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第三章 番外編~片恋~ 義成
8.裏切りとは
章介はずるいな、と思う。
一緒にいてイライラすることも多いし、こんなダメ男、いつでも縁を切っても良いと思うのだが、それができない。
俺がいなくなったらこいつは駄目になるとか、そんな庇護欲を掻き立てられているのかもしれない。
富栄と別れた後、卑屈になっていた章介の心は、少しずつ元気になってきているのがわかった。
それはそれで、俺たちが友達に戻っているということでもあるから、今更あの晩の理由を聞きずらくもなっていた。
「酔っていた」「記憶にない」などと一言で片づけられてしまえば、俺の怒りは多分収められなくなる。
本当に俺は臆病だと思う。
女性相手ならこんなに意気地なしなこともなかっただろう。
だが相手が章介となると、途端に安全な距離を取る癖がついている。
「では、ご焼香を……」
お坊さんの声に、俺ははっとなった。
妻の七回忌だというのに、章介へのことばかり考えていたことを反省した。
もうあれから6年たつのだな、と少し寂しい気持ちになった。
妻とは激しい恋愛感情じゃなかったが、本当に良いパートナーだったのだ。
妻の七回忌の法要が終わって、大成は祖父母に甘えていた。
義両親も、娘が亡くなった悲しみを、孫をかわいがることで慰めている節もあって、俺と義両親との関係は良好だ。
大成はそのまま義両親の家に泊まるというので、俺は一人で家に帰った。
家には章介が一人でいるはずだ。
今日こそあの時の理由……いや、そうでなくても構わない。章介の気持ちを、何があったのかを知りたい。
店の裏口のドアノブに手を掛けると、鍵が開いていた。
だが室内は暗い。
章介が鍵をかけ忘れて出ていったのだろうか、と首をかしげると、奥からすすり泣く声が聞こえて俺は戸惑った。
「章介? そこにいるのか?」
章介は俺の姿を認めるなり、抱きついてきて、わんわん泣いた。
やはり、ずるいと思う。
散々人を突き放して、振り回す癖に、こういう時に信用を寄せてくる。
俺は章介の背中をぽんぽんと叩いた。
だがその手も止まった。
章介が「お前は人を裏切ったことはあるか? お前に限ってそんなことはないよな?」と聞いてきたからだ。
裏切り? どういう意味だ?
自分は勝手な事ばかりをしてるくせに、俺には距離を保てという意味だろうか。
そうやって、俺がお前を裏切らないように牽制しているのか?
泣きながら縋るように俺を見る、その表情にも腹が立った。
「裏切り? ……あるよ」
章介は俺から距離を取り、泣いた。
その被害者然とした態度を見て、俺の怒りも頂点に達していく。
――散々人を裏切ってきたお前が、今更被害者面するな。
どうやらそれは声に出ていたらしい。
章介は一瞬泣き止んでこちらをみた。
そして俺に尋ねた。
初世さんの不倫を知っていたのか、と……。
俺は虚を突かれて、固まった。
章介を愛していることが全身からあふれ出ている初世さんが浮気だと? なにか間違いじゃないだろうか。
だが、そういえば……という心当たりもあった。
小舘の存在だ。小舘は初世さんに好意を持っている。
俺は章介の話を黙って聞いた。
確かに信じていた妻の不倫はショックだったことだろう。
だが、初世さんを責め、時折自分を庇うような発言が出てくることに、俺は少し腹立たしく思った。
「お前だって富栄ちゃんに逃げただろう?」
そう指摘をすれば、章介はしどろもどろになって言い訳をした。
今までの俺だったら、友として、多少章介を諌めつつも、望む言葉を言ってあげることができただろう。
だが、俺は初世にも富栄にも同情した。
そして、こんな男に惚れている自分もかわいそうで、そして心底腹が立った。
一緒にいてイライラすることも多いし、こんなダメ男、いつでも縁を切っても良いと思うのだが、それができない。
俺がいなくなったらこいつは駄目になるとか、そんな庇護欲を掻き立てられているのかもしれない。
富栄と別れた後、卑屈になっていた章介の心は、少しずつ元気になってきているのがわかった。
それはそれで、俺たちが友達に戻っているということでもあるから、今更あの晩の理由を聞きずらくもなっていた。
「酔っていた」「記憶にない」などと一言で片づけられてしまえば、俺の怒りは多分収められなくなる。
本当に俺は臆病だと思う。
女性相手ならこんなに意気地なしなこともなかっただろう。
だが相手が章介となると、途端に安全な距離を取る癖がついている。
「では、ご焼香を……」
お坊さんの声に、俺ははっとなった。
妻の七回忌だというのに、章介へのことばかり考えていたことを反省した。
もうあれから6年たつのだな、と少し寂しい気持ちになった。
妻とは激しい恋愛感情じゃなかったが、本当に良いパートナーだったのだ。
妻の七回忌の法要が終わって、大成は祖父母に甘えていた。
義両親も、娘が亡くなった悲しみを、孫をかわいがることで慰めている節もあって、俺と義両親との関係は良好だ。
大成はそのまま義両親の家に泊まるというので、俺は一人で家に帰った。
家には章介が一人でいるはずだ。
今日こそあの時の理由……いや、そうでなくても構わない。章介の気持ちを、何があったのかを知りたい。
店の裏口のドアノブに手を掛けると、鍵が開いていた。
だが室内は暗い。
章介が鍵をかけ忘れて出ていったのだろうか、と首をかしげると、奥からすすり泣く声が聞こえて俺は戸惑った。
「章介? そこにいるのか?」
章介は俺の姿を認めるなり、抱きついてきて、わんわん泣いた。
やはり、ずるいと思う。
散々人を突き放して、振り回す癖に、こういう時に信用を寄せてくる。
俺は章介の背中をぽんぽんと叩いた。
だがその手も止まった。
章介が「お前は人を裏切ったことはあるか? お前に限ってそんなことはないよな?」と聞いてきたからだ。
裏切り? どういう意味だ?
自分は勝手な事ばかりをしてるくせに、俺には距離を保てという意味だろうか。
そうやって、俺がお前を裏切らないように牽制しているのか?
泣きながら縋るように俺を見る、その表情にも腹が立った。
「裏切り? ……あるよ」
章介は俺から距離を取り、泣いた。
その被害者然とした態度を見て、俺の怒りも頂点に達していく。
――散々人を裏切ってきたお前が、今更被害者面するな。
どうやらそれは声に出ていたらしい。
章介は一瞬泣き止んでこちらをみた。
そして俺に尋ねた。
初世さんの不倫を知っていたのか、と……。
俺は虚を突かれて、固まった。
章介を愛していることが全身からあふれ出ている初世さんが浮気だと? なにか間違いじゃないだろうか。
だが、そういえば……という心当たりもあった。
小舘の存在だ。小舘は初世さんに好意を持っている。
俺は章介の話を黙って聞いた。
確かに信じていた妻の不倫はショックだったことだろう。
だが、初世さんを責め、時折自分を庇うような発言が出てくることに、俺は少し腹立たしく思った。
「お前だって富栄ちゃんに逃げただろう?」
そう指摘をすれば、章介はしどろもどろになって言い訳をした。
今までの俺だったら、友として、多少章介を諌めつつも、望む言葉を言ってあげることができただろう。
だが、俺は初世にも富栄にも同情した。
そして、こんな男に惚れている自分もかわいそうで、そして心底腹が立った。
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