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第三章 番外編~片恋~ 義成
3.過去との再会
時間の経過は俺に味方した。
高校を卒業して、俺は板前になるために都会へ出たし、章介は大学へと進学した。
今住んでいる住所を知らなければ、実家を経由するしか連絡を取る手段もなかった。
俺は住み込みで、朝から晩まで忙しく働いていて、あっという間に数年の月日が経った。
少し余裕が出てきた頃、上司の紹介で妻と出会い、とんとん拍子に結婚が決まった。
章介が小説家としてデビューしたことを知ったのは、そんな結婚報告のため、久しぶりに帰省した時だ。
親父が度々家に遊びに来ていた章介のことを覚えていて、近所の人から聞いた世間話として話してくれた。
久しぶりにその名を聞いて、ふと章介の実家に、言伝てでもしてもらおうかと思った。だが、『有名人になったから近づいてきた過去の友人』というのも格好が悪いと思ってやめた。
きっと向こうももう俺のことなど忘れているだろう。
それでも俺は、駅前の本屋で平積みになっている章介の本を買って、帰りの電車の中で読んだ。
「なるほど、あいつは輝かしい人生を送っているのだな」と、俺の部屋でよく本を読んでいた章介を思い出し、少しノスタルジーな気分に浸った。
元々住む世界が違う。昔のあの時が、例外だったのだ。
俺は二度と交わることのないであろう相手への、淡い恋心を思い出し、心の中で章介の幸せを願った。
*
結婚してしばらくして、俺は妻の実家近くに自分の店を構えた。
そしてすぐに大成も生まれた。
妻との関係は、章介の時に感じたような激しい恋愛感情とは違い、穏やかなものだった。
相変わらず、俺の中には男女の恋愛に対する違和感はあるものの、家族となってしまえば割り切れる。
俺は妻の親から借りた開業資金を返すために一生懸命働いて、そんな俺を妻は献身的に支えてくれた。
すべては順調だった。俺は、学生時代の苦悩を思い返すたびに、世間一般でいう幸せな家庭を築いた自分に「これでよかったのだ」と言い聞かせた。
そんな日々の中、俺の人生に再び章介が現れたのは本当に突然だった。
いつものように店を開けて、いつものように料理を作る。
扉が開いたので「いらっしゃい」と顔を上げて挨拶をしようとして、俺の動きは止まった。
「……しょう、すけ……?」
「良かった、俺のこと覚えてた? 気づかれなかったらどうしようかと思った」
章介は変わらぬ笑顔で笑った。
学生時代と比べ、見た目に少し年相応の落ち着きが出ていたが、章介は俺が恋していた時のままだった。
瓶ビールを手酌で注ぎ、嚥下するその喉元には、かつてより喉仏がくっきりとしている。俺は学生時代を思い出して、血がざわついた。
聞けば、帰省した際に、同級生から俺の店のことを聞いて、顔を出してくれたらしい。
そこで俺達は互いに近況報告をした。
そして、それ以来章介はちょこちょこ店に顔を出してくれるようになり、俺達はまた親友に戻った。
高校を卒業して、俺は板前になるために都会へ出たし、章介は大学へと進学した。
今住んでいる住所を知らなければ、実家を経由するしか連絡を取る手段もなかった。
俺は住み込みで、朝から晩まで忙しく働いていて、あっという間に数年の月日が経った。
少し余裕が出てきた頃、上司の紹介で妻と出会い、とんとん拍子に結婚が決まった。
章介が小説家としてデビューしたことを知ったのは、そんな結婚報告のため、久しぶりに帰省した時だ。
親父が度々家に遊びに来ていた章介のことを覚えていて、近所の人から聞いた世間話として話してくれた。
久しぶりにその名を聞いて、ふと章介の実家に、言伝てでもしてもらおうかと思った。だが、『有名人になったから近づいてきた過去の友人』というのも格好が悪いと思ってやめた。
きっと向こうももう俺のことなど忘れているだろう。
それでも俺は、駅前の本屋で平積みになっている章介の本を買って、帰りの電車の中で読んだ。
「なるほど、あいつは輝かしい人生を送っているのだな」と、俺の部屋でよく本を読んでいた章介を思い出し、少しノスタルジーな気分に浸った。
元々住む世界が違う。昔のあの時が、例外だったのだ。
俺は二度と交わることのないであろう相手への、淡い恋心を思い出し、心の中で章介の幸せを願った。
*
結婚してしばらくして、俺は妻の実家近くに自分の店を構えた。
そしてすぐに大成も生まれた。
妻との関係は、章介の時に感じたような激しい恋愛感情とは違い、穏やかなものだった。
相変わらず、俺の中には男女の恋愛に対する違和感はあるものの、家族となってしまえば割り切れる。
俺は妻の親から借りた開業資金を返すために一生懸命働いて、そんな俺を妻は献身的に支えてくれた。
すべては順調だった。俺は、学生時代の苦悩を思い返すたびに、世間一般でいう幸せな家庭を築いた自分に「これでよかったのだ」と言い聞かせた。
そんな日々の中、俺の人生に再び章介が現れたのは本当に突然だった。
いつものように店を開けて、いつものように料理を作る。
扉が開いたので「いらっしゃい」と顔を上げて挨拶をしようとして、俺の動きは止まった。
「……しょう、すけ……?」
「良かった、俺のこと覚えてた? 気づかれなかったらどうしようかと思った」
章介は変わらぬ笑顔で笑った。
学生時代と比べ、見た目に少し年相応の落ち着きが出ていたが、章介は俺が恋していた時のままだった。
瓶ビールを手酌で注ぎ、嚥下するその喉元には、かつてより喉仏がくっきりとしている。俺は学生時代を思い出して、血がざわついた。
聞けば、帰省した際に、同級生から俺の店のことを聞いて、顔を出してくれたらしい。
そこで俺達は互いに近況報告をした。
そして、それ以来章介はちょこちょこ店に顔を出してくれるようになり、俺達はまた親友に戻った。
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