屑の男

猫丸

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第四章 終章~贖罪~ 章介

6.謝罪

 翌日俺は、初世の実家へ向かった。
 初世の実家は、俺の実家から電車と徒歩で30分程度の隣の市にある。
 もう何年も顔を出していない婿が、離婚の話をしに来るなど言語道断。
 断頭台に自ら上っていくような心境で、足取りも重い。
 初世の実家の塀が見えた時には、吐き気を催すほどだった。

 門を抜けると、なんだか屋敷内は妙に騒がしかった。
 義父とどこかで聞いたことのあるような声の男性が話し合っているのが聞こえた。
 取り込み中のところに訪れて申し訳ないという気持ちも湧いてきたが、今更引き返すわけにもいかない。
 俺は勇気を出して声を掛けた。
「ごめんください」
 恐怖で腹に力が入らない。
 何度か声をかけて、ようやく義母が奥から顔を出した。
 俺の顔を見るなり、はらはらと泣き始め、手をついて俺に謝る義母。
 それに気づいた他の者達も、どやどやと玄関に隣接する客間に顔を出した。
 なぜか義父も俺の顔を見るなり「章介君! この度はうちの娘が本当に申し訳なかった!」と義母と同じように手をついて謝ってきた。
 そしてその後ろから現れた俺の親父。

 義両親の行動に対する疑問よりも、実の父に対する恐怖の方が先に立った。
 そしてその直後、俺の頬に強い衝撃が与えられ、俺は玄関扉にぶつかりながら、玄関前の庭に吹き飛んだ。
 靴下のまま玄関に降りてきた父親が、うずくまる俺の襟元を掴み、また俺の頬を数発殴った。
「この甲斐性なしが! 嫁の実家に金の無心をし続けた上に、最後は寝取られるなど、男として恥ずかしくないのか!」
 鼻からはだらりと血が流れ、口の中は鉄の味がした。
 遅れて出てきた母と、義両親が親父を止めた。

 親父の暴力から解放された俺は、地べたに手をつき、両方の親の前で謝罪した。
「この度は、大変申し訳ありませんでした。初世さんと離婚させてください……」
 鼻から流れている血が、落ちて地面に吸い込まれていく。
 呼吸がままならなくて、飲み込めば、どろりとした鉄の味のする液体が臓器に流れ込んだ。
 だがそんなことも気にならないくらい、俺の鼓動はどくどくと脈打っていて、彼らからの処分を待っていた。
 なぜ、義両親があんな態度だったのか、なぜここに俺の両親がいたのか、俺はそんなことを考える思考も手放していた。
 ただ地面を見ながら、ここにはいない義成のことで頭の中がいっぱいだった。
 
 ――いつかみんなに赦される日が来たら、一度くらい会いに行ってもいいだろうか。
 義成に会いたい。大成に会いたい。二人の笑顔がまた見たい。
 
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