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第三章 番外編~片恋~ 義成
9.お前が言うのか?
「章介、お前の望んでいる言葉はわかっている」
章介は顔を上げた。
俺は冷たく言った。
「だが、お前はそれでは何も変わらない。……お前は、鈍いふりをして自分に好意を持つ人間の限界を試しているんだろ?」
一度言葉に出してしまえば、好きだという感情よりも、積み重なった章介に対する不信感が湧き上がってきた。
俺の様子がいつもと違うことに章介は戸惑っていたが、俺は追い打ちをかけた。
こいつは俺の好意に気づいていたに違いない。
「……だからあんなことをしたんだろう?」
章介の顔からさっと血が引いたのがわかった。
――やはり、だ。
何か言い返さなくては、と必死に思考しているのも手に取るようにわかる。
「お前は昔から人の好意に付け込むのが上手かった」
昔からそうやって散々、女に慰めてもらっていたじゃないか。
「そのきれいな顔が、女達の庇護欲を掻き立てるんだろうなぁ。……あぁ、それは女とは限らないか」
もう隠すつもりもない。
口に出してみるとますます自分が滑稽に思えてきた。
馬鹿馬鹿しい。この男は俺に何も与えないくせに、俺ばかりが尽くしてきた。
ただ『友達』という肩書きの為だけに。
「ぜ、全部俺が悪いのか?」
章介が反論した。
「はっ!? 違うのか? お前が俺にしたことを思い出せ。俺が必死に世間に隠し続けてきた、このおぞましい本性を、お前が引きずり出したんだろ? 俺はずっとお前のそばにいられればいいと思っていただけなんだ。俺がお前に何かを求めたことがあったか? そんなお前が、俺や周りに裏切りを問うのか?」
もう、止められなかった。
自分が惨めでどうしようもない。
あんな良き妻がいたというのに、心ではこんな男をずっと想っていた過去の自分がおぞましい。
亡くなった妻にも、愛する我が子にも、世間に対してもひどい裏切りだ。
俺はなんて無力で愚かな存在なのだろうと思う。
はじめてこの世から消えてしまいたいとさえ思った。
「……出ていってくれ」
絞り出すように言った。一人になりたかった。
――お前さえいなければ、俺は『普通』でいられる。
自分の感情に蓋をして、妻に先立たれたかわいそうな寡夫として、それなりの人生を送ってゆけるのだ。
目を閉じて、縋りつく章介を視界から消した。
できることなら今すぐ耳を塞いで、章介の謝罪の言葉も聞きたくなかった。
――もっと早くこうしておくべきだったんだ。もしかしたら章介にとって俺は、ただ都合の良い存在なだけで、友達とすら思っていないのかもしれない。
自己嫌悪が進めば、相手に対する不信感も湯水のごとく湧き上がってくる。
俺はゆっくりと目を開けて、泣きながら謝る章介を見つめた。
縋りつくこの体温も、以前だったら嬉しかっただろうに、今ではただ虚しいだけだった。
「お前が、男を知っているだなんて知らなければ、俺はずっと耐えられたのに……」
同性であることを言い訳に、友でいられた。
「違う! 違う!」
章介はそう泣き叫んで、そして初めて自らの体験を告白した。
章介は顔を上げた。
俺は冷たく言った。
「だが、お前はそれでは何も変わらない。……お前は、鈍いふりをして自分に好意を持つ人間の限界を試しているんだろ?」
一度言葉に出してしまえば、好きだという感情よりも、積み重なった章介に対する不信感が湧き上がってきた。
俺の様子がいつもと違うことに章介は戸惑っていたが、俺は追い打ちをかけた。
こいつは俺の好意に気づいていたに違いない。
「……だからあんなことをしたんだろう?」
章介の顔からさっと血が引いたのがわかった。
――やはり、だ。
何か言い返さなくては、と必死に思考しているのも手に取るようにわかる。
「お前は昔から人の好意に付け込むのが上手かった」
昔からそうやって散々、女に慰めてもらっていたじゃないか。
「そのきれいな顔が、女達の庇護欲を掻き立てるんだろうなぁ。……あぁ、それは女とは限らないか」
もう隠すつもりもない。
口に出してみるとますます自分が滑稽に思えてきた。
馬鹿馬鹿しい。この男は俺に何も与えないくせに、俺ばかりが尽くしてきた。
ただ『友達』という肩書きの為だけに。
「ぜ、全部俺が悪いのか?」
章介が反論した。
「はっ!? 違うのか? お前が俺にしたことを思い出せ。俺が必死に世間に隠し続けてきた、このおぞましい本性を、お前が引きずり出したんだろ? 俺はずっとお前のそばにいられればいいと思っていただけなんだ。俺がお前に何かを求めたことがあったか? そんなお前が、俺や周りに裏切りを問うのか?」
もう、止められなかった。
自分が惨めでどうしようもない。
あんな良き妻がいたというのに、心ではこんな男をずっと想っていた過去の自分がおぞましい。
亡くなった妻にも、愛する我が子にも、世間に対してもひどい裏切りだ。
俺はなんて無力で愚かな存在なのだろうと思う。
はじめてこの世から消えてしまいたいとさえ思った。
「……出ていってくれ」
絞り出すように言った。一人になりたかった。
――お前さえいなければ、俺は『普通』でいられる。
自分の感情に蓋をして、妻に先立たれたかわいそうな寡夫として、それなりの人生を送ってゆけるのだ。
目を閉じて、縋りつく章介を視界から消した。
できることなら今すぐ耳を塞いで、章介の謝罪の言葉も聞きたくなかった。
――もっと早くこうしておくべきだったんだ。もしかしたら章介にとって俺は、ただ都合の良い存在なだけで、友達とすら思っていないのかもしれない。
自己嫌悪が進めば、相手に対する不信感も湯水のごとく湧き上がってくる。
俺はゆっくりと目を開けて、泣きながら謝る章介を見つめた。
縋りつくこの体温も、以前だったら嬉しかっただろうに、今ではただ虚しいだけだった。
「お前が、男を知っているだなんて知らなければ、俺はずっと耐えられたのに……」
同性であることを言い訳に、友でいられた。
「違う! 違う!」
章介はそう泣き叫んで、そして初めて自らの体験を告白した。
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