屑の男

猫丸

文字の大きさ
22 / 39
第三章 番外編~片恋~ 義成

6.親友の失踪

しおりを挟む
 章介の失踪を知ったのは、それから少し経ってだった。
 初世さんと、章介の担当編集者だという小館が俺に相談に来たのだ。
 失踪からもう二ヶ月も経っていると知って驚いた。
 あの時、俺はあいつの行動の理由や、あいつが抱えている問題について、踏み込んで聞くべきだったのだろうか?
 あの時の俺は、自分の思いを侮辱されたと思い込んでただ混乱していた。
 殴った事は後悔していない。
 だが心配なのは間違いなかった。
 初世さんから逃げて、俺からも逃げて、あいつは一体何をしているのだろう?

 そんな不安は顔にも出ていたのだろう。
 女給で週に一度来てくれている富栄が「大将、えらく思い詰めた顔してますけど、何かあったんですか?」と聞いてきた。
 富栄は、亡くなった妻の両親から紹介された娘だった。男を追いかけて上京してきたけれど、その男と別れて親戚である義父母を頼ってきたらしい。
 頼まれて雇ったが、本人はどうやらもっと稼げる水商売の方に興味があるらしく、最近ではそちらのシフトを多く入れていて、こちらはたまにしか来ない。

 俺は話そうか躊躇って、そういえば富栄は章介の顔を知っているのだと思い出した。
 それに夜の店で噂を聞いたりはしていないだろうか? と、半ば藁にも縋る思いで章介が失踪したことを話した。

 すると富栄はあっけらかんとした口調で言った。
「あらやだわ。章介さんはうちでゴロゴロしてますよ?」
 言っている意味がわからなかったが、章介が富栄の家で厄介になっていることだけはわかった。
 
 俺はすぐに初世に連絡をした。
 なぜかそこには小館もいた。二人で章介を探していたのだろうか。
 俺達は章介を迎えに富栄の家に行った。
 
「私の何がいけなかったの……」と道中泣く初世。
 その初世に富栄は「悪いも何も、章介さんはああいう方ですもの」と冷たく言い放った。その言葉に傷つき、倒れそうになる初世を支える小館。

 俺はそのやりとりを見ながら、「章介や皆が落ち着くまで俺が預かる」という提案をした。
 俺にはわかった。
 章介は初世さんからも逃げたのだ。
 二人の間に何があったかはわからない。
 それが俺に対してのあの日の行動に結びつくのかもわからない。
 だが、章介は学生時代のように、女へ、富栄へ逃げたことだけはわかった。
 今のままではまた同じことを繰り返すだろう。
 それは章介に対する怒りや不信感や軽蔑の感情。そういったものをすべてを押し殺した『友』としての態度だった。
 
 どこまで章介に甘いのだ、と我ながら呆れるが、これで最後だという覚悟もあった。
 これで章介が変わらないのなら、好きだとか嫌いだとか恋愛感情以前に、俺達の友情ももう終わりだ。
 それに、時間が経過して、俺の中にも章介がなぜ俺に対してあんなことをしたのか知りたい気持ちも湧いてきていた。
 同性愛を軽蔑しているわけではないのなら、どうしてあんなことを?
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...