、鍵を締めたところまでの記憶しかない。すでに合鍵は返されているし、どうして気づいたんだろう?

「その…あの後、実はしばらく聖人さんの部屋の前にいて…すみません……聖人さんのスマホに課長から着信があったんですけど、でも聖人さん電話でなくて…そしたら、課長、俺に電話かけきて…」

「…なんで来栖くんに?」

「退職が休職に変更になった件で俺の名前を聞いたらしくて…俺から聖人さんに説明してほしいって」

「あぁ…」

「遅い時間とはいえ、9時前で課長の電話にもでないなんて、なんかおかしいって思って…顔色もすごく悪かったし…それで…」

「そうか…でもまぁ、結果的に助けられたよ。ありがとう」

 聖人はそのまま2日間検査入院となった。
 結局まともな挨拶もできないまま、有給消化期間へと入り、そのままアパートを引き払った。
 一人暮らしのマンションに恋人の連れ込み、最後は救急車沙汰。
 やはり他の部屋からも苦情が出ていたのか、鍵を返却する時に、マンション管理の担当者に嫌味を言われて、恥ずかしくて申し訳ない気持ちになった。


 *


「あんた、2回も倒れるなんてホント大丈夫!?しかも、そんなに痩せてっ!!」

 実家のリビング。母親と姉とテーブルを囲みながらのおしゃべり。
 父親は仕事に行っていて、実家近くに嫁いでいる姉は、子供が小学校へ行っている時間を狙って様子を見に帰って来ていた。

「んー、検査してもらったけど過労だって言われたから、ちょっと休めば大丈夫じゃないかな?あ、りんご食べるよ?」
 
 母の返事も待たず、剥かれたばかりのりんごを口に放り込む。

「てか、アンタ痩せすぎっ!!腕なんて私より細いじゃない!?」

 お茶を入れてくれている姉が隣で騒いでいる。

「いや、姉ちゃんはたくましすぎだから!!」

「うっさい!アンタが帰ってくるって言うから、稲刈り手伝わせようと思ってたのに、アンタ稲刈り終わったタイミング狙ったでしょ!!大志にだって、毎回手伝わせているのに!!」

 大志というのは、姉の旦那さんの名前だ。

「いや、偶然だってば。しかも病人にそんなこという!?」

「アンタ、『ちょっと休めば大丈夫』ってさっき言ったじゃない!!」

 悪気はないのだろうが、姉の口調はキツイ。昔から姉には口喧嘩で勝ったことがなかったが、でもこの遠慮のなさが今の聖人には居心地が良くて自然と笑顔になる。
 ずっと感じていた頭痛も実家に帰ってきて少し収まった気がした。

「いや、言ったけどさぁ?それとこれとは…」

「まぁまぁ、稲刈りは終わっちゃったけど、アンタ、どーせ暇なんでしょ?畑仕事とか家のこと、ちゃんと手伝いなさいよ?」

 聖人の実家は、もともとは農家で、米とりんごなどの果物と野菜を作っている。
 とはいっても、米はほとんど自家用だし、りんごや野菜も農協や直売所に少しだけ売って母の小遣い稼ぎをしている程度。それほど収入も多いわけではないので、父親は会社員として働き、母が畑仕事をしている。姉も子育てをしながら週3程度パートで働いていて、今日はシフトの入っていない日なんだそうだ。


 *


「てかさ、姉ちゃん、実家に入り浸りすぎじゃない?」

 実家で数日過ごして気づいたが、姉は仕事終わりに、姉の子供も学校帰りに実家にやってくる。始めは久しぶりに帰ってきた弟の体調を気遣っているのかと思ったら、どうやらそうでもないらしい。
 7時過ぎくらいには姉の夫、大志さんまでやってきて、皆で食卓を囲みながら、ご飯を食べていた。
 大志さんの帰りが遅いときには、夕食をタッパーに詰めて帰っている。

「聖人くん、せっかくの実家なのにごめんね」

 建築関係の仕事をしている義兄は、日に焼けてがっしりしている身体を丸め、箸を止めて、すまなそうに聖人に謝った。高校時代から姉と付き合っている義兄は、どこか春永の雰囲気と似ていて懐かしい感じがした。
 この身体が大きい人が好きなのは姉弟で似ているな、なんてふと思った。
 もちろん、もともと姉の恋人だった相手だから、恋愛対象として見たことはなかったが。

「あ、いえ。すみません。そんな意味じゃなくて、大志さん、こんなにしょっちゅううちの実家に来てたら気疲れしません?」

「いや、僕のほうがお義父さん、お義母さんにすごく良くしてもらっていて、逆に申し訳ないくらいだよ」

「そうよ、アンタ長男なのに全然アテにならないし!大志のほうがよっぽどうちのことわかってるわよ」

「そうねぇ、聖人は昔から勉強はできたんだけど、あまり畑仕事とか手伝ってくれなくて…」

「ご、ごちそうさま」

 形勢が悪くなってきたので、慌てて席を立つ。
 働いていた時の貯金があるから、しばらくお金には困らないが、もう少し落ち着いたら仕事を探して、家も出ていったほうが良さそうだ。
 仕事が決まれば、退職届も受理されるだろう。

 少し前まで、倒れる程の心労が溜まっていたなんて嘘のようだ。
 数日しか経っていないのにあの日々が夢だったような、電車で2時間程度しか離れていないのにすごく遠くまで来たような気がした。
 全く違う環境の中でも、ふとした時に思い出し、胸がつきんと痛む愛おしい元恋人。

 結局あの後、ずっと謝り続け「今度こそ大事にする」と縋る新太に別れを告げてきた。
 お互いの誤解だったのなら、ヨリを戻しても良いような気もしたが、なんとなく距離を置いて冷静に考えたかったのだ。
 まだまだ恋しくて涙が出てくることもあるが、東京にいたときよりずっとマシになった。
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