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第四章 終章~贖罪~ 章介
8.托生
「いや、やめとくよ……」
俺は力なく言った。
富栄は驚いたのか一瞬目を見開いたが、すぐににっこりと笑みを浮かべて言った。
「うふふ、辛気臭い男は嫌いよ」
「あっ、ちょっ……!」
富栄は俺の額の傷に、赤チン液のついたコットンをぐりぐりと押し付けてきた。
赤チンの液は強力な殺菌作用を持ち、傷口に染みるのだが、そんな痛みよりも今は色がつくことの方が困る。
富栄の誘いを断った今、俺に行くところなどないのだ。
おでこに赤チンを塗った状態で、街をさまよえというのか。
俺は慌てて洗面台で赤チンを流した。
だが一度染み付いてしまった色はなかなか落ちない。
そんな困っている俺をみて、隣で富栄がますますケラケラと笑っている。
「章介!」
その時、扉がばんっと開いて、俺の名を呼ぶ聞きなれた声が聞こえた。
俺はずぶ濡れのまま、顔を上げた。
「……よし、なり……? なん、で……」
義成は一目散に駆けてくると、強く俺を抱きしめた。
「どこにいってたんだ!? すごく心配したんだぞ!」
どういう意味だ。
だって昨日の夜、お前は俺を捨てたんじゃないか。
義成の行動の意味が分からず、富栄に視線をやると、富栄はあきれたように言った。
「なにか誤解があるんじゃない? ちゃんと話し合ったら?」
義成は、富栄にお礼を言って店を後にした。
俺だけ事情が呑み込めないままだった。
義成に連れられ、帰りがけに富栄の方を振り返ると、富栄は自分のおでこをぽんぽんと指差しながら、「こんな良い女を振った罰よ」と言って笑った。
俺は思わず自分の額に触れた。
「章介、今回、俺は何度もお前をあきらめようと思った。だが世間からどんなに後ろ指をさされようと、お前と離れる気はない……。ごめん、だからお前の子であろうが、そうでなかろうが、俺から逃げるのを諦めてほしい……」
家に帰る途中、一歩先を歩く義成は振り返らずに言った。
その声には義成の苦悩が含まれていた。
義成を苦しめているのは自分だ。
だがそんな義成の苦しみに、喜びを感じてしまう自分もいた。
「義成……。いい、のか……?」
それは、贖罪を続ける俺の隣を、共に歩んでくれるという意味ととらえてよいのだろうか?
俺は立ち止まって、義成の背中を見ながら問いかけた。
義成も立ち止まって振り返る。
「世界を敵に回しても、俺はお前を手に入れたい。もちろん生まれてくる子に罪はないから、できる限りのことは俺も協力させてもらう」
今度は目を見てはっきりと義成は言った。
「おれ、も……赦されるなら、お前と一緒にいたい……」
ぽろぽろと両方の目から涙が零れ落ちる。
俺達はどちらともなく一歩ずつ近づいて、抱きしめ合った。
溶け合う体温が暖かい。
義成の優しい瞳と視線が交差して、俺はそっと目を閉じた。
唇に肉厚で柔らかいものが触れる。
俺はその優しさを唇で食み味わった。
口内に、舌が進入してきて、俺を求めている。
俺もそれに応えるように舌を絡めた。
義成、俺はお前がいればそれだけで幸せだ。
なぁ、義成。俺は幸せになってよいのか?
俺は力なく言った。
富栄は驚いたのか一瞬目を見開いたが、すぐににっこりと笑みを浮かべて言った。
「うふふ、辛気臭い男は嫌いよ」
「あっ、ちょっ……!」
富栄は俺の額の傷に、赤チン液のついたコットンをぐりぐりと押し付けてきた。
赤チンの液は強力な殺菌作用を持ち、傷口に染みるのだが、そんな痛みよりも今は色がつくことの方が困る。
富栄の誘いを断った今、俺に行くところなどないのだ。
おでこに赤チンを塗った状態で、街をさまよえというのか。
俺は慌てて洗面台で赤チンを流した。
だが一度染み付いてしまった色はなかなか落ちない。
そんな困っている俺をみて、隣で富栄がますますケラケラと笑っている。
「章介!」
その時、扉がばんっと開いて、俺の名を呼ぶ聞きなれた声が聞こえた。
俺はずぶ濡れのまま、顔を上げた。
「……よし、なり……? なん、で……」
義成は一目散に駆けてくると、強く俺を抱きしめた。
「どこにいってたんだ!? すごく心配したんだぞ!」
どういう意味だ。
だって昨日の夜、お前は俺を捨てたんじゃないか。
義成の行動の意味が分からず、富栄に視線をやると、富栄はあきれたように言った。
「なにか誤解があるんじゃない? ちゃんと話し合ったら?」
義成は、富栄にお礼を言って店を後にした。
俺だけ事情が呑み込めないままだった。
義成に連れられ、帰りがけに富栄の方を振り返ると、富栄は自分のおでこをぽんぽんと指差しながら、「こんな良い女を振った罰よ」と言って笑った。
俺は思わず自分の額に触れた。
「章介、今回、俺は何度もお前をあきらめようと思った。だが世間からどんなに後ろ指をさされようと、お前と離れる気はない……。ごめん、だからお前の子であろうが、そうでなかろうが、俺から逃げるのを諦めてほしい……」
家に帰る途中、一歩先を歩く義成は振り返らずに言った。
その声には義成の苦悩が含まれていた。
義成を苦しめているのは自分だ。
だがそんな義成の苦しみに、喜びを感じてしまう自分もいた。
「義成……。いい、のか……?」
それは、贖罪を続ける俺の隣を、共に歩んでくれるという意味ととらえてよいのだろうか?
俺は立ち止まって、義成の背中を見ながら問いかけた。
義成も立ち止まって振り返る。
「世界を敵に回しても、俺はお前を手に入れたい。もちろん生まれてくる子に罪はないから、できる限りのことは俺も協力させてもらう」
今度は目を見てはっきりと義成は言った。
「おれ、も……赦されるなら、お前と一緒にいたい……」
ぽろぽろと両方の目から涙が零れ落ちる。
俺達はどちらともなく一歩ずつ近づいて、抱きしめ合った。
溶け合う体温が暖かい。
義成の優しい瞳と視線が交差して、俺はそっと目を閉じた。
唇に肉厚で柔らかいものが触れる。
俺はその優しさを唇で食み味わった。
口内に、舌が進入してきて、俺を求めている。
俺もそれに応えるように舌を絡めた。
義成、俺はお前がいればそれだけで幸せだ。
なぁ、義成。俺は幸せになってよいのか?
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